子どもの“頭の出血”医師が「様子を見ましょう」と処置をしないときの本当の理由

Ane♡ひめ.net読者の悩みや疑問に、ベストセラー『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』著者・山本健人先生が答える #1

ライター:山本 奈緒子

外科医・山本健人医師
人体のしくみをびっくりするくらいわかりやすく面白く綴り、ベストセラーとなった『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』。その著者である外科医の山本健人医師が、このたび、第2弾となる『すばらしい医学 あなたの体の謎に迫る知的冒険』をリリースしました。

その山本医師に、子どもの怪我や身体トラブルで多いものを取材。症状が起こる理由や、覚えておくべき対処法について教えてもらいました。知っているのと知らないのとでは、これからの安心感が大きく違ってくるはず!

子どもが頭を打った! そのときどうすればいい?

──今回、子どもの怪我に関して保護者にアンケートをおこないました。返ってきた回答の中で、「ヒヤッとした場面」としてもっとも多かったのが“頭の怪我”です。子どもがうっかり頭に怪我をしてしまったとき、軽傷か重症か見分けるポイントを教えていただけますでしょうか?

山本先生:おっしゃるとおり、子どもの頭の怪我というのは非常に多くて。病院で当直勤務をしていると、「子どもが頭を打ったので救急車で病院に連れていきたい」という連絡が何回も入ります。私にも幼い子どもがいますから、子どもが頭を打ったら心配になるのは当然のことだと思います。

頻度として精密検査や治療を要するケースはとても少ないのですが、たとえ軽症と思われる場合でも、本当に大丈夫かどうかは、経過を見なければ分かりません。そこで医師は、「24時間は注意して様子を見てください」といった形で慎重に対応するのが一般的です。

──病院に行くべきか、行かなくても大丈夫か、その判断基準はあるのでしょうか?

山本先生:個別の事例を、診察することなしに医師が「病院に行かなくていい」と判断することは難しいものです。病院には、「受診しなくても大丈夫ですか」というお問い合わせが頻繁に入るのですが、実は「大丈夫」と答えることが最も難しいのです。ですから、「ご心配でしたらお手数ですが受診してください」とお伝えすることになります。

──病院に行ったものの「様子を見ましょう」だと不安に感じる保護者も多いのではないかと思います。詳しい検査をおこなう・おこなわない、の判断はどのようになされるものなのでしょう?

山本先生:頭の打撲で精密検査をおこなう場合、よく用いられるのが頭のCT検査です。しかしながら、子どもに放射線を使った検査を安易に行うのは避けたいですから、現場では「本当にCT検査が必要かどうか」を慎重に判断しています。

ではどういうときに私たちが精密検査をおこなうかといいますと、これは、「もしかしたら重症かも」と疑うべき症状をもとにしたガイドラインに従うのが一般的です(NICE clinical guidelineやカナダ頭部CTルールなど)。例えば、意識を失った、意識がぼんやりしている、虐待が疑われる、連続しない3回以上の嘔吐など、さまざまな項目があります。

まだ自分の症状を言葉で説明できない乳幼児の場合は、体の左右の動きに差がないか、目で物を追うことができているか、といったところで判断します。

──よく頭を打った後に嘔吐した、という話を聞きますが、この場合はどうなのでしょう?

山本先生:何度も嘔吐する場合は精密検査が必要とされています。ただ、頭を打ったときに1〜2回嘔吐するというのは、幼い子どもならよくあることなので、必ずしも「嘔吐したら重症」というわけではもちろんありません。保護者からすれば、「これはおおごとじゃないか!?」と焦るかもしれませんが、慌てず落ち着いて病院を受診されるとよいと思います。

頭からの出血が多くても慌てないで

──子どもが頭を怪我して出血をした場合も、保護者はびっくりしてしまうものです。こちらについても、対処法など知っておくべきことを教えていただけますでしょうか?

山本先生:頭の表面からの出血は、必ずしも「おおごと」ではありません。というのも、頭皮は血管が豊富にあるうえ、すぐ下に頭蓋骨があるので、ちょっと打っただけでも皮膚が割れてたくさん出血する、という事例がよくあるためです。

とはいえ、表面だけの傷であれば、それほど心配は要りません。先ほど伝えたような重症のサインがなければ、まずは清潔なタオルなどで傷口を圧迫し、止血を試みながら受診するのがよいでしょう。

──大きなたんこぶができた場合も、「放っておいていいのだろうか?」と不安になります。たんこぶはどういうときにできるのでしょうか?

