田んぼはカエルやトンボの宝庫! 5668種もいる “生きもののワンダーランド”

科学ジャーナリスト・柴田佳秀先生が田んぼで出会った生きものたちvol.1

科学ジャーナリスト:柴田 佳秀

田んぼは生きものの宝庫!

田んぼって、イネを育ててお米を収穫する場所ですね。その一方で、ドジョウやカエルなどの生きものがすんでいる場所でもあります。田んぼは、自然の湿地や水辺で生活してきた生きものにとっては人工的な湿地と同じで、じつにたくさんの生きものが暮らす場所なのです。

それらの生きもの中には、害虫と呼ばれるイネを食べてしまう虫やイネの養分を吸ってしまう草などの困った存在がいます。
米の生産の場であり、生きもののすみかでもある田んぼ/撮影 柴田佳秀
でも、無害な生きものも多く、排除されてこなかったので、今でも水の生きものを中心に様々な種類が見られます。では、田んぼにはどのくらい生きものがいるのでしょうか。

ある研究によると、顕微鏡で見ないとわからないくらいの微小生物から大きな鳥まで、なんと5668種が全国の田んぼに生息していたそうです。まさに田んぼは生きものの宝庫なんですね。

田んぼといえばカエル

ニホンアマガエル/撮影 柴田佳秀
さて、田んぼの生きものといえば、一番最初に思いつくのがカエルではないでしょうか。トノサマガエルにアマガエル、日本にはたくさんの種類が生息していますが、南西諸島にいる種をのぞいた場合、日本産カエルの約68%の種が田んぼにいるそうです。

カエルの田んぼ好きはかなりのものですね。では、なぜ、カエルは田んぼに多くいるのでしょうか。その答えはカエルの暮らしぶりを知るとわかります。

田んぼは子育ての場

トウキョウダルマガエルは田んぼにすむカエル/撮影 柴田佳秀
例えば、関東地方にすむ代表的な田んぼのカエルであるトウキョウダルマガエルの場合です。

春、田植えの準備で水が入れられると、土の中で冬眠していたカエルが姿を現します。そして、田植えが終わる頃に一斉にケロケロと鳴きはじめます。鳴いているのはオスで、メスを呼ぶために懸命に鳴いているのです。

ですから、「うるさいからやめろ」と言われてもそれは無理な注文。子孫を残せるかどうかがかかっていますからね。そして、めでたくカップルになるとメスは卵を産み、その数は800~2000個にもなります。

やがて卵は孵化してオタマジャクシになり、ひと月半ほどで手足が生えてカエルとなって陸上の生活を始めます。
中干しで水がない田んぼ/撮影 柴田佳秀
ちょうどその頃、田んぼには水がありません。中干しといって、イネを丈夫にするためにいったん水を抜いてしまうのです。でも、カエルは大人なってしまえば水陸両用の生活ができますから、水がなくても大丈夫なのです。

また、カエルの種類によって、卵を産む場所や季節が違います。アカガエルのなかまは、早春の水が凍るような時期に卵を産みます。シュレーゲルアオガエルは、春に畦の土の中に卵を産みます。このように種によって田んぼの利用法が違うのも、多くのカエルが生息できることを可能にしているのです。

田んぼはレストラン

田んぼにカエルがいる理由は、もうひとつあります。それはカエルにとって、田んぼはレストランだからです。

カエルの食べものは昆虫です。イネには、ウンカやイナゴといったイネを食べる虫が多く集まりますし、周りの畦や土手の草にもいろいろな虫がいます。ですから、田んぼは、カエルにとって食べものがたくさんあるレストランみたいなところなのです。

また、農家の人にとっても、イネを食べる虫は害虫ですからカエルに食べてもらえるのは大歓迎。とってもありがたい生きものなので、昔から大切にされてきました。

田んぼにはトンボもいる

カエルの他に、田んぼで目立つ生きものといえばトンボです。夏、青々と茂るイネの上をスイスイ飛ぶトンボの姿を見たことがある人は多いのではないでしょうか。トンボも田んぼとの関係が非常に深い生きもので、本州で見られる種のうち、約30%の種が田んぼで見られるそうです。
代表的な田んぼのトンボのアキアカネ/撮影 柴田佳秀
トンボが田んぼを主なすみかにする理由は、カエルと同じで、繁殖の場であり、食べものを捕る場所だからです。トンボの幼虫はヤゴと呼ばれる水生昆虫で、田んぼの水の中で卵から孵化したヤゴは、ミジンコやイトミミズなどを食べて成長。水がなくなる前には成虫になって空を飛ぶ生活にチェンジします。成虫の食べものは昆虫で、飛びながらユスリカなどのさまざな虫を捕食します。
アジアイトトンボのカップル/撮影 柴田佳秀
夏にイネの上をスイスイと飛んでいるのは、飛んでいる虫を捕まえて食べているところなのです。また、イトトンボはイネに止まって待ち伏せし、近くを通りかかった虫に飛びついて捕食します。

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しばた よしひで

柴田 佳秀

Shibata Yoshihide
サイエンスライター

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。

元ディレクターでNHK生きもの地球紀行などを制作。科学体験教室を幼稚園で実施中。著作にカラスの常識、講談社の図鑑MOVEシリーズの執筆など。BIRDER編集委員。都市鳥研究会幹事。科学技術ジャーナリスト会議会員。暦生活で連載中。MOVE「鳥」「危険生物 新訂版」「生きもののふしぎ 新訂版」等の執筆者。