人気「ジェンダーフリーおもちゃ」で女の子もDIY! 大人の固定概念を覆す

おもちゃ業界が育む「ジェンダーフリー」と「ダイバーシティ」#1

ライター:遠藤 るりこ

子どもたちが性別にとらわれることなく、好きなおもちゃで遊べることができるよう、おもちゃメーカーの「ジェンダー」に対する取り組みがはじまっています。 写真提供:パイロット社

大人は、子どもの性別で遊びやおもちゃを選びがちです。男の子だから乗り物や恐竜が好きだろう、女の子だからお人形やおままごとが好きだろう、と勝手に解釈をし、おもちゃを与えてしまうことがあります。

しかし、近年、おもちゃ業界では子どもたちが性別の枠にとらわれずに、自由に好きなおもちゃで遊ぶができるジェンダーフリーな商品開発や取り組みが行われています。

連載第1回目では、ピープル株式会社(以下ピープル社)、株式会社ボーネルンド(以下ボーネルンド社)、株式会社パイロットコーポレーション(以下パイロット社)の事例をご紹介します。
全3回の1回目

ジェンダーフリーの波はおもちゃ業界にも

2021年10月、アメリカ合衆国のカリフォルニア州で、従業員500人以上の大規模小売店に対して「性別の明記のないおもちゃ売り場の設置を義務付ける」という法律が成立しました。

この法律は、子ども商品のジェンダーバイアス(=性差に対する固定概念や偏見)に対処することを目的としたもの。男女別コーナーの設置を禁止するわけではないけれど、それに加えて男女どちらでもない「ジェンダーニュートラル」な売り場も作らなければならない、という内容です。

そんな世界の流れに追随するように、日本のおもちゃ業界も変わってきています。日本玩具協会が毎年主催している「日本おもちゃ大賞」では、2021年から「ボーイズ部門/ガールズ部門」の区分けが撤廃されました。

そして各おもちゃメーカーでも、性別の枠にとらわれずに遊べる商品開発や取り組みが行われ、子どもたちの心をつかんでいます。

子どもはいつから「性」を意識するのか

2021年にレゴ社が行ったオンライン調査(※1)では、「自分とは違う性別向けのおもちゃで遊ぶことについて、男の子の71%、女の子の42%が『からかわれるのではないか』と心配している」との結果がでました。

※1「レゴ社のオンライン調査」=国連の国際ガールズデーを記念し、世界7ヵ国(中国、チェコ共和国、日本、ポーランド、ロシア、英国、米国)6~14歳の約7000人の親子におこなったもの(英語サイト)。

結果には男女で差があるものの、子どもたちの多くが、おもちゃに「性別」を感じていることがわかります。しかし一方で、赤ちゃんのころは性別に関係なく好きなおもちゃで遊んでいる子どもが多くいます。

知育人形・ぽぽちゃんを販売するおもちゃメーカー・ピープル社の広報・川端麻美さんは、興味深いエピソードを聞かせてくれました。同社社長の息子さんが小さな時のお話です。

「社長の息子さんは、小さな頃からぽぽちゃんで遊んでいました。しかし、年少くらいからすこしずつ隠れて遊ぶようになり、『どうしたの?』と聞くと『これは女の子のおもちゃだから』と、子ども自らがぽぽちゃんを遠ざけるようになったのです。

赤ちゃんのときは性差なく『自分の本当に好きなもの』で遊んでいたのに、いつのまにかそれができなくなってしまう。親や周りの大人の何気ない一言が、子どもの可能性をつぶしてしまっているのではないだろうか。

すべての子が、自分の判断で好きなおもちゃを選べるように、理解のある社会にしないといけない、と強く感じたそうです」(ピープル社・川端さん)

本当は好きなのに、性別によって遊びを制限されてしまうのは子どもの伸びしろを縮める残念なことかもしれません。子どもたちがそんな性差から自由になれるよう、おもちゃ業界ではさまざまな取り組みが始まっています。

おままごとは男の子だって楽しい

世界中のおもちゃをセレクトするボーネルンド社の広報・西山千夏さんは、日本の販売店での印象深い親子のエピソードを聞かせてくれました。

「店頭で接客中におままごとの説明をすると、『うちは男の子だから……』、乗り物や大工道具の玩具の説明をすると『うちは女の子だから……』という答えが返ってくることは、少なくはありません。

