『神隠島After 名探偵夢水清志郎事件ノート』 第1話

『神隠島After 名探偵夢水清志郎事件ノート』 第1話

第Ⅰ部 シン名探偵登場

 教授きょうじゅが隣となりの洋館ようかんに引ひっ越こしてきてから、3年ねんが過すぎた。
「ねぇ、プレゼント用よう意いした?」
 真衣まいと美衣みいにきく。
 教授きょうじゅに記き憶おく力りょくはない(ほかにも、生せい活かつ力りょくとか常識じょうしきとかもない)。自じ分ぶんの誕生日たんじょうびも忘わすれている。だから、教授きょうじゅが引ひっ越こしてきた今日きょう──4月がつ1日たちを誕たん生じょう日びにしている。
「いつ渡わたしに行いく? 夜よるはパーティだから、その時ときにする?」
「それなんだけど──」
 真衣まいと美衣みいが、何なんとも言いえない顔かおで見みつめ合あう。
 そして、二人ふたりの話はなしを聞きいたわたしはワクワクする。素す敵てきなプレゼントを思おもいついたからだ。

 ギンゴーン!
 玄関げんかんのドアの横よこについたチャイムを押おす。少すこしして教授きょうじゅが出でてくる。
「ハッピーバースディ! あとで、真衣まいと美衣みいがプレゼント持もって来くるからね」
 呆気あっけにとられてる教授きょうじゅを残のこし、わたしはドアを閉しめる。
 数すう分ふん後ご──。
 ギンゴーン!
 ドアを開あけた教授きょうじゅを押おしのけ、靴くつを脱ぬぎ散ちらかしホールに入はいり、プレゼント──リボンをつけた鉄てつアレイを床ゆかに置おく。
「教授きょうじゅ、このままだと寝ねたきりになるよ。これで鍛きたえてよね!」
 そう言いって、洋館ようかんを出でる。
 ギンゴーン!
 ドアを開あけた教授きょうじゅに、ラッピングしたスクラップブックを見みせる。
「これ、プレゼント! 教授きょうじゅが今いままで関かかわった事じ件けんの切きり抜ぬき!」
 左ひだり手てで渡わたしたスクラップブックを、うれしそうに受うけ取とる教授きょうじゅ。
 数すう分ふん後ご──。
 わたしは洋館ようかんのドアを開あける。
 勝手かってに上あがりこみ、ホールのソファーで寝ね転ころんでる教授きょうじゅにきく。
「真衣まいと美衣みい、プレゼント持もってきた?」
「来きてないよ」
「噓うそ言いわないで」
 わたしは、ダンベルとスクラップブックを指ゆびさす。
 すると教授きょうじゅはソファーに起おき上あがった。
「たしかにプレゼントは届とどいたよ。でも、持もってきたのは真衣まいちゃんと美衣みいちゃんじゃない。亜衣あいちゃん──きみだろ?」
「…………」
「きみが、一人ひとり三役やくで、ぼくを騙だまそうとした。違ちがうかい?」
 わたしは本ほんで埋うまったホールを見回みまわし、舌したを出だす。
「バレちゃった?」
 うなずく教授きょうじゅ。
「きみたちは、そっくりな三みつ子ごだ。亜衣あいちゃんが、真衣まいちゃんと美衣みいちゃんの振ふりをしたら見分みわけがつかない」
「…………」
「でも、ぼくは名探偵めいたんていの夢水清ゆめみずきよ志し郎ろう。きみが一人ひとり三役やくやってるのは、すぐにわかったよ」
 得意とくいげな教授きょうじゅ。
 わたしは溜息ためいきをつく。
「自じ信しんあったんだけどな……。どこでわかったの?」
 すると、教授きょうじゅは指ゆびを1本ぽん伸のばした。
「さて──」

