イヤイヤ期はどうして起こるの? ストレス解消・リフレッシュ編

公認心理師・佐藤めぐみさんインタビュー 第3回

公認心理師:佐藤 めぐみ

自我の発達に大切な期間とはいえ、「イヤイヤ期」は本当に大変! ところかまわず泣き叫ぶ子どもとの日々でストレスをためてしまうお父さん、お母さんも多いのではないでしょうか。第3回では、「イヤイヤ期」の対応で心に余裕がなくなり、イライラしてしまったときはどうすればよいか。育児ストレスに悩む心のケアを目的とした『ポジ育クラブ』を運営する公認心理師の佐藤めぐみさんに、お父さん、お母さんのリフレッシュ法を教えてもらいました。

育児に役立つ心理学を発信する公認心理師の佐藤めぐみさん
写真提供:本人

イヤイヤ期がつらいときは無理せずまわりに甘えて

――子どもがイヤイヤばかりで疲れてしまった場合はどうすればよいでしょうか。

「ずいぶん環境が変わったとはいえ、日本はまだまだお母さんひとりで育児を背負っている部分が多いですよね。できれば夫婦間で助け合えるのが理想ですが、難しい場合のほうが多いかと思います。もしおじいちゃんやおばあちゃんなど身近に育児を手伝ってくれる方がいるなら、少し甘えてSOSを発信してください。ひとりで抱え込むのは大変過ぎる時期ですから。

『心理的リアクタンス』という言葉があるのですが、人間は自由度が狭められたと感じると一旦抵抗することで自分を保とうとすることがあります。もともと自分の意思で自由に決定し、行動したいという欲求があるため、自分の自由度が奪われた感覚に陥るととっさに反抗し、奪われかかった自由を取り戻そうという心理が働くのです。自己防衛の一種とも言えるでしょう。
例えばお店で洋服を見ていて“これいいな”と思っているときに店員さんから、“お似合いですよ”“いかがですか”と強く勧められると、“一旦考えます”と店を出てしまう。まさに『イヤイヤ期』の子どもと一緒で、自分で決めたい心理が強い分、人に決められた、もしくは決められようとしていることに対して拒絶反応が起きやすいんです。
夫婦間でも同様で、“~して”という命令形だと『心理的リアクタンス』が働く場合が多く、“~してくれると助かる”という言い方のほうが、相手に伝わりやすくなります。“なんでそこまでしなくちゃいけないの”と思いつつも、とにかく家庭内の家事、育児などを回すことが大事だと思うので、言い方を工夫することで改善する部分は上手に活用してはどうでしょうか」

ママ友と「イヤイヤ期あるある」をシェアしてストレス解消!

――イヤイヤ期の子どもと心理的には同じということですね。

「ただ、それでもうまくいかないことも多いと思います。だからみなさん悩んでいるんですよね。以前、夫がまったく子育てに関与してくれないという方から相談を受けました。一からイクメンにするのには本当に労力がいること。そういう場合は、お母さん自身が自分のサイクルを作ることで育児を回していくという方向性もあるとお伝えしました。割り切って自分を上手く回すようにしたほうが楽なパターンもあるからです。例えばお皿洗いを頼むのではなく、食洗機を買うなどして家事の時間を少しでも減らす。そうすると心に少しゆとりができ、子どものイヤイヤへもうまく対応できるようになることが多いんです。時間のゆとりは心のゆとりに直結しやすく、また心のゆとりが子どもへの対応に直結しやすいからです」

――家事の負担の軽減ももちろん必要ですが、子育ての苦労など、お父さんと大変な思いを共感したいという部分もあるかと思います。

「もちろんそうだと思います。お父さんと負担をシェアして共感もできるのが理想ですよね。でも、環境が似ているママ友と共感しあう時間を持つ、というのもひとつの選択肢にしてはどうでしょうか。ママ友とだと出産がどれだけ大変だったかなど、”出産・育児あるある”が盛り上がりますよね。『イヤイヤ期』も同じように“イヤイヤ期あるある”をママ友たちと話せたら、他のママたちもみんながんばっているな、と気持ちが少し軽くなるかもしれません。

また、育児に悩むお母さんは孤独になりがちなので、SNSなどもうまく活用できたらいいですよね。家族ではない第三者に思いを聞いてもらうだけでリフレッシュできることもあるかと。
それでも“もうお手上げ!”と思ったら、ストレスをひどくする前に誰かに助けを求めてもらいたいです。私が運営している『ポジ育クラブ』にも、育児ストレスで悩むお母さんがたくさん参加しています。心理学的なストレスのコントロールの仕方など、心理学を学ぶことで育児が少しラクになることもあるので、興味のある方はぜひ覗いてみてください」

