アリ探求家・島田拓 子どもを夢中にさせるあまりにユニークな仕事の中身とは?

「公園が100倍楽しくなる“アリ道”入門」#1〜「アリ探求家」の仕事編〜

南米ペルーでアリを捕獲中の島田さん。指でつまむとつぶれてしまうため、「吸虫管(きゅうちゅうかん)」を使ってアリを吸い込んでいます。  写真提供:島田拓

日本でただ一人“アリ探求家”を名乗る島田拓さん。アリにのめり込むあまりに、アリの通販専門店「AntRoom(アントルーム)」を開設するなど、“アリ”を仕事にしてしまった人物です。

アリの生体や飼育キットの販売をしたり、写真集の制作などアリの魅力を発信し続けたり、そのユニークな活動は虫好きの子どもたちを中心に注目を集め、2021年6月には人気ドキュメンタリー番組『情熱大陸』(MBS)にも出演しました。

それほどまでに島田さんをとりこにした、アリのおもしろさとは? 
どこの公園でも見つかる、この小さな虫の大きな魅力を語ってくれました。

ムネアカオオアリ。島田さんが撮影すると、おしりや脚に生えている毛もよく見えます。  写真提供:島田拓

女王アリとの出会いが人生を決めた

まず、アリ探求家とはどんな仕事なのか、どのような経緯で“アリ”を職業にすることになったかを教えていただきました。

「普段はアリの通販専門店『AntRoom』で、飼育キットの『蟻マシーン』や、さまざまな種の生きた女王アリや働きアリなどを​販売をしています。あとは、アリにまつわる本の制作やアリの写真撮影などがおもな仕事です。

アリに興味を持ち始めたのは中学生頃です。子どもの頃から生き物が好きで、高校生になると、ペットショップでアルバイトを始めました。僕が担当していたのは、犬や猫ではなく、コウモリやハリネズミ、は虫類などです。

その時の接客体験を通じて、初めて、『自分の好きなものの魅力を誰かに伝えること』を経験しました」

ちょうど同じ頃に、島田さんはたまたま訪れた山で、女王アリを見つけ衝撃を受けます。

「その女王アリを家に連れて帰って飼育していたら、卵を生み、育て、働きアリになりました。アリが子育てをすることは知っていたものの、人間のように大事に子どもを育てる姿を目の当たりにしたら、感動してしまって。そこからアリにのめり込むようになりました」

アリについて調べ始めてみると、意外にも多くの種類がいることを知った島田さん。慣れ親しんだ公園の見え方も変わったといいます。

「幼い頃から通っている近所の公園にアリを探しに行ったら、さまざまな種類のアリが目につきました。『アリを探そう』と意識すると、身近な公園でもさまざまな種類のアリを見つけられると気づいたのです。

その後もペットショップでアルバイトを続けながら、ほぼ趣味でアリを飼育していました。5年くらい経った頃に『アリのおもしろさをもっとたくさんの人に知ってもらいたい』と思うようになり、友達にホームページを作ってもらいました」

そして、2001年にアリの通販専門店「AntRoom(アントルーム)」をスタート。石膏や粘土を使って手づくりしたアリの飼育キット「蟻マシーン」の販売も始めましたが、当初は注文がまったく来なかったそうです。

「そもそも、サイトを見てくれる人がほぼいませんでした。でも、自分の好きなことをしていることに満足していたので、『蟻マシーン』で稼ごうとは思っていなくて。注文が来なかったり、サイトの閲覧者が少なかったりしても、まったく気になりませんでした」

島田さんさんの背後には、飼育キットの「蟻マシーン」が。このなかで、たくさんのアリが生活しています。  ZOOM取材にて

マイペースに好きなことを追求していた島田さんには、二つの転機がありました。

「画家の友達に『蟻マシーン』を見せたら、『島田くん、これすごくおもしろいよ。今度、絵の展覧会をやるから、一緒に飾ろう』と誘ってくれました。展示会場は渋谷や原宿のおしゃれなカフェやバーで、来る人も友達の絵を見に来ている人ばかりです。

アリはすごく身近に存在している虫ですが、女王アリを見たことがある人も少なければ、実際にどんな暮らしをしているのかを知っている人もほとんどいません。

そこで、『蟻マシーン』を見てもらいながらアリについて話すと、本当にたくさんの人が興味を持ってくれて、実際に飼育をしてくれた人もたくさんいました。そこから少しずつ認知が広がっていきました。

もうひとつのきっかけは、原宿の洋服屋が店舗の一角に『蟻マシーン』を置いてくれていて、それが編集者の目に留まって雑誌に掲載されたことです。そのときは、結構反響がありましたね」

「蟻マシーン」は、「2号ミニ」(高さ145mm×横110mm 7,700円〜)から、「3号特大」(高さ240mm×横320mm×奥行き55mm 32,780円〜)まで5種類あり、生きたアリとのセット売りもしている。 写真提供:島田拓
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