「真衣まいちゃんの振ふりをするとき、亜衣あいちゃんは靴くつを脱ぬぎ散ちらかした。やり過すぎだよ。真衣まいちゃんは、星ほし野の君くんと知しり合あってから、“お淑しとやか”を意い識しきしてて靴くつをきちんと脱ぬぐようになった」
「…………」
「美衣みいちゃんの振ふりをするときは、左ひだり利ききをアピールしようと左ひだり手てでプレゼントを渡わたした。これも、やり過すぎ。美衣みいちゃんなら、プレゼントを渡わたすとき、きちんと両りょう手てで持もって渡わたすよ」
「…………」
「亜衣あいちゃんは、ぼくが引ひっ越こしてきたときも三人にん一役ひとやくで騙だまそうとしたよね。今回こんかいは、その逆ぎゃく──一人ひとり三役やくで騙だまそうとした」
 ……おっしゃるとおりです。
 教授きょうじゅが、ソファーに寝転ねころがる。
「で、亜衣あいちゃんからのプレゼントは?」
 この質問しつもんに、わたしは笑え顔がおを返かえす。
「もう渡わたしてるよ」
「え?」
「名探偵めいたんていが一いち番ばん喜よろこぶのは、謎なぞを解とくことでしょ。だから、こうして事じ件けんをプレゼントしたの」
 この“事じ件けん”を思おもいついたのは、真衣まいと美衣みいが、それぞれデートの約束やくそくがあってプレゼントを渡わたしにいけないって言いったときだ。だったら、それを利り用ようして教授きょうじゅを騙だまそうとしたんだけど……。
「やっぱり教授きょうじゅは名探偵めいたんていね。まだまだわたしじゃ、名探偵めいたんていの敵てきになれないわ」
 用よう意いしてあった本当ほんとうのプレゼント──一冊さつの大学だいがくノートを出だす。
「ワトソン役やくの方ほうが、わたしにはふさわしいみたい。だから、ハッピーバースディ! 教授きょうじゅ!」
 わたしは『そして五人にんがいなくなる』と書かかれたノートを、教授きょうじゅに渡わたした。

第Ⅱ部 神隠島After

 あらためまして、岩いわ崎さき亜あ衣いです。
 中ちゅう学がっ校こうの卒そつ業ぎょう式しき以い来らいだから、4か月げつぶりぐらいかな? なのに、十何年なんねんもお目めにかかってないような気きになるのは、それだけ会あいたかったってことかな?
 でも、わたしのことを知しらない人ひとがいるのも哀かなしい事じ実じつ。そんな人ひとたちのために、軽かるく自己じこ紹しょう介かいを──。
 わたし、岩いわ崎さき亜あ衣い。この春はるから高校こうこう1年生ねんせいになった。
 家か族ぞくは、おっとりしてるけどしっかり者ものの羽う衣い母かあさんと、「72時じ間かん働はたらけますか?」の一いち太た郎父ろうとうさん。
 そして、わたしたち三みつ子ご。わたしが長ちょう女じょで、次じ女じょが真衣まい、美衣みいが末すえっ子こ。
 性格せいかくは違ちがうけど、外見がいけんはそっくりなわたしたち。さすがに最近さいきんは外見がいけんにも違ちがいが出でてきたと思おもうけど、普ふ通つうの人ひとが見分みわけるのは、まず不可ふか能のうだ。
 家か族ぞく以い外がいに、わたしたちを簡単かんたんに見分みわけるのが、隣となりの洋館ようかんに住すむ夢水清ゆめみずきよ志し郎ろう。
 というわけで、夢水ゆめみずさんの紹介しょうかいを──。
 身しん長ちょうは、軽かるく180センチを超こえている。さらに痩やせてるので、もっと高たかく見みえる。長ちょう髪はつをオールバックにして、眼めには黒くろのサングラス。そして、黒くろの背せ広びろ。真まっ黒くろけの電信でんしん柱ばしらを想像そうぞうしたら、一いち番ばんイメージに合あうかもしれない。
