料理家・栗原友さんのメリハリ論「手間を省きつつ“母の味”もしっかり残す」

料理家で乳がん闘病経験者・栗原友さんの子育て&食育論#3~「手作りごはんと手間省きごはん」

料理家:栗原 友

2019年に乳がんの治療を行い、2020年に予防切除や両胸の再建手術を終えた栗原友さん。2021年現在は治療も終え、元気に日常生活を送っている。
写真:菅沢健治

365日朝晩、ときには昼食や弁当、おやつまで。これらをすべて作る親は本当に大変です。

現在7歳(2021年12月)の一人娘を育てる料理家のクリトモこと栗原友さんは、料理家の仕事のほか、飲食店1店、鮮魚と総菜店1店、鮮魚卸売業、ケータリングを営むなど、経営者としての活躍も多岐にわたります。多忙を極める日々ですが、これまでほぼワンオペで育児をしてきたといいます(#1)

たくさんのやるべきことがあるなか、栗原さんはごはん作りをどのようにこなしているのでしょうか。また、手間を省きながらも大事にしていることは何でしょうか。手作りと手間省きのほどよい“メリハリ論”を聞きました。(全3回の3回目。1回目#1、2回目#2を読む)

料理家の私もデリバリーサービスには頼りっぱなし

忙しい時や体調不良の時は、市販のお惣菜や冷凍食品、 Uber Eats(ウーバーイーツ)等のデリバリーサービスに頼るのは大いに“アリ”だと思っていますし、自分もそうしてきました。

2019年、私はに乳がんになり抗がん剤治療を受けていたんですが(#1)、身体がとてもつらくて、デリバリーサービスにはすごくお世話になりました。

母親がしんどい様子で無理して食事を作るよりは、おいしいデリバリーサービスを頼む方が子どもも喜ぶと思いませんか? 先日も私が二日酔いでぐったりしていた時、「ママー、おなかすいたー。何か作ってよー」と言われたので「今日は無理だわー。ウーバーかな」といったら「イエーイ!」と小躍(おど)りしていましたよ(笑)。

私が経営している「クリトモ商店」という鮮魚店では、お弁当に使える、自然解凍できるお惣菜も販売しています。自然解凍なら、夏場のお弁当にも便利ですよね。ごはんを作る人みんながラクになればいいとの思いから、開発した商品です。

かくいう我が家のお気に入りは、1食分ずつキューブ型になっている冷凍スープ。1つずつお湯やミルクで伸ばしてスープで飲んでもいいし、パングラタンにソースとして使う日もあります。

ただ、電子レンジでチンして食べる冷凍食品は、我が家にありません。理由は単純。電子レンジがないから。家が狭くて置く場所がないんです。まあ、お米はその都度土鍋で炊くし、ごはんもおかずも一度に全部食べ切るから、必要ないんですけどね。お米は土鍋があれば10分で炊けますし。

仮にお弁当のためのごはんを炊きそびれたら、近くのコンビニに行って食パンを買ってきてサンドイッチを作ればいい。でもそんな事態にもならないよう、冷凍庫には自然解凍すればOKなパンを常備しています。私は常に最悪のことを想定して備えるタイプなので、その点は安心です(笑)。

最近では、電気調理鍋や電気圧力鍋で調理をする人も多いですよね。私も使いましたが、すごく便利!

お米もおいしく炊けるし、調味料と下ごしらえをした食材を入れてピッとボタンを押せば、メインの肉料理を圧力調理してくれる。私はその間に、空いたガスコンロで副菜を作ることができます。

付属のレシピ本も頼りになりますが、一回レシピ通りに作ってみたら、あとは自己流。好みで砂糖を減らしたりして調整した時点で、その料理はもう我が家の「家庭の味」になります。

おせちは作らなくても一つだけ作りたいもの

こうしてほどよく手間を省いている私ですが、おせち料理は別。鮮魚店を営む前までは、母(料理家・栗原はるみさん)と毎年作っていました。

おせちって、無理してまで作るものではないけれど、作り方は知っていた方がいい気がします。だって、日本人の心でしょう。例えば昆布巻きは、昆布を「喜ぶ(よろこぶ)」の語呂と合わせて縁起がいいとされているように、ひとつひとつが縁起もので、思いが込められています。

といっても、鮮魚店を経営しているとおせちを食べる時間も作る時間もない。だから今ではほとんど作らないし、むしろ、おせちにそのまま入れられるものを鮮魚店で売っていますが、ただ一つだけ必ず作り続けているものがあります。

それは、コハダの粟漬け。

2019年に亡くなった父(栗原玲児さん)が生前、「人生の中で、友が作ったコハダの粟漬けが一番うまい」って褒めてくれたことがあるんです。それがうれしくてずっと心に残っているから、毎年それだけは作ります。

そして今は、自分の店で売ってもいます(笑)。どこかで、娘が大きくなった時に「うちの家はちゃんとやってたんだ」って言われたいなって気持ちもあるのかもしれません。

といっても、実は私が母とおせちを作り始めたのは、30代半ば。遅めのスタートなんです。もともと、おせちの味付けがあまり好きじゃなかった。

全部同じ味に感じるし、「おせちもいいけどカレーもね」(※1976年以降の年末年始に流れたハウス食品のカレーCMのセリフ)のカレー派でした。だから、お正月にケンタッキー・フライド・チキンを食べる人の気持ちもめちゃくちゃ分かります。

そんな私がおせちもいいなと思えたのは、大人になってから。なんでだろう。おせちの良さって、年を重ねて初めて分かるのかもしれませんね。

レシピ本を多数出している友さん。「分量や材料は厳密でなくてもいい。適当にアレンジして“家庭の味”を作ってください」と大らかに笑う。
写真:菅沢健治
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