生徒が校則を作る 子どもに「自力で変革する能力」を授けるルールメイキングとは?

教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#6~中学生編その2~

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳

学校のルールは子ども当事者が中心になって決めること、それこそが子どもたちの幸せにつながると末冨先生は語ります。  写真:アフロ

子ども・若者の権利と幸せをテーマに活動を続けている教育学者で日本大学教授の末冨芳(すえとみ・かおり)先生。

前回(#5)は日本国憲法第12条の持つ意味と、末冨家の長女のエピソードについて聞きました。

学校や友達、先生との付き合いも複雑に成長する多感な中学生の時期、親は何を重んじて子育てをしていくべきなのでしょうか。

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末冨芳(すえとみ・かおり)PROFILE
教育学者・日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。二児の母。

相談できる関係づくりこそが「自立した個人」を育てるために大切

我が家では、長女が小学校や中学校や習いごとの友達とLINEするのは禁止していません。

トラブルがあれば、親に相談する、学校や友達にも迷惑がかかるなら、一緒に親も説明したり、非があれば一緒に謝って、改善すればよいからです。

それはSNSに限らず、今までのどのトラブルもそのように対応してきました。

SNS利用も、小学校でもしっかりと専門家が使い方のルールを教えてくださっており、心配だな、おかしいな、と思うことがあったら、親に聞いてきます。

「お母さん、このメッセージ何?」「あ、それロマンス詐欺だからブロックしといたほうがいいよ」などのやりとりが当たり前です。

トラブルがあったときに相談してもらうためには、親の方も普段から、子どもにも相談してみる姿勢を作っておくことが重要です。

私のスマホやパソコンにも、巧妙なフィッシングメールやSNSの見慣れない外国人からのメッセージなどが届くことはあり、時代とともに変化するスマホトラブルについて「お母さん、あやうくクリックするとこだったよ」など、子どもたちにも伝えて(愚痴を言って)聞いてもらっています。

たとえばスマホだけでなく、仕事、人間関係などのトラブルや困りごとなどについて、家族同士の会話をしたり、子どもにも話をして「どうすればいいと思う?」など、意見を聞いておくことがあたりまえになっていると、子どもも相談しやすいのではないでしょうか。

あまり口数の多くない子どもでも、実は内心、子どもは親のことを大切に思っているものです。親の困りごとがあったときには、「どうすればいいと思う?」など聞かれたら、はっきり答えはなくても、なにかいい方法はないかと、考えるものです。

そのように親からも相談する姿勢を、少しでも心がけていくと、子どもも何かあったときに相談しやすくなるのではないでしょうか。

インターネットの世界は、中学生とはいえ子どもたちが安全と呼べる状況にはまだなっていません。

スマホ利用を含む子ども・若者のインターネットの利用ルールや保護者同意については、EUの定めているGDPR‐Kという子どもの権利を基盤にしたルールでも、論争の対象となっています。

いっぽうで、インターネットにおける個人情報利用を親の同意を前提にしてしまうと、子ども自身が必要な情報にアクセスして、学ぶ成長の機会を奪ってしまいます。

失敗をおそれて「なんでも禁止、とりあえず禁止」ばかりでは子どもから相談したり、対話のできる親子関係や教師生徒関係は育ちません。

校則の悩みや部活の悩みから「エージェンシー」を育てる

中学生の時期こそ、自分自身や社会を変革する力「エージェンシー」が成長する時期になります。

子どもの意見や声を大切にし、子どもたちが自分で変革を起こすための能力である「エージェンシー」を、成長させていくことはとても重要であると私は常々、伝えています。

校則の悩みや部活の悩みこそ、生徒の意見や声を聞き、子どもの意見を尊重しながら、教員や保護者も丁寧にかかわって一緒にルールを作ることで、子どもにも、そして大人にも「エージェンシー」が育つ格好の材料なのです。

実は日本でもそうした取り組みが進んでいます。

校則見直しや、先進的なICT教育で知られる熊本市の遠藤洋路(えんどう・ひろみち)教育長は、学校教育を通じて子どもたちが自分たちの「エージェンシー」を育てることを重視した教育改革を行っておられます。

民主主義を担う力が「エージェンシー」であり、そのためには、たとえば校則について「自分が作ったルールを守る経験」を通じて学ぶことが重要だとご著書(※1)でおっしゃっています。

〈民主主義の基本を実践する場であるならば、学校のルールである校則づくりに子供たちが参画することは極めて当然のことです。しかしこの当然の事が、これまで日本の学校では十分に行われてきませんでした。

校則づくりに子供たちが参画することで、校則を守る意味も変わります。同じルールを守るのでも、他人が作ったルールを守るのと、自分が作ったルールを守るのでは意味が違うからです。後者こそが民主主義というものです。

そのため校則について子供たちが議論し実際の学校に反映する仕組みを学校教育の標準装備にすべきだと考えます。〉

※『みんなの「今」を幸せにする学校 不確かな時代に確かな学びの場をつくる』(著:遠藤洋路/時事通信刊)より引用

熊本市の教育改革が重要なのは、ルールを守ることが目的なのではなく、子どもも大人も、みんなの「いま」を幸せにするために、学校は何をすればよいのか、そのためにより良いルールとは何かを考えるために、校則の見直が進んでいる、ということです。

私も遠藤教育長のこの考え方や改革が、これからの日本の当たり前になっていくだろうと予測しています。

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