 そんな夢水ゆめみずさんの職業しょくぎょうは、名探偵めいたんていだ。大だい事じなことだから、もう一度書どかいておく。
 夢水清ゆめみずきよ志し郎ろうは名探偵めいたんていだ。
 わたしたちと過すごした3年間ねんかんだけでも、山やまのように事じ件けんを解決かいけつしている。ただ残念ざんねんなことに、そのほとんどを忘わすれている。
 元もとは、大学だいがくで論ろん理り学がくを教おしえていたそうだ。でも、学がく長ちょうとケンカをしたうえに、下げ宿しゅくに本ほんと家や賃ちんを貯ためこんで追おい出だされ、わたしたちの隣となりに引ひっ越こしてきた。
 で、いちいち「夢水ゆめみずさん」(本人ほんにんは「名探偵めいたんていさん」と呼よんでほしいみたいだけど、無視むし)と呼よぶのは面倒めんどうなので、わたしたちは「教授きょうじゅ」と呼よんでいる。
 そして、これから語かたられるのは、「神隠島かみかくしま」で起おこった不思議ふしぎな事じ件けん。
 島しまで起おこる神隠かみかくし。その不可思議ふかしぎな現げん象しょうを前まえにして、わたしたちは立たちすくむしかなかった。
 ただ一人ひとり、神隠かみかくしの謎なぞに挑いどめたのは、教授きょうじゅ──夢水清ゆめみずきよ志し郎ろうだけ。
 ……ここで、多おおくを語かたるのは止やめよう。この先さきを読よんでもらえれば、いやでもわかってもらえるから。

 物もの語がたりの始はじまりは、冗じょう談だんみたいに暑あつい夏なつの一日にちから……。

 ──暑あつい……。
 わたしは、「もうこれ以い上じょうは無理むりです。休やすませてください」と言いってるようなハンディファンを、顔かおに近ちかづける。風ふう力りょく調ちょう整せいレバーを最さい強きょうに上あげる。体温たいおん越ごえの空くう気きが、ベットリまとわりついてくる。
 なんだか、頭あたまがボーッとするぐらい暑あつい……。
 冷静れいせいに考かんがえる。
 ──体温たいおんよりも高たかい空くう気きを浴あびるのは、逆ぎゃくに暑あついんじゃないの?
 必ひっ死しで動はたらいてるハンディファンを見みつめる。「ようやく気きづいたか?」と、ハンディファンがニヤリと笑わらったような気きがした。
「…………」
 わたしは、ハンディファンのスイッチを切きり、背せ中なかのディバッグに放ほうりこむ。
 首くびに巻まいたネッククーラーは、とっくの昔むかしに冷れい気きを失うしない、ネックウォーマーに変身へんしんしている。これも、背せ中なかのディバッグに放ほうりこむ。
 これで、手持てもちの武器ぶきは“心頭滅しんとうめっ却きゃく”だけになった。そう、「心頭滅しんとうめっ却きゃくすれば火ひもまた涼すずし」なのよ!
 ──でも、“心頭滅しんとうめっ却きゃく”って何なに?
 そんなことを考かんがえながら歩あるいていたら、ますます頭あたまがボーッとしてきた。ここは“冷つめたい飲のみ物もの”とか“アイス”とか、新あらたな武器ぶきを手てに入いれたいところなのだが……。
 わたしは、自じ動販売どうはんばい機きとコンビニ前まえを素す通どおりする。
 ──こんなに体からだと気き温おんは熱あついのに、なんで財さい布ふの中なかは寒さむいのよ!
