子どもの便秘の仕組み “排便外来”の小児外科医が説くうんちのトラブル

小児外科医・中野美和子先生に聞く「子どもの便秘」 #1 子どもの便秘のメカニズム

小児外科医:中野 美和子

子どもの便秘や排便に関するトラブルはどう解決すればいいのでしょうか。  写真:アフロ

子どもの便秘や排便に関するトラブルで悩んでいるお父さん、お母さんも多いのではないでしょうか?

今回は、“排便外来”で、これまでに2000人以上の子どもを診察してきた小児外科医の中野美和子先生に、子どもの便秘対策について教えてもらいました。

第1回は、子どもの便秘の仕組みと見極め方をご紹介します。(全3回の1回目)

食生活改善だけでは治らない子どもの便秘

「人生90年時代に、腸を元気にしておくには、子どものときから」。
そう語るのは、小児外科医の中野美和子先生。 

小児外科医の中野美和子先生。  撮影:森﨑一寿美

中野先生は、小児外科部長を務めたさいたま市立病院にて、2004年に「排便外来」を開設。これまでに2000人以上の子どもたちを診察されてきました。

「もともとは小児外科的疾患の手術後のフォローを想定して開設したのですが、重症の便秘に悩む子どもの相談が相次ぎ、悩んでいる方がたくさんいらっしゃることを知りました。

現在も世田谷の吉川小児科で排便外来を担当しています。3ヵ月先までの予約を受け付けているのですが、予約枠を作れば即埋まってしまう状態。すべての患者さんを診きれないので、申し訳なく思っています。

とにかく子どもの便秘は軽視されがちです。ひどい便秘の場合は、夜も眠れないくらいの状態になることも。

“もっと早く受診してくれたら、こんなに大変な思いをしなくて済んだのに”と思うことも多いですね。

便秘はそのうち治るからと思われ、排便についての情報がなかなか行き渡らないのが現状です」(中野先生)

まずは排便の正確なしくみを知ること

中野先生が、まず訪れたお父さん、お母さんにお話されるのが、“便秘は食事だけでは改善できない”ということ。

「排便外来を受診する親御さんたちは、食事はもちろん、便秘に効くお茶やサプリなどをさんざん試した上で来られているんです。

なのでまずは“食事だけでは改善できない”ということと、大腸のどこに便が溜まると動きが鈍くなるかについて説明します。

もちろん、食事や生活習慣の改善で治る場合もあります。でも、子どもの場合、そううまくいかない場合が多いのです。
小児科で“食事を改善してください”と言われたら、自分の作った食事のせいだと思ってしまう親御さんもいると思うんです。
でも、絶対に便秘が治る食事なんてわからないですし、作ったところで子どもに食べてもらえない場合もある。

さらに慢性の便秘の処置には毎日の薬が必要になってきますが、子どもに薬を飲ませることは本当に大変なことですよね。
効果的な改善対策を行なったり、薬をがんばって続けてもらったりするためにも、まずは排便の大切さを説明して、正確な情報を知っていただく必要があるのです」(中野先生)

乳児期と幼児期では便秘の原因が異なる

実は乳児期と幼児期で便秘の原因が異なります。

「離乳食を食べる前の乳児期の便秘は、腸の成長が発展途上であることが原因なので、成長するにつれて良くなっていくことが多い」と中野先生。

一方で離乳食を食べる幼児期に入ると、便秘になる子が多くなると言います。

「赤ちゃんは離乳食を食べるようになると便が有形になるので、そのタイミングで便秘になる子もいます。最も多いのは食事が有形になったことで、便が上手く出せなくなり、だんだんと便秘になるパターンです。
ただ、母乳・ミルクだけの時に便秘でも、離乳食になると食べる量が増え食物が腸管に入っていくこと自体が刺激となり、この時期に便秘が良くなる子もいます。

直腸の排便のしくみはとても繊細です。
通常は食事などで刺激され、直腸に便が下りてくると便意が起こり、排便に結びつきます。ですが、腹圧をかけるためにお腹に力を入れながらもお尻の力を抜くという排便の協調運動が上手くできずに直腸付近に固い便が溜まり過ぎてしまうと、子どもでは出しにくい固い便になってしまいます。そして、溜めれば溜めるほど出しにくくなっていくわけです。

出しにくい状態から、いくら出そうとしても、肛門の小さいお子さんは、なおさら出なくなってしまいます。苦しくて、泣きながら排便をしている子も多くいます。
成長とともに良くなっていく機能が身体には多くありますが、排便に関しては、良くなる場合もあれば、気をつけなければならないところもあるんです。直腸が感受性低下して溜まり癖がついてしまうと、成長して本来良くなるべき時期になっても、なかなか良くなりません」(中野先生)

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