2021.02.18

ベビーシッター 便利なサービスの利用を阻む「罪悪感の壁」の乗り越え方

株式会社ポピンズホールディングス代表取締役社長・轟麻衣子さんインタビュー【3/3】

寄稿家:萩原はるな

写真提供:ポピンズホールディングス

「ポピンズ」は、1987年に創業されたベビーシッターサービスの草分け。当時のベビーシッターサービス(以下、シッターサービスに略)は、「金銭的な余裕がある、ごく一部の家庭が利用するサービス」とみなされていたそうです。

現在ではずいぶん一般的になってきましたが、それでもまだまだ「誰もが手軽に、困ったらすぐ利用できるサービス」にはなっていません。そこでポピンズの代表取締役社長・轟麻衣子さんが、利用をためらってしまう“3つの壁”の乗り越え方を伝授。第1回目“お金の壁”第2回目“安心・安全の壁”に続く最後のひとつ、“罪悪感の壁”の克服法を教えてもらいました。

日本にもやっと「お母さん一人だけでは、子育ては難しい」ことが浸透してきた

1980年代、保育の世界は「親が面倒をみられないかわいそうな子どもを、自治体が預かってあげる」という福祉サービスだとみなされていました。轟麻衣子さんが、25年間の海外生活を経て帰国したのは2012年。約30年の月日がたっていても、日本の保育や育児に対する考え方は、欧米に比べてまだまだ遅れていると感じたそうです。

「2012年当時は保育園に子どもを迎えに行っても、パパの姿を見ることは多くありませんでした。けれども最近では、多くのパパたちが子どもを送迎している姿を見かけます。
以前は、子育てはほぼ女性の役割で、男性はほとんどタッチしてきませんでした。けれどもお父さま方も、関わりたくなかったわけではなく、『家庭のことは妻にまかせるもの』と思い込んでいただけ。実際に育児に参加してみると、『楽しい、もっと関わりたい』と思われる方が多いのでしょう。かつて週末の公園は子どもとママがほとんどでしたが、今はパパの姿もたくさん見られますよね」


地域全体で子どもたちを見てきた昔と違い、今は各家庭で子育てをするのが一般的。同時に共働きの家庭が増え、「とても、お母さん一人だけでは子育てできない」という認識が社会に浸透してきました。

「創業者の母によると、ポピンズを創業した1980年代に『姑の目が厳しいので、シッターさんは裏口から入ってください』と言われたことがあったそうです。かつては『子育てを他人に任せるなんて、ありえない。お母さんがするべき』という風潮が根強くありましたが、現在は男性の育休義務化が検討されている時代。ですから世間体を気にすることなく、シッターサービスを利用できる空気感は醸成されてきたように思います」

シッターサービスの活用や夫婦で子育てを分担することによって、ママの負担は大きく軽減されつつあります。そうしてママがリフレッシュできる時間が生まれると、“家族のよりよい幸せ”を追求しやすくなるとか。

ポピンズの代表取締役社長・轟麻衣子さん
ZOOM取材にて

プロフェッショナルなシッターは、子どもや家族に感動を与えてくれる

ポピンズには、ベビーシッターのほかに、送迎や教育、しつけなどを親に代わって行う子育てのプロフェッショナル「ナニー」がいますが、そのなかでもさらにスゴイ技をもった「スーパーナニー」と呼ばれるシッターたちがいます。彼女たちは「寝かしつけのエキスパート」「ピアノの名手」「折り紙のプロフェッショナル」など、それぞれの特技を活かして活躍しているとか。

「単に子どもを見守るのではなく、プラスαの付加価値をご提供します。スーパーナニーたちのバッグの中には、付箋やセロテープ、小さなハサミ、紙コップ、ストローといった工作用具から、月齢に合わせた絵本、ヘアアレンジのためのクシやゴム、裁縫道具までいろんなものが入っているんですよ。

私自身も子どもが2人いるワーキングマザーの一人で、シッターサービスを利用しています。以前、お願いしたシッターに、『子どもの上履きが小さくなってしまったので、大きいものを購入しておいてほしい』とお願いしたことがありました。私が帰宅したところ、娘が自分の名前やかわいらしい模様が刺繍してあるピンク色の上履きを、とてもうれしそうに抱えていたのです。お願いされたことをするだけではなく、子どもや親の期待を超えるサービスを提供してくれたことに、とても感動しました」

シッターたちの多くは、お正月や節分、ひな祭り、子どもの日と、伝統的な季節行事を大切にしているとか。轟さんがかつて、七夕の日に仕事を終えて帰宅したところ、シッターと子どもたちが、野菜で作った星をちりばめたかわいらしい素麺を用意して、轟さんの帰宅を待っていたことがあったそうです。

「こうした体験は、私一人で子育てをしていたら、おそらく提供できなかったと思います。シッターサービスを通じて、豊かな経験をさせてあげられることを、身をもって体感したのです。お子さまやご両親に寄り添う気持ちがある方なら、きっとお子さまにさまざまな体験を提供してくれると思います」

シッターとの時間は“親のいない空白の時間”ではなく“実のある時間”