 そう、わたしの経済けいざい状況じょうきょうは、極ごく地ちのブリザードの中なかにいる。寒さむくて震ふるえが止とまらない。
 中ちゅう学生がくせいの時ときには感かんじなかったが、お金かねってスマホのバッテリー残ざん量りょうより早はやくなくなる。気きがつくと、ブラックアウト状じょう態たい。
 わたしの場ば合あい、お小こ遣づかいの約やく9割わり5分ぶは本代ほんだいに消きえる。残のこりは、友達ともだちとの付つき合あい──。
 しかし、中ちゅう学がくの頃ころの自じ分ぶんと違ちがい、高校生こうこうせいのわたしには「アルバイト」という強つよい味み方かたがいる。
 さいわい、あと2週しゅう間かんもすれば夏休なつやすみ突とつ入にゅう! 長ちょう期きバイトで、冬休ふゆやすみまでの本代ほんだいと交際こうさい費ひを作つくることができる。
 ただ、問題もんだいがある。
 わたしは文芸ぶんげい部ぶに所属しょぞくし、小しょう説せつを書かいている。将しょう来らいの夢ゆめは、小しょう説せつを書かいて生活せいかつしていくことだ。間ま違ちがえてほしくない。小しょう説せつ家かになりたいんじゃない。死しぬまで小しょう説せつを書かいて暮くらしたい──これだ!
 ──夏休なつやすみに長ちょう期きバイトを入いれ、小しょう説せつを書かく時じ間かんがあるだろうか?
 今いま、書かこうと思おもっている原稿げんこうは二ふたつ。一ひとつは、秋あきの文ぶん化か祭さいに出だす文芸ぶんげい部誌ぶしのためのもの。この締しめ切きりは、夏休なつやすみ明あけ。もう一ひとつは、大おお手て出版社しゅっぱんしゃが高校生こうこうせい対たい象しょうに行おこなってる『プレ・エンプティブ賞しょう』。こちらの締しめ切きりも、夏休なつやすみ明あけ。
 ──原稿げんこうを書かく時じ間かんを削けずってバイトする……。これは“本末転倒ほんまつてんとう”というやつじゃないのか?
 時じ間かんの問題もんだいだけじゃない。
 もっとも大おおきな問題もんだいは、才能さいのう……。
 高校こうこうの文芸ぶんげい部ぶに入はいって、先輩せんぱいたちとの力りき量りょうの差さを痛いたいほど感かんじた。圧倒的あっとうてきな「描写力びょうしゃりょく」の差さ、「語ご彙い力りょく」と「言こと葉ばの選択せんたく力りょく」の差さ、そして「人間にんげんへの洞察どうさつ力りょく」の差さ──。
 ──わたしが先輩せんぱいになったとき、この差さを埋うめていることができるのだろうか……?
 ここまで考かんがえて、さらに恐おそろしいことに気きづいてしまう。
 ──この差さは、年齢ねんれいから来きてるんじゃない……才能さいのうの差さ……。
 わたしの頰ほほを、冷つめたい汗あせが流ながれる。頭あたまを振ふって、その汗あせを吹ふき飛とばす。
 ──まだだ! まだ、“才能さいのう”を理り由ゆうに諦あきらめるのは早はやすぎる。まだ、わたしには伸のびしろがある!