山本先生:たんこぶは皮膚の下に血液が溜まって盛り上がったものです。頭は皮膚のすぐ下に頭蓋骨があるため、他の部位と違って内出血したとき内側に血液が浸透しない。だから外に膨らむんです。たんこぶが大きいと心配になるかもしれませんが、むしろ怖いのは、皮膚の表面には表れない頭蓋内の出血のほうです。

──もし子どもが頭を怪我したときは、慌てず対応することが大事だと分かりました。病院にかかるうえで心がけておくと良いことがありましたら、それも教えてください。

山本先生:外傷が起きた状況を、落ち着いて医師に説明できることが大切です。子どもが頭を怪我したとき、医師や救急隊員は必ず受傷機転、つまり、どんなふうに外傷が起こったかを細かく問います。

例えば、どこかから転落して頭を打った場合、その瞬間を誰かが目撃したか、目撃したなら、どのくらいの高さからどんなふうに落ち、どこをどのように打ったか、打った瞬間すぐ泣いたか、意識を失う時間があったか、などの情報は、必ず問われると思ってよいでしょう。

誰も見ておらず、気づいたら子どもが泣いていた、というような場合でも、子どもの様子を冷静に説明することが大切です。

傷跡を残りにくくするにはどうしたらいい?

──頭に限らず、怪我をしたときは傷跡がどれくらい残るかも気になるところです。対処法によって、傷跡の残り方は違ってくるものなのでしょうか?

山本先生:傷の対処法として覚えておきたいのは、傷を“湿潤環境”、つまり湿った状態に維持するほうがよいということです。昔は傷は乾燥させるほうがよい、と考えられていた時代がありましたが、今は、軟膏を塗布してガーゼで覆ったり、キズパワーパッドのようなドレッシング材で覆ったりなど、傷を湿った状態にするほうがいい、とされていますね。そうすることで、かさぶたができず、傷跡が残りにくくなるんです。

ちなみに今は、特に理由が無い限り、切り傷やすり傷の消毒も行いません。消毒液が傷の治りを悪くするためです。最も大切なのは、水道水できれいに洗浄することです。傷を縫う場合は、縫う前に消毒を行いますが、そうではない傷を消毒することは原則ありません。

膿が出たり赤く腫れたりと、感染症を起こしているサインがあれば、抗生物質(抗菌薬)が必要になる場合もあります。

──深めの傷の場合も、同じ対処法でいいのでしょうか?

山本先生:深い傷の場合は、縫わなければきれいに治らないことがあります。縫う必要があるかどうかは、病院で医師の判断を仰いだほうがいいでしょう。

もちろん、幼い子どもの場合は、局所麻酔をして縫うという処置が、大人を相手にしている場合によりはるかに大変なんです。怖がって暴れることもあるからですね。それほど深くない傷なら、専用のテープを貼付することで縫ったのと同じ効果が得られる場合もあります。この判断にも、やはり医師の診察が必要です。

すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険

すばらしい医学 あなたの体の謎に迫る知的冒険

便はなぜ茶色いのか? おならは何でできているのか? 人は何が原因で命を落とすのか? 体温はすごいetc. (『すばらしい人体』)  

「心臓が止まる」とはどういうことか? 歴史を変えた抗生物質、外科治療のはじまり、目に見えない脅威etc.(『すばらしい医学』)  

人体のしくみや「医学」という学問が、分かりやすく面白く綴られている。読み出すと、まさにその“知的冒険”にページをめくる手が止まらなくなる!
山本健人(やまもとたけひと)
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は累計1200万ページビューを超える。Yahoo!ニュース個人、時事メディカルなどのウェブメディアで定期連載。X(旧Twitter)「外科医けいゆう」アカウント、フォロワー10万人超。著書にシリーズ累計21万部突破の『すばらしい人体』『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』、(幻冬舎)ほか多数。
やまもと なおこ

山本 奈緒子

ライター

1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。

1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。