助産師が正す【臨月時の誤情報】「出産間近は胎動がなくなる」は間違い

助産師・田中まゆ「妊娠から子育てまで それ間違ってます!」〜出産前の胎動〜

助産師・思春期保健相談士:田中 まゆ

臨月になって胎動が減ったと感じたらすぐ病院に連絡すべきと助産師・田中まゆさんは伝え続けています。 写真提供:本人

妊娠・出産に関してインターネットで検索するママは多いでしょう。助産師で性教育の普及に務める田中まゆさんは、ネット等で根強く広まっている間違った妊娠の知識を危惧しています。

大きな危険にもつながりかねない臨月時の誤った情報とは?

10年以上訂正し続けても変わらない誤情報

助産師になって10年以上、妊婦さんたちに常々、訂正してきたことがあります。それは、「臨月に入り、出産が近くなると胎動が減ってくるもの」という認識違い。

それに対し、私たち助産師や産婦人科医たちは

「胎動が少なくなることは、赤ちゃんの元気がなくなっているサインかもしれないから、少ないと感じた時は病院に連絡を」

と妊婦さんたちに必ず伝えています。これは私が助産師になる前からずっと行われていることです。

こんなにも訂正し続けているのに、なぜこの認識違いがずっと続いているのか。そんな思いでツイートしたものが反響を呼び、まだまだ妊婦さん向けの情報サイト等で多く書かれていることがわかりました。

助産師・田中まゆさんが2022年4月に発信したツイート。

改めて、臨月の赤ちゃんの胎動についてまとめると以下が正しい情報です。

【臨月の胎動とは】
●赤ちゃんが元気である限り胎動がなくなることはない。
●胎動の感じ方には個人差がある。
●胎動が以前より極端に弱いと感じるときは、早急に病院へ連絡。

妊娠アプリや妊婦向けサイトに誤情報がはびこっている

最近の妊婦さんは、妊娠・出産の情報をマタニティ向け雑誌や書籍だけでなく、アプリやウエブサイト、妊婦同士の交流サイトなど、インターネットで得ることが増えてきました。

前述のツイートに対して、多くの方が、「出産間近に胎動が少なくなるとネットで見た」とコメントしていました。

私も見てみましたが、ネット上の情報は実にさまざま。出産が近い兆候として「胎動が少なくなる」と書かれているものや、「胎動がおさまることが多い」としつつも個人差があること、読み進めると心配な時は病院を受診するように書かれたものなど、表現のニュアンスにも幅があります。

読み手の受け取り方によって多少違いが出ますが、多くはやはり「臨月に入り出産が近くなると胎動が少なくなるもの」だと受け取れます。

私たち医療従事者がいつも訂正している誤情報が、これほど多く書かれているのはどうしてでしょうか? 

「胎動が少なくなる」の真相は

胎動そのものは、妊娠9週(妊娠3ヵ月)ごろからみられますが、その頃はもちろんまだ赤ちゃんが小さすぎて、妊婦さん側は胎動を感じることができません。

胎動を自覚するようになるのは、初産でだいたい妊娠16~20週(妊娠5ヵ月〜6ヵ月始め)頃。また、経産婦さんの方が初産婦さんよりも早い時期に胎動を感じ始めることもあります。

「胎動が少なくなる」の“俗説”はどこから来ているのかというと

【出産が近くなると赤ちゃんの頭が下がって骨盤内に入り、頭が固定されることで体の自由が制限され、それまでよりも胎動が少なく感じられる】

という理由からです。じゃあこれが全くの間違いなのか? と言われると、必ずしも間違いというわけではありません。

出産が近くなることで赤ちゃんの頭が骨盤内に固定されることは、出産までの過程で実際にあります。

出産に向けて、(頭が固定されるまでいかなくても)赤ちゃんの位置が少し下がっていくことで、今まで感じていた胎動とは違った感じ方になることもあり、妊婦さん自身が感じる胎動回数の統計を取ると胎動回数は緩やかに減少していくとされています。

ただ、これに関して注意しなければならない点があります。

・胎動そのものや感じ方にはそもそも個人差がある
・赤ちゃんの頭が骨盤内に固定されるのは出産直前になったとき


感じ方に個人差があるものですから、すべての妊婦さんが必ずしも「胎動が少なくなってきた」と感じるとは限りません。

そして、赤ちゃんの頭が骨盤内に固定するのは、内診(膣からの診察)で、赤ちゃんの頭がちょっと触れるほど下がっている状態を指します。

単に“臨月に入った”というだけでは赤ちゃんの位置はそこまですぐ下がりませんし、前駆(ぜんく)陣痛など、他の出産の前兆も合わせて赤ちゃんの下降は始まっていくものです。

赤ちゃんの体の動きそのものが減るというより、個人差もある中で、妊婦さんの感覚として胎動を少なく感じることがあるかもしれない、というのが「胎動が少なくなる」説が広まった真相なのでしょう。

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