 根拠こんきょのない、強つよい気持きもちを持もつ。
 いつの間まにか駅前えきまえに着ついた。炎天えんてん下かの元もと、ティッシュ配くばりの人ひとが数人すうにんがんばっている。
 わたしの目めは、その中なかの一人ひとりに釘付くぎづけになる。
 頭あたまには、土ど星せいの輪わっかを思おもわせるぐらい鍔つばが広ひろい帽ぼう子し。顔かおには、耳元みみもとまで覆おおうフェイスカバー。超ちょう薄うす手での冷感れいかんパーカーを着きこみ、アームカバーで指先ゆびさきまで覆おおっている。そして、足下あしもとはUユーVブイカットのワイドパンツ。それら全すべての色いろが黒くろ。
 まるで、影法かげぼう師しが立体りったい化かされたような人ひと。男性だんせいか女性じょせいかもわからない。目めだけが鋭するどく動うごき、通行人つうこうにんを見み回まわしている。
 わたしは、吸すいこまれるように、その人ひとの前まえに向むかう。変かわった人ひとがいると、小しょう説せつのキャラに使つかえないかと思おもい近ちかづいてしまう。悪わるい癖くせだ。
 影法かげぼう師しのような人ひとは、チラシを手てに持もっているのだけど、誰だれにも渡わたそうとしない。勤労きんろう意い欲よくがないのだろうか。
 目めが合あう。フェイスカバーで覆おおわれているのに、口元くちもとが笑わらったように思おもえた。
 音おともなく影法かげぼう師しが近ちかづいてくる。そして、右みぎ手てを伸のばし持もっていたチラシを渡わたしてくる。
「どうぞ」
 わたしは軽かるく頭あたまを下さげ、チラシを受うけ取とる。歩あるきながらB5サイズの紙かみを見みる。

【アルバイト募ぼ集しゅう】
ディリュージョン社しゃでは、業ぎょう務む拡大かくだいに伴ともない「編へん集しゅうアシスタント」を募ぼ集しゅういたします。
当社とうしゃは物もの語がたり世せ界かいを現実げんじつに具ぐ現げん化かする事じ業ぎょうを展開てんかいしており、今回こんかいはクリエイティブ現げん場ばの最前線さいぜんせんで編集者へんしゅうしゃをサポートしていただく実じつ務むスタッフの募ぼ集しゅうです。
交通こうつう費ひは全額ぜんがく支し給きゅういたします。効率的こうりつてきかつ正確せいかくに業ぎょう務むを遂行すいこうできる、意い欲よくある方かたからのご応おう募ぼをお待まちしております。
■アルバイト募ぼ集しゅう要項ようこう(編へん集しゅうアシスタント)
◆募ぼ集しゅう企き業ぎょう
株式会社かぶしきがいしゃディリュージョン
(事じ業ぎょう内容ないよう:物もの語がたり世せ界かいの現実げんじつ化か、およびクリエイティブコンテンツの編へん集しゅう・管かん理り)
◆職しょく務む内容ないよう
・編へん集しゅう業ぎょう務むの補ほ助じょ(原稿げんこうの校正こうせい・校閲こうえつ、プロットのデータ整せい理り、資し料りょう作成さくせい)
・進行管しんこうかん理りのサポート、および付ふ随ずいする事務じむ作さ業ぎょう
◆勤きん務む地ち
神隠島かみかくしま
※現げん地ちまでの交通手段こうつうしゅだんは、採用確定さいようかくてい後ごに別べっ途とご案内あんないいたします。
◆勤きん務む期き間かん
1週しゅう間かん(短たん期きプロジェクト)
◆募ぼ集しゅう人数にんずう
若じゃっ干名かんめい
◆待遇たいぐう・特典とくてん
・交通こうつう費ひ全額ぜんがく支し給きゅう
・島内滞在とうないたいざい中ちゅうの生活せいかつ費ひ支し給きゅう(食しょく費ひ・宿しゅく泊はく費ひなどはすべて会社かいしゃが負ふ担たんいたします)
・文ぶん章しょう作成さくせいの技ぎ術じゅつ向こう上じょう
 (プロの編へん集しゅう・校正こうせいスキル、論ろん理り的てきな文ぶん章しょう構成こうせい力りょくが実じつ務むを通とおして身みにつきます)
■応おう募ぼ方法ほうほう
ご応おう募ぼはメール、またはお電でん話わにて受うけ付つけております。
【メールでのご応おう募ぼ】
件名けんめいに「アルバイト応おう募ぼ」、本文ほんぶんに氏し名めい・連絡先れんらくさき・簡単かんたんな経歴けいれきを明めい記きの上うえ、下か記き宛あててにメールにてご送そう付ふください。
・メールアドレス:recruit@delusion-inc.co.jp
【お電でん話わでのご応おう募ぼ】
下か記き番号ばんごうまで直ちょく接せつお電でん話わいただき、「編へん集しゅうアシスタント募ぼ集しゅうの件けんで」とお伝つたえください。
・電でん話わ番号ばんごう:050-31d4-82a9(採用担当さいようたんとう:人じん事じ部ぶ宛あて/平日へいじつ 10:00~18:00)
※定員ていいんに達たっし次し第だい、募ぼ集しゅうを締しめ切きらせていただきます。予あらかじめご了承りょうしょうください。

 ──ディリュージョン社しゃ!