写真:アフロ

思い切って子どもと一緒に自分の趣味を楽しんでリフレッシュ

――子育てに心理学を取り入れるという考え方はいいですね。

「私自身が心理学を学んだあとに出産したので、わりと心理学的な思考でセルフ・コントロールができたんです。それ以前に出産していたら、まったく違う子育ての仕方だったろうなと思います。子どもによって性格も発達も違うので、簡単には比較はできませんが、知識を得ることで解決できることはたくさんあります。子どもの心の発達の仕方がわかると、“〇か月のときはこう接するのがポイント”、“〇歳になったら○○を心がけるといい”というように、年齢ごとの接し方に自信が持てるようになります。多くのママが、“叱ったら傷つけるのではないか”とか、“ほめ過ぎたら調子に乗るのでは”など、何をどこまでやるのがちょうどいいのかで迷い、それをやり過ぎてしまったり、逆に抑えすぎてしまったりして、バランスを損ねていることが多いと思います。そのバランスの取り方を論理的に説明できるのが心理学の魅力です。“なぜそれが必要なのか”という論理がしっかりとあるので、空回りが起きにくくバランスがとりやすくなります」

――そのほかに何かいいリフレッシュの仕方はありますか?

「イヤイヤ期の真っ最中はあまり趣味に時間を取れないので、思い切って子どもと一緒に自分の趣味を楽しむのもいいと思います。子どもはおもちゃよりも本物が好きなので、たとえばママの趣味が手芸だったら、毛糸などの危なくない道具を実際にさわらせてみるとか。“子どもの遊びにつきあわなくちゃ”ではなく、興味が持てそうなことを一緒にやってあげる。お料理をする前に本物の野菜をさわらせて教えるのもいいですよね」

「イヤイヤ期」は子どもの心の中の大工事中。その工事の進行を見守ること

――最後に、「イヤイヤ期」で悩んでいる親御さんたちにメッセージをお願します。

「親の私たちは子どもの“イヤイヤ”ばかりが目につきますが、子どもたち自身は心の中の大工事を行っている真っ最中です。“イヤイヤ”はその大切な大工事の騒音(!)と考えて、“この子の自立を促せているかな?” という視点でお子さんを見守ってあげてほしいと思います。そうすることで、必ずやその工事はいい形で進行していきます。子どもの『イヤイヤ期』は親の『イライラ期』。ヘトヘトの毎日だと思いますが、嵐は必ず過ぎ去ります。機嫌よく過ごしている時間もあるので、お子さんのいいところに目を向けられると気持ちが少しほっこりしやすくなります。本当に大変な時期だと思いますが、休めるときがあれば休んで乗り越えてください。今回お話したことの中で、何か役に立ちそうなことがあればぜひ実践してみてくださいね」

取材・文 石本真樹

さとう めぐみ

佐藤 めぐみ

公認心理師

0~10歳の子の育児に役立つ心理学を発信する公認心理師。英・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会認定心理士。自身が運営する『育児相談室・ポジカフェ』では、子どもの困った行動に悩むご家庭向けの行動改善プログラムや育児ストレスのカウンセリングを行う傍ら、学びの場『ポジ育ラボ』にてスマホで受講できるオンラインの子育て心理学講座を配信中。2020年11月、コロナ禍で育児ストレスを抱えるママが自分の心のケアを学べる『ポジ育クラブ』をスタート。テレビ・雑誌などのメディアや企業への執筆活動を通じ、子育て心理学でママをサポートしている。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。海外経験が長く、諸外国の子育て事情にも詳しい。

0~10歳の子の育児に役立つ心理学を発信する公認心理師。英・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会認定心理士。自身が運営する『育児相談室・ポジカフェ』では、子どもの困った行動に悩むご家庭向けの行動改善プログラムや育児ストレスのカウンセリングを行う傍ら、学びの場『ポジ育ラボ』にてスマホで受講できるオンラインの子育て心理学講座を配信中。2020年11月、コロナ禍で育児ストレスを抱えるママが自分の心のケアを学べる『ポジ育クラブ』をスタート。テレビ・雑誌などのメディアや企業への執筆活動を通じ、子育て心理学でママをサポートしている。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。海外経験が長く、諸外国の子育て事情にも詳しい。