子どもにとって、「自分に集中してくれる大人がいる」ということは、さまざまなメリットがあります。

「仕事をしながら家事や子育てをしていると、なかなか100%子どもに向き合う時間がとれないもの。『ママ〜!』と子どもに話しかけられても、料理をしながら、ケータイでメールをチェックしながら相手をしてしまうことも多いのが現実ではないでしょうか。
そうすると子どもはもっと構ってほしくていたずらをしたり、大きな声を出したりしますよね。けれどもシッターはお世話をする時間はずっと、100%全力でお子さまと向き合います。ですからお子さまは皆さん安心して、遊びに集中することができるようです」


また子どもは、親の笑顔にとても敏感なもの。パパやママが笑っていることは、子どもの精神的な安定にもとても大切です。

「お子さまにとって、シッターと一緒に創作活動をしたり、季節感のある食事を食べたりという時間は、親がいない“空白の時間”ではなく“実のある時間”。そのため当社では、シッターたちの研修にとても力を入れています。シッター自身が常に学び続け、提供できる付加価値の引き出しを増やすことを心がけているのです。

今はご近所さんみんなで子どもを育てる時代ではないので、家族以外に子どもに愛情をそそいでくれる人が少なくなっていますよね。信頼できるシッターに出会うことは、愛情をくれる人を増やすことにもつながります。子どもにとって重要なのは“誰から”ではなく、“どれだけ”愛情をそそがれてきたか。幼児期に受けた愛情こそ、人生の基盤になる大切なものだと思います」

シッターサービスは『親がラクをしたいから』ではなく、『家族の豊かな幸せ』のためにある

助成金が出るようになったことから、敷居が低くなってきたシッターサービス。しかし、日本(東京)、韓国(ソウル)、アメリカ(ニューヨーク)、ドイツ、スウェーデン、計5カ国の25~39歳の働きながら育児をする女性計500名を対象にした「ワーキングママの育児事情」に関する意識調査(※1)によると、シッターサービスを利用している日本の家庭は、ほんの7%にしか過ぎません(アメリカは52%)。育児に対する考え方が変わってきたとはいえ、「シッターに預けるなんて」と罪悪感を感じたり、つい世間体を考え過ぎて躊躇したりするママも多くいるようです。

「そんな方には、世界が緊急事態に陥っている今、ぜひ一度立ち止まって考える機会にしてはいかがでしょうか。一番重要なのは、お子さまにとって何がベストなのか、だと思います。
シッターからたくさんの愛情を受けながら、思いきり外遊びをしたり、歌を歌ったりすることで、お子さまは多くの喜びやうれしさを感じることができると思います。一度、そんなお子さまの姿をぜひ見てみてください。すると、シッターサービスを利用する理由が『自分の手が回らないから』、『ラクをしたいから』ではなく、『この子がハッピーだから』に変わると思うのです」


子どもの生活の質が上がって安定すると、家族みんなの笑顔が増えるでしょう。ママも100%信頼できる相手に子どもを預けることで、より仕事に集中できるように。さらに帰宅後、より真剣に子どもと向き合う余裕がうまれるといいます。

「日本では“お母さんは完璧じゃなければいけない”という神話が、いまだに根強く残っていると感じます。とくにコロナ禍でストレスが溜まっている現在、プレッシャーから虐待に走ってしまう方が増えているという、大変悲しい報道も目にしました。
そんなママたちへの救いの手が、もっとあっていいのではないか、と私たちは考えています。親の心が健全でないと、子どもとしっかり向き合うことは難しいものです。ですからつらくなる前に、ためらわずにプロの手を借りて、よりよい家族の幸せをつくっていってほしいと思います」


シッターサービスを利用する際に立ちはだかる、「お金の壁」と「安心・安全の壁」、そして「罪悪感の壁」。3回にわたり、それぞれの壁の乗り越え方をポピンズホールディングス代表の轟さんに教えてもらいました。大切なのは、“親目線でなく子ども目線から”を大切にしてシッターサービスを考えてみること。一度、夫婦で話し合ってみてはいかがでしょうか。

轟さん自身、睡眠時間の確保が難しい出産後に、寝かしつけが得意なシッターにとても助けられた経験があるそう。

写真提供:ポピンズホールディングス

PROFILE
轟麻衣子(とどろきまいこ) 
12歳からイギリスの名門寄宿舎学校に単身留学、ロンドン大学King’s Collegeに入学する。2006年、INSEAD大学院にてMBA課程を修了。その後、イギリス、フランス、シンガポールにて外資系金融、ラグジュアリーグッズなどの仕事に携わる。
2012年、25年間の海外生活を経て帰国、株式会社ポピンズ取締役に就任。2018年代表取締役社長に就任、2018年より現職。そのほか、公益社団法人全国保育サービス協会理事、公益社団法人経済同友会「日本の明日を考える研究会」副委員長などを務める。自らも2児を育てながら、働く女性たちを支える良質のサービスを提供している。
ポピンズオフィシャルサイト https://www.poppins.co.jp/
ポピンズ採用サイト https://www.poppins-recruit.jp/

※1=「ワーキングママの育児事情」に関する意識調査。2019年、「リンナイ調べ」https://www.rinnai.co.jp/releases/2019/0212/

【第1回】ベビーシッター「おカネの壁」の乗り越え方
ポピンズホールディングス代表取締役社長・轟麻衣子さんインタビュー1/3


【第2回】ベビーシッター「安心・安全の壁」の乗り越え方
ポピンズホールディングス代表取締役社長・轟麻衣子さんインタビュー2/3

寄稿家紹介

萩原はるな はぎわらはるな

情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。