 わたしの目めは、【アルバイト募ぼ集しゅう】の下したに書かかれた「ディリュージョン社しゃ」の文字もじに釘くぎ付づけになる。
 ──あの・・ディリュージョン社しゃからのバイト募ぼ集しゅう……。
「プロの編へん集しゅう・校正こうせいスキル、論ろん理り的てきな文ぶん章しょう構成こうせい力りょくが実じつ務むを通とおして身みにつきます」という文ぶん章しょうが光ひかってる!
 ──文ぶん章しょう力りょくが身みにつくだけじゃなく、お金かねまで手てに入はいる! まるで、わたしのために神様かみさまが用よう意いしてくれたアルバイトじゃないか!
 神かみに感謝かんしゃしようと、背はい後ごを振ふり返かえる。しかし、そこにはもう影法かげぼう師しはいなかった。
 まるで、夏なつの日ひの陽炎かげろうのように、消きえていた。
 このとき、わたしは気きづくべきだった。神かみにも、いろんな種類しゅるいがある。死しに神がみも、その一ひとつであることに……。

「どう? いい条じょう件けんだと思おもわない?」
 駅前えきまえでバイトのチラシをもらった日ひの夜よる、わたしたち三姉し妹まいは、久々ひさびさに教授きょうじゅの洋館ようかんに行いった。
 壁かべを埋うめ尽つくした本棚ほんだな。床ゆかには、入はいりきらなかった本ほんが山やまを作つくっている。その間あいだに座すわってる真衣まいと美衣みいに、もらったチラシを見みせる。
 覗のぞきこむようにして文ぶん章しょうを読よんでいた二人ふたりは、顔かおを見合みあわせて言いった。
「いいんじゃない!」
 よし、これで決きまった。
 でも──。
「二人ふたりとも、学校がっこうのほうはいいの?」
「大だい丈じょう夫ぶ。陸りく上じょう部ぶのほうは自じ主練しゅれんだし、どうとでもなるわ」
 真衣まいが答こたえる。
「わたし、元々もともとバイトするつもりだったし──。ちょうどいい」
 これは、美衣みい。
 次つぎ、わたしはチラシに書かかれた勤きん務地むちを指ゆびさす。
「ここ見て。『神隠島かみかくしま』って、見み覚おぼえない?」
 わたしの言こと葉ばに、二人ふたりがハッとする。
 この春はる──教授きょうじゅが行ゆく方え不ふ明めいになるときがあった。そのとき、洋館ようかんのテーブルに写真しゃしんが残のこされていた。海うみの上うえから島しまを撮とった写真しゃしん。裏うらには『神隠島かみかくしま』と書かかれていた。
 戻もどってきた教授きょうじゅに、わたしたちはきいた。
「神隠島かみかくしまに行いってたの?」
 うなずく教授きょうじゅに、さらにきく。
「何なにか事じ件けんがあって、解決かいけつしに行いったの?」
「う~ん、ちょっとね……」
 この言いい方かた、普ふ通つうの人ひとなら誤魔化ごまかしてるんだろうけど、教授きょうじゅの場ば合あいはそうとは限かぎらない。純じゅん粋すいに忘わすれてる可か能性のうせいのほうが高たかい。
 何なにもわからないまま、今日きょう、『神隠島かみかくしま』という文字もじに再会さいかいした。
「本当ほんとうに何なにをしに行いったんだろうね?」
