乳児とのやり取りは“テニスのラリー” 発達心理学者が秘訣を解説

発達心理学者・坂上裕子教授「謎行動にはワケがある。もっと知りたい赤ちゃんの気持ち」#2~乳児初期編~

発達心理学者:坂上 裕子

乳幼児の発達心理学を専門とする坂上裕子教授に、生後1~6ヵ月の乳児について伺います。  
写真:アフロ

多くの親が悩まされる、「眠ったかと思えば突然泣き出す」など、原因がわからない赤ちゃんの行動。

青山学院大学の教育人間科学部心理学科にて発達心理学を専門に研究し、乳幼児期の発達についての研究を行うほか、子育て支援活動にも従事されている坂上裕子教授に、乳児初期(生後1~6ヵ月)にみられる不思議な行動=“謎行動”について伺います。

生後6ヵ月までの子育てに対して疑問や不安を持つ親が、育児を前向きに楽しめるようになるアドバイスもあわせてご紹介します。

乳児は周囲からの反応に敏感

自分の体をイメージできていなかった新生児とは違い、生後1~6ヵ月頃を迎えた乳児は、自分の体を使って「なにを、どう動かしたら、どんなことが起こるのかを確認しようとする時期」と坂上教授は言います。

「これが、拳を目の前に突き上げたり、両手の拳を目の前で握り合わせたりして自分の手をじっと見る、『ハンドリガード』と呼ばれる行動です。

また、この時期の乳児は「喃語(なんご)」と呼ばれる「あーあー」「うーっ」といった言葉を発するようになります。大人には理解の難しい「喃語」だけに、親の中には疑問を持つ人もいます。

<Q1>
赤ちゃんの発する喃語にはいろいろな種類がありますが、感情によって喃語を使い分けていますか? また、同世代の子どもと対面したときに、他の子の喃語に反応して声を発することがありますが、乳児同士では意思疎通ができているのでしょうか。

<A1>
「感情と喃語は結びついていないため、意識的に喃語を使い分けるようなことはしていません。赤ちゃんは、自分が発した言葉の響きそのものを楽しんでいることが多いのです。また、自分が喃語を発したことによって起こる、周囲の反応を楽しんでいる場合もあります。

乳児同士で喃語を互いに発しているのは、意思疎通をしているのではなく、『自分が発した言葉に対して相手も同じように返す』というラリーがおもしろいからなのです」(坂上教授)

意図のある自発的な言動はまだできない乳児ですが、喃語を発しているときは機嫌が良く、「楽しい」と感じていることが多いようです。

周りの環境って乳児にはどのくらい影響している?

生後1ヵ月までの新生児期は、ミルクを飲んで、眠り、排泄をする体のリズムを作るための行動がベースだと前回(#1)触れましたが、乳児初期になるとミルクや睡眠など、おおよそのリズムが整ってきます。

<Q2>
赤ちゃんを寝かしつけていて、アラームをかけていなくても30分きっかりで目を覚ましてしまうのはなぜですか? 一緒に暮らしている親の生活リズムが影響を与えているのでしょうか。

<A2>
「30分ごとに目覚めてしまうというのは、その赤ちゃんの場合の周期であって、睡眠と覚醒のリズムには個人で大きな差があります。大人になっても、おなかの空く間隔は人それぞれ違いますよね。周りにいる人のおなかが空いたからといって、自分も空腹になってくることはありません。

赤ちゃんも同様で、おなかの空く周期、おなかが満たされたと感じる母乳やミルクの量は、赤ちゃんによって個人差があります。例えば、眠っているときにおなかが空いて起きてしまう子もいれば、そうでない子もいる。

家族の生活リズムに赤ちゃんを付き合わせるのではなく、赤ちゃんの体のリズムに応じることを心がけていれば、家族の生活リズムが赤ちゃんの体のリズムに直接的な影響を与える可能性は低いです。

ただし、“メラトニン”という覚醒と睡眠を切り替えて自然な眠りを誘う睡眠ホルモンは、空間が暗いときでないと分泌されません。また、メラトニンは、昼間にしっかりと光を浴びることでたくさん生成されます。

朝は早く起きて日光を浴び、夜寝る時には部屋を暗くする、そうすることで赤ちゃんの眠りがよくなりますよ」(坂上教授)

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