“人見知り”は成長の証 赤ちゃんの謎行動を発達心理学者が解説!

発達心理学者・坂上裕子教授「謎行動にはワケがある。もっと知りたい赤ちゃんの気持ち」#3~乳児後期編~

発達心理学者:坂上 裕子

「子どもがおもしろいと感じていることがわかれば、親は子育てが楽しくなってくるはず」と坂上裕子教授。
写真:アフロ

おもちゃで遊ぶようになる生後7~11ヵ月の乳児期後期、「遊んでいたおもちゃを突然投げる」など、楽しんでいたのに何が不満なのか、意味がわからない赤ちゃんのアクションに悩む親は多いと思います。

青山学院大学で「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」などのテーマを専門に研究を行い、臨床発達心理士としても活躍されている坂上裕子教授に、乳児後半期(生後7~11ヵ月)の赤ちゃんの、不思議な行動=“謎行動”について伺います。

あわせて、生後7~11ヵ月頃の子育てに対して疑問や不安を持つ親が、育児を前向きに楽しめるようになるアドバイスもご紹介します。

人や物の区別ができるようになると 人見知りが起きる

「生後7~11ヵ月頃の乳児は、徐々に人や物の区別ができるようになり、より一層周囲への関心が高まる時期」と坂上教授は言います。

「例えばスマホや絵本など、親がよく手にしている物が目に入ると、手に取って舐めまわすことがあります。これは、見慣れている物が何なのか気になり、五感を使って知ろうとしているのです」(坂上教授)

この時期の乳児は、対象物を知るために五感を駆使します。それは、対象が人であっても同じ。人の区別がつき、一緒にいて安心できる人が誰なのかわかるようになると次なるステップ、人見知りが始まります。そこにも親の疑問は付きものです。

<Q1>
初対面でも人見知りをする相手としない相手がいるのはなぜなのでしょうか?

<A1>
「乳児には“気質”といって、生まれ持った反応の仕方の個性があります。大人でも、初めて行く場所や初めて会う人に対して苦手意識を持つ人がいますよね。赤ちゃんも同じで、人見知りをする子もいれば、あまりしない子もいるのです。

気質は、周りの環境を受けて年齢とともに変化することもありますが、年齢が低いうちは変わりにくいとわかっています。親が何か特別な働きかけをして人見知りがなくなることは通常ないため、もし他人を見て泣き出すことがあっても無理に直そうとしない方が良いのです。

離れて暮らす祖父母とテレビ電話をひんぱんにしていたにもかかわらず、いざ直接対面すると赤ちゃんが泣き出してしまった経験はありませんか? それは、乳児は五感を使って対象を認識するため、画面越しに見ていた相手と実際に対面した相手を同じ人だと認識していないためだと考えられます。

例えば、ミッキーマウスなどのキャラクターを好きな幼い子どもが、テーマパークで実物を見て泣き出してしまうことがよくあります。絵本やテレビなど平面で見るのと、対面で会ったときに五感で感じるのでは、赤ちゃんに伝わる情報は大きく異なるのです」(坂上教授)

顔を見る回数が増えたからといって、それは単に“見知った”状態になるだけ、と坂上教授は言います。相手に対して慣れてもらうためには、実際に触れ合って五感で相手を知る機会を多く設ける必要があるそうです。

記憶力は発達しているけど理解はこれから

乳児はこの頃になると、例えば何かを上手くできたときに「パチパチ」と拍手して褒めたり、人を見送るときに「バイバイ」と手を振ったりといった動作を大人がすると、次第にそれをまねるようになります。

さらに1歳近くなると、目で見た動作を時間が経ってから再現する「延滞模倣(えんたいもほう)」という行動が見られます。これも乳児の記憶力が発達している証の1つですが、そんな乳児の行動に意図はあるのかどうか、親は気になりますよね。

<Q2>
一緒に遊んでいるときや、ごはんを食べているときに、突然『パチパチ』『バイバイ』といった動作を始めるのはなぜでしょうか? 『ごはんを食べたから褒めてほしい』『この遊びをもう終わりにしたい』というような意図があるのでしょうか。

<A2>
「この時期の赤ちゃんは、動作自体の持つ意味をまだ正確にはわかっていない。『延滞模倣』をするタイミングが、たまたまそのときだったのかもしれません。

例えば、赤ちゃんがおもちゃで遊んだ後に、親が『よくできたね』と拍手をしても、それが褒められて拍手されているのだとは思っていません。一連の動作のつながりとして、このおもちゃで遊んだら拍手をするもの、と認識しているのです」(坂上教授)

次のページへ 生後10ヵ月は赤ちゃんにとって大きな節目
12 件