「小1の壁」をどう乗り越える?  力を入れすぎず親がやるべき務めとは

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室【14】「小学校でやっていけるか不安」

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

埼玉県のとある公園で孫のF菜ちゃんとお花見。石原ジイジが構成を担当した林家木久扇さんの最新著書『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)や、『週刊新潮』の連載「令和の失礼研究所 #これってアウト?」も必読。 写真:おおしたなつか

パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。

500冊を超える人生相談本コレクターで、3歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回は、「小学校でやっていけるか不安」というママ(6歳男児の母37歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

※過去の悩み相談はこちら

児童精神科医・佐々木正美は親の不安を指摘

「小学校で我が子はちゃんとやっていけるのか」――。この時期、新1年生のパパママは日々、不安にさいなまれずにはいられない。

小学校に入ると保育園や幼稚園の頃とは、子ども自身の環境も親の役割も大きく変わる。相談者は、小学校に入学した引っ込み思案で気弱な我が子が心配でならないという。

同じ悩みに対して、人生相談はどう答えているのか。

最初に参考にする人生相談は、6歳の女の子と2歳の男の子の母親からの「来春小学生になる娘の、『小1の壁』が気がかりです」という相談。

「小1の壁」というと親の仕事と育児の両立問題がよく言われるが、この母親は、子どもだけの登下校になることや、今は園での様子を毎日のように聞けているがそれがなくなることに不安を抱いているようじゃ。

児童精神科医の佐々木正美さんは、それぞれの具体的な不安を和らげる方法を指南しつつ「親の不安を表わし過ぎないこと」が大切だとアドバイスする。

〈子どももさまざまですから、すっと学校になじめる子とそうでない子がいます。それは「個性」ともいえるのですが、私は「親に対する安心感の大きさ」とも多少の関係があると思います。(中略)十分に保護され、守られて育った子ほど、のびのびと新しい世界に飛び込んでいけるものだと私は思っています。(中略)親の不安を子どもに伝えすぎてしまうと、子どもの不安も強くなってしまいます。逆にいえば、親が心配することで、その心配を現実のものにしてしまうという側面もあるのです。不安の強い子どもは、やはり親の不安も強いものですから〉
(初出:雑誌『Como』の連載。引用:佐々木正美著『佐々木正美先生の子育てお悩み相談室』2016年、主婦の友社)

佐々木先生は「頭で考えるのではなく、実際の小学生親子を見て、話を聞くことから始めてみましょう」とも。不安を抱くのは仕方ないが、親がオロオロしていたら、子どもはさらに激しくオロオロするしかない。

この回答は、遠回しに「心配なのは子どもよりもむしろ親の側だ」と諭してくれているようにも読める。必要なフォローはしてあげるとして、表面上は無理してでもデンと構えるのが、親の務めではなかろうか。

先回りの心配は取り越し苦労で終わる

新年度の環境の変化に対する不安は、幼稚園などに入学するときも同じである。2人目は、我が子の入園を控えて「協調性がないところがあるので、友達にイジメられはしないかと」不安を抱いている母親。

「しばしば正義の味方になったつもりでお友達を倒してしまったり」することがあり、「性格を何とかしなければ」と思い悩んでいるとか。昭島恵泉幼稚園園長(当時)の若松安子さんは、こう答える。

〈親としてのご心配の気持ちはわかりますが、結論から言えばお母さんのご心配は取り越し苦労です。先回りして心配するのはやめましょう。(中略)新しい環境は、お子さんに新しい興味も呼び起こさせます。そのような中で、友達との関わり方も、遊びの内容も、これまでとは違ったものになっていきます。(中略)「子どもを幼稚園生活に合わせなければ」ではなく、「親子で幼稚園生活を楽しもう」と、そんなふうに、お母さんの気持ちを切り替えてみてください〉
(引用:育児文化研究所編『幼稚園のころのママの悩み相談100』1999年、赤ちゃんとママ社)

「幼稚園に入るまでに、何かを整えておかなければいじめられる子になる、などと考える必要はありませんし、まして、性格を直そうなどと試みることなど、全く無用です」とも。

小学校でも中学校でも、もっと上の学校でも、このアドバイスは当てはまるだろう。「取り越し苦労」は親の得意技のひとつじゃが、残念ながらそれが役に立つ場面はほぼない。

子どもには子どもなりの解決方法がある

3人目は7歳の男の子、6歳の男の子、2歳の女の子の母親。もうすぐ小学校に入学する6歳の男の子が「個性があまりにも強くって」「集団行動ができないんじゃないかと」心配している。虫が好きで幼稚園でも昆虫の話ばかりしているとか。

精神神経科医の石川憲彦さんは、マイペースっぷりをホメたたえつつこんな言葉をかける。

〈考えようによっては個性としていいけど考えようによっては悪いって場合にね、悪いほうをとる必要はないと思いますね。親が悪いほうを中心に考えたら、子どもとしてはいつも怒られてしんどいでしょう。(中略)親として見てあげてほしいのは、当人が実際に困った時ですね。当人が困って悩みだした時に、「ちょっと困った」「どうしようかなあ」という“助けて”をね、大人にいいたい時があるんです。そういう状況に子どもが来てるかどうかだけは、見てあげる目を親が持っていると子どもは楽だと思うんだけど〉
(初出:NHKラジオ『こどもと教育電話相談』。引用:NHKラジオセンター、NHKプロモーション・企画監修『NHKこどもと教育電話相談』1991年、ブロンズ新社)

相談者は自分自身もマイペースな性格で、大人になって自信をなくした経験があり、「この子もそうなるんじゃないか」と気になったとか。

それに対して石川先生は「みんなどこかで自信をなくします。(中略)その時はその時、それはこの子の人生のぶつかりかたで、今からお母さんがそこまでは考えなくていいでしょう。(中略)この子なりのやりかたで解決していきます」と答えている。

たしかに、どこでどう自信をなくすか、それをどう乗り越えていくかは、親がどんなに心配したところで予想も関知もできない。

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