全国6000ヵ所「子ども食堂」コロナ禍の闘いの実態〔千葉発〕

子どもの居場所 ルポルタージュ #1-3 千葉県「TSUGAnoわこども食堂」アフターコロナの心のケアと支援方法

ジャーナリスト:なかの かおり

「TSUGAnoわこども食堂」代表・田中照美さん。  撮影:なかのかおり

ジャーナリスト・なかのかおりさんによる、“子どもの居場所”についてのルポルタージュ連載。

千葉県「TSUGAnoわこども食堂」について、これまで2回にわたって伝えてもらいました。

最終回となる3回目は、コロナ禍で2年半できていない「いただきます」についてと、子どもたちが今、どのような悩みを抱え、アフターコロナの暮らしはどうなるのかについて。

なかのさんが、「TSUGAnoわこども食堂」代表の田中照美さんと一緒に考えました。

全3回の3回目。(1回目を読む。2回目を読む)

「一日中、駄菓子屋にいる子が…」と連絡を受けて

2022年6月初めに訪れた「TSUGAnoわこども食堂」のこどもカフェでは、子どもたちが消毒・検温を済ませ、マスクを着用しているものの、子ども同士で遊び、おやつを食べる光景が見られました。学校行事は、縮小しながらも、実施するようになってきました。

一方で、ケアが必要な子どもや保護者もいて、コロナ禍にこども食堂につながった子も来るようになりました。

ある小学生のきょうだいは、母子家庭で、お母さんには病気があり、ケアが行き届いていないのは、学校も把握しています。地域の人たちは、夜間にきょうだいだけでスーパーにいるのも見ていました。

田中さんが、きょうだいと知り合ったのは、2020年。緊急事態宣言が出され、休校になった後、学校が再開されて迎えた夏休みです。

駅の向こうにある駄菓子屋から、気になる子がいると話がありました。「いつも朝10時に店が開くのを待っていて、学校が休みの日は、朝7時半ごろからいる。駄菓子をいっぱい買って、一日中、帰らない」

田中さんは、駄菓子屋にお弁当を持って、会いに行きました。

「お母さんは寝ている。お母さんが夜のお仕事の日は、お留守番」という2人に、「おばちゃんは、駅の向こうでお弁当を配っているよ。来てみない?」と声をかけました。

「たまたま、こども食堂には彼らの友達も来ていたので、きょうだいも来るようになりました。子ども食堂の日は、お弁当を渡して、でも家にお母さんがいないから、特別に会場で食べてもらって、スタッフが家まで送っていくようになりました。

お母さんは、何か辛い思いをしたのか、行政の支援は拒んでいるようでした。きょうだいがここに来なくなったら、つながりが切れてしまう。お母さんを刺激しないように気をつけ、まず子どものケアをしようと決めました」(田中さん)

「私がいい子じゃないからサンタは来ない」

やがて、きょうだいはこどもカフェにも来るようになりました。クリスマスツリーの飾りつけや、バレンタインなど、経験したことのない季節の行事を一緒にやるようにしました。

クリスマスツリーの飾りつけをしたことがなかった子も、ここでなら経験できます。  写真提供:田中照美

「あるとき、上の子が『うちにはサンタが来ない。私がいい子じゃないから』って言いました。下の子の面倒も見ているし、いい子なのにね。

『つがのわのサンタは、皆のところに来るよ、12月のこども食堂は絶対来てね』と呼びかけました。

ここに来れば、大人に相談できるし、体験を通して自己肯定感を上げられる。

そして、『お母さんも、ここがあって助かるって言ってるよ』と伝えてくれるようになりました」(田中さん)

コロナ禍は災害のようなもの

田中さんは、「コロナ禍は、災害のようなもの」と言います。生活が少しずつ戻っている今、制限のある生活をしてきた疲れが出て、心身の不調を訴える人も見受けられます。

子ども食堂では、ひと手間かけたおやつが、子どもの心を温かく包みます。  撮影:なかのかおり

中高生へのケアをスタート

田中さんは、子どもや保護者をケアしようと、地域の人を巻き込み、奮闘してきました。大晦日には、オンライン授業ばかりでバイトもなく困っている大学生に、年越しそばや食材をふるまい、この6月には、ウクライナ避難民を地域の留学生や子どもたちと一緒にもてなすなど、必要と思う支援はすぐ行動に移してきました。

そんな田中さんが今は、「特に、中高生を何とかしなければ」と動き始めています。

「貧困という背景だけでなく、中学生にはさまざまな悩みを持つ子がいます。例えば、過干渉な親との関係に悩む中学生がいました。明るくて元気で、意志のはっきりしている子です。学校の先生にも意見が言えるけれど、お母さんには言えません。

部活をやりたくて、この高校に行きたい! と、ものすごく頑張って成績を上げたのに、お母さんが、許さなくて……。結局、希望の学校に行けず、つらいかもしれませんが高校生になっても、ずっとここに来てくれていて、何気ない話を私やスタッフとすることで、ガス抜きになっているようです」(田中さん)

今は集まって食べることはできませんが、中学生だった子が高校生になり、そのうち10人ほどが月1回のお弁当配布の日に、学校帰りに来て手伝ってくれます。

終わってから、田中さんが「いいよ」と声をかけると、お弁当を食べる姿も。彼らにとっても、居場所になっているのです。

ある日、配布したお弁当。田中さんは「トモ飯」と呼びます。  写真提供:田中照美

「コロナ禍に、居場所がなくなって彼氏の家に入り浸っていたら妊娠したとか、性の仕事に流れるとか、中高生の悩みもとても大きい。

今までのように、子ども食堂やカフェに来てもいいのですが、中高生に合った新たな居場所を作ろうと、大学生にリーダーになってもらって動き始めたところです」(田中さん)

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