 美衣みいのつぶやき。わたしたち3人にんは、ソファーで眠ねむっている教授きょうじゅを見みる。
 わたしたちが高校こうこうに進学しんがくし、なかなか3人にんで洋館ようかんに来くることもできなくなった。でも、ちゃんと餌えさを食たべてるのか肌はだつやはいいし、鼻はなも乾かわいていない。
 教授きょうじゅに常じょう識しきはない。食しょく事じは規き則正そくただしく、朝あさは起おきて夜よるには寝ねる──こういう普ふ通つうの生活習慣せいかつしゅうかんを持もっていない。
 起おきてる間あいだは、ソファーに寝ね転ころんで推すい理り小しょう説せつを読よむ。眠ねむくなったら寝ねる。食しょく事じをするのは忘わすれて、起おきてる間あいだは本ほんを読よむ。梅雨つゆ時どきにはカビが生はえて、黒くろい背せ広びろが緑色みどりいろになったりする。
 生活せいかつ力りょくはないけど生命せいめい力りょくにはあふれてるので、こんな生活せいかつをしていても死しぬことはない。
 真衣まいが寝ねている教授きょうじゅに向むかってきく。
「教授きょうじゅ、神隠島かみかくしまに何なにしに行いったの?」
「…………」
 反応はんのうなし。眠ねむったままだ。
 今こん度どは美衣みい。
「教授きょうじゅ、起おきて! ご飯はんだよ!」
「…………」
 反応はんのうなし。ちゃんと餌えさをもらってるから、言こと葉ばだけじゃ起おきないようだ。
 真衣まいと美衣みいの視し線せんを受うけ、真しん打うち登場とうじょう。わたしは家まえから持もってきた棒ぼうに糸いとを結むすび、その先さきにカレーパンをくくりつけた。
 そのカレーパンを、教授きょうじゅの鼻先はなさきに持もっていく。棒ぼうを持もつ手てに、全神経ぜんしんけいを集中しゅうちゅうする。教授きょうじゅの口元くちもとが、ピクッと動うごく。
 今いまだ!
 カレーパンを狙ねらって教授きょうじゅが跳はねる! その瞬しゅん間かん、わたしは棒ぼうを引ひいてカレーパンを守まもった。
 獲え物ものを逃のがした教授きょうじゅが、ソファーの上うえに立たち上あがる。
 教授きょうじゅは寝起ねおきが悪わるい。下手へたに起おこそうとすると、大おおけがする羽目はめになる。
 カレーパンを守まもったわたしは、教授きょうじゅに向むかって言いう。
「おはよ、教授きょうじゅ。いろいろ話はなしがあるんだけど、いい?」
 教授きょうじゅの視し線せんが、わたしたち三姉し妹まいを超こえて、カレーパンをとらえる。
「……カレーパン」
 つぶやく教授きょうじゅ。どうやら、カレーパンを与あたえないと、まともな話はなしはできないようだ。

「ねぇ、教授きょうじゅ。神隠島かみかくしまに何なにしに行いったの?」
 2個目こめのカレーパンをレーダー探たん査さするように探さがしている教授きょうじゅに、わたしたちはきいた。
「神隠島かみかくしま?」
 ……どうやら、神隠島かみかくしま自じ体たいを忘わすれているようだ。
 わたしたちは、顔かおを見合みあわせる。
 ──これ以い上じょう、きいても無駄むだ?