あるお客様からは、『男の子なので、家ではままごと遊びをほとんどしていません。でも幼稚園に行くと必ず楽しそうにキッチンで遊ぶんですよね』という声もありました。

実際に、子どもたちは店頭のサンプルで男女関係なく、やりたい遊びに夢中になっています。大人たちはその姿を見て、『こんなに楽しそうに遊ぶなら、子どもの好きな遊びをさせてあげよう』と気づき、購入されることもあるのです」(ボーネルンド社・西山さん)

その代表的な玩具が、1993年日本発売のキッチンセンター。「男の子が台所でおままごと遊びをすることは、決しておかしなことではありません」と西山さんは言います。

ロングセラー商品の、キッチンセンター。「男児・女児問わず楽しめるカラーリングは、パッとつかめるように、機能部分にだけ色がついています。子どもの直感にうったえる計算された配色です」(ボーネルンド社・西山さん)。 写真提供:ボーネルンド社

「店頭ではキッチンセンターで遊んでいる男の子がたくさんいますよ。なりきり遊び、ごっこ遊びに男女の区別はないのだと感じています。

子どもたちは、おままごとや大工遊びを通して大人の疑似体験をし、役割意識や協調性、モノを大切にする心、想像力や道具の使い方を身に着けていきます。性差なくいろいろな遊びを体験することは、子どもたちにとって大切なことなのです」(ボーネルンド社・西山さん)

男児を持つママ社員からの意見で商品化

お世話遊びで人気の知育人形・メルちゃんを販売するパイロット社では、とある︎女性社員からの声が上がったのがきっかけで、シリーズに新しいキャラクター「あおくん」を追加しました。

2022年2月に新しいお洋服とボール付きでリニューアルした「あおくん」。メルちゃんのお友達で、さわやかな笑顔がすてきな男の子! 写真提供:パイロット社

「男児を持つ女性社員から『うちの子もメルちゃんでお世話ごっこをして遊びたいのだが、ピンクのパッケージのおもちゃを買うのは抵抗がある』との声がありました。

当時(2016年時点)は、まだジェンダーフリーという考えがそこまで社内で浸透していなかった時代。ピンク色がブランドカラーのメルちゃんシリーズは、まだまだ女の子をターゲットにしたおもちゃという認識がありました。

売場で目を引くピンク色のパッケージを長年続けていた中で、水色のパッケージにして果たしてよいのか、女児にも男児にも受け入れられる商品になるのかを議論をしながら、新商品・あおくんを企画しました」(パイロット社・土井菜摘子さん)

リリース後、それまでは購入者から届くアンケートはがきで、「メルちゃん」購入の男児の割合は最大で2%だったのが、「あおくん」では15%の男児購入という結果が出ました。これは開発を担当したパイロット社の方々にとっても驚きの結果だったと言います。

「あおくんが子どもたちにすんなり受け入れられたのは、男性の育児参加が増えたのも大きな影響なのではと思います。男の子たちも自然と、お世話遊びを楽しめるようになっていると感じますね」(パイロット社・土井さん)

カラフルなバリエーションから好きな色を

メルちゃんシリーズは、多様性を意識して年々アップデートされています。

「2016年当時は、男児を意識した水色のテーマカラーで『あおくん』を発売しましたが、いまは男女関係なく、好きな色がそれぞれあるだろうという考えに至りました。

メルちゃんの友達は、紫や緑など多様なパッケージカラーで展開しています。子どもたちにはカラフルなお人形たちから、自分の好きなお人形を選んで遊んでもらえたらと考えています」(パイロット社・土井さん)

着せ替えの洋服も、男女どちらでも似合うようなものを展開。現在(2022年)のメルちゃんシリーズは、性別関わらず子どもたちが好きな色・好きなお人形を選べるように多種多様なカラーのキャラクターを揃えています。

性別を越えて遊んでほしいという願いをこめて、パッケージイメージに男女の子どもを採用するおもちゃも増えている。 写真提供:パイロット社
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