【さんぽセルと西原さん騒動】教育学者が見る子どもを軽視する大人たち

教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#4〜「個」の尊重と小学生の信頼関係〜

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳

子どもの写真や動画、おもしろい出来事をSNS等で発信するする前に少し意識するべきことを末冨先生に教わりました。  写真:アフロ

「こども基本法」の必要性と子どもの権利の大切さを強く唱える教育学者で日本大学教授の末冨芳(すえとみかおり)先生。

最近、話題になった「さんぽセル」騒動と、漫画家・西原理恵子さんの「子どもの無断描写」トラブルについて、子どもの権利としてはどう見るのか、考えを聞きました。

#1#2#3を読む

「さんぽセル」事件と西原理恵子さん「無断描写」事件

子どもの意見表明の大切さについては前回(#3)お伝えしましたが、最近考えさせられる出来事が2つありました。

1つは、重たいランドセルをキャリーケースにした小学生の発明を、一部の大人たちがバッシングした「さんぽセル事件」(※1)です。
※1=ランドセル“コロコロ運ぶ”商品 「大人」から批判殺到…開発した「小学生」反論(テレ朝NEWS)

重いランドセルに悩んでランドセルをキャリーケースのように持ち運べる「さんぽセル」という商品を考案した小学生の素晴らしい発明です。

これを批判する心ない日本の大人たちと、子どもたちの発明を応援する大人たちとの両方があらわれました。

もう1つが、漫画家の西原理恵子さんが、お子さんが嫌がるにもかかわらずお子さんが登場する子育て漫画作品を描き続け、お子さんがそのことを苦痛に感じていたことをブログで告白されたという事件です(※2)
※2=書かないでと言った…西原理恵子の娘『毎日かあさん』無断描写に苦痛訴え物議(Business Journal)

これらの事件は、日本の大人の多くが、子どもの権利に無知であり、子どもの意見を尊重することを軽視しすぎている、という深刻な状況を象徴しています。

前回(#3)お伝えした日本財団の調査を思い出してください。

「自分は人に誇れる個性がある」「多少のリスクが伴っても、新しいことに沢山挑戦したい」「社会が今後どのように変化するか楽しみである」「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」などの項目で、日本の若者たちは6ヵ国中最下位でした。

しかし、それは子ども・若者たちの意見や声を聞かず、心ない言動で時には挑戦をつぶして「エージェンシー」を奪ってきた日本の大人たちの責任ではないのでしょうか?

「エージェンシー」とは、変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力のことで、これからの子どもたちに是非ともはぐくんでおきたいスキルです。

小学生が、自分たちの重いランドセルをなんとかしようと編み出した素晴らしい発明こそ「エージェンシー」が育まれている証拠です。

大人の上から目線で一方的に批判する社会で「リスクを伴っても新しいことに挑戦したい」子どもや若者は育つでしょうか?

とても面白いことに、この小学生たちは、見事に心無い大人たちに対応しているのです(※3)
※3=【独自】「さんぽセルの小学生が新たな反撃」さんぽセルの“寄付先”を首相、文科相、市長、校長から募集(FNNプライムオンライン)

もちろん小学生たちを支える大人の存在があってのことですが、子どもたちの意見表明を心ある人たちが支え、心ない大人から守りつつ、きちんと対応していく。

こども基本法を通じて私が実現したい日本が、もうここにあるのです。

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