 ──そうみたいだね。
 ──別べつにいいじゃん。教授きょうじゅが神隠島かみかくしまのこと忘わすれてても。
 こういうとき、三姉し妹まいというのは便べん利りだ。声こえに出ださなくても、だいたい考かんがえてることが通つうじる。
 わたしは、教授きょうじゅにチラシを見みせる。
「ねぇ、教授きょうじゅもバイトしない?」
「交通こうつう費ひも、バイト期き間かん中ちゅうの食しょく事じ代だいも、全ぜん部出ぶでるんだよ」
「それに、バイト先さきの『神隠島かみかくしま』は、教授きょうじゅも知しってるところでしょ?」
「カツカレェ島しま? ……まだ食たべたことないなぁ」
 わたしの頭あたまの中なかで、海うみに浮うかぶ神隠島かみかくしまに巨大きょだいなお玉たまでカレーが掛かけられる。ご丁寧ていねいに、巨大きょだいなカツも乗のっている。
「アルバイトねぇ……」
 教授きょうじゅがチラシを手てに取とり中なか身みを読よむ。
「ふ~ん、ディリュージョン社しゃのアルバイトなんだ」
 さすが、本ほんだけはたくさん読よんでる教授きょうじゅ。ディリュージョン社しゃのことは知ってるんだ。
「どういう会社かいしゃなの?」
 首くびをひねる真衣まいと美衣みいに、わたしが説明せつめいする。
「物もの語がたりを現実げんじつ世せ界かいで完璧かんぺきに体験たいけんできる新あたらしいエンターテインメント『メタブック』を提てい供きょうする会社かいしゃよ。本ほん好ずきには、とっても有名ゆうめいな会社かいしゃね」
 本ほん好ずきではない真衣まいと美衣みいは、また首くびをひねる。
「メタブックって、なに?」
「現実げんじつ世せ界かいで体験たいけんする物もの語がたりのこと。たとえば『シャーロック・ホームズの冒険ぼうけん』をメタブックにしたら、現実げんじつ世せ界かいでホームズになりきることができるの?」
「幼よう稚ち園えんでやった“ごっこ遊あそび”みたいなもの?」
 わたしの説明せつめいに、美衣みいがつぶやいた。
「う~ん、“ごっこ遊あそび”を、いい年としした大人おとなたちが信しんじられないぐらいの大金たいきんをかけて超ちょう大おおがかりに真剣しんけんに楽たのしくやるっていったら……近ちかいかな?」
 すると、真衣まいも美衣みいもうなずいてくれた。よかった。伝つたわったようだ。
 わたしは、教授きょうじゅからチラシを取とり返かえす。
「募ぼ集しゅう内容ないようから考かんがえて、ディリュージョン社しゃに神隠島かみかくしまを舞ぶ台たいにしたメタブックの依い頼らいがあった。出版しゅっぱんされてる本ほんをメタブックにするより、完全かんぜんオリジナルのメタブックを作つくるほうが難むずかしいのは、想像そうぞうできるでしょ? まず、メタブックの舞ぶ台たいになる神隠島かみかくしまの取材しゅざいをしなければならないからね」
「ごっこ遊あそびに、そこまでするの?」
 あきれたような、真衣まいの声こえ。
 ──あやまれ! ディリュージョン社しゃの全すべての関係者かんけいしゃと依い頼者らいしゃにあやまれ!
 ……落おち着つけ、わたし。本ほんを読よまない人間にんげんには、メタブックのすごさがわからないのは当然とうぜんなんだ。
 深しん呼こ吸きゅうして、続つづける。
「メタブックを作つくる人ひとのことを“エディター”、ストーリーの内容ないようを書かく人ひとを“ライター”って呼よぶんだけど、ライターさんは普ふ通つうの小しょう説せつ家かよりはるかに能のう力りょくが必要ひつようとされてるの。たとえば『都と会かいの雑踏ざっとうのなかに身みを置おきながら、私わたしの胸むねを去来きょらいするのは、ただ底そこ知しれない寂寞せきばくの情じょうであった』なんて書かいてある本ほんも、現実げんじつ世せ界かいで体感たいかんできるように、メタブックに書かき換かえないといけないのよ」
「…………」
 わたしは、拳こぶしを握にぎりしめる。
「このバイトを通とおして、わたしは自じ分ぶんの文ぶん章しょう力りょくに磨みがきをかける! そして、すごい小しょう説せつを書かき上あげるのよ!」
 やったるでぇ! という勢いきおいのわたしに、真衣まいと美衣みいがおびえた目めを向むけてくる。
〈To Be Continued〉

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