赤ちゃんの病気が判明【出生前診断】が「命を救う診断」だと胎児診断専門の産婦人科医が語る理由

赤ちゃんの命を救う診断 クリフム出生前診断クリニック院長・夫律子先生インタビュー#3

医療ライター:横井 かずえ

(写真:アフロ)

【胎児診断専門の産婦人科医・夫先生のインタビュー第1回では、出生前診断の正しい知識について、第2回では、NIPTについてと検査後のカウンセリングの重要性についてお聞きしました。最後となる第3回では、出生前診断の意義についてお話しいただきます】

赤ちゃんが生まれる前に、異常の有無を調べる「出生前診断」。

出生前診断の一番の目的は「ママとパパに安心してもらうこと」。そう語るのは、日本人として初めて胎児診断の国際資格であるFMFを取得、これまで〈5万人以上の赤ちゃん〉を診断してきた、クリフム出生前診断クリニック院長の夫律子(ぷぅ・りつこ)先生です。

「出生前診断」で、万が一、赤ちゃんの病気が判明したときは、その後の対応を考える時間を持つことができるのも診断の大きな役割です。

「ママ・パパが、我が子のことを考えて、考え抜いた結果として導き出した答えに正解・不正解はない」と話す夫先生に、改めて出生前診断の意義を伺いました。

安全に生むための準備

──夫先生はこれまで5万人以上の赤ちゃんと向き合ってきたと伺っています。改めて出生前診断の意義を教えてください。

夫律子(以下、夫先生):出生前診断(※)は、無事に赤ちゃんを産むための検査です。1番の目的は、検査を受けて異常がないことを確認して、「ああ、良かった」とママとパパに安心してもらうことだと私は考えています。

※出生前診断とは、赤ちゃんが生まれる前に実施する、すべての検査の総称です。超音波検査や羊水検査、絨毛検査、NIPT(新型出生前診断)、血清マーカーなど、すべてを含めて出生前診断と呼ばれる。

夫先生:そして2番目の目的は、万が一異常が見つかったときに、ママとパパがじっくり考える時間が持てたり、安全に産むための準備ができるということです。

病気や障がいの当事者になったとき、現状を受け入れるにはいくつかの段階が必要になります。最初はショックを受けて、否定したり混乱したりすると思います。そして時間をかけて、最終的には受け入れていくのです。

お腹の赤ちゃんに異常が見つかったときも、このように時間をかけて「受け入れていく過程」が必要です。

異常があることが判明したら

夫先生:例えば、ある赤ちゃんはお腹の中にいるときに、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)という、唇や上あごの部分が裂けて、口の中が鼻の穴までつながってしまう異常があることが見つかりました。

最初、この病気が見つかったときのママとパパの動揺はたいへんなものでした。そこで私は、ママとパパに病気の部分もエコーで見せるし、そうでない部分もたくさん見せるようにしていきました。

角度によっては口の裂けている部分がまったく映らないようにも見せられるので、「こっちから見ると、すごく男前ですね」と話したり、口元の赤ちゃんが舌を出しているところを見せて「ペロペロなめていますよ、かわいいですね」などとたくさん伝えたりもしました。

なぜなら、「お腹に病気の赤ちゃんがいる」のではなく、「お腹にかわいい赤ちゃんがいて、その赤ちゃんには、少し特別な配慮が必要な病気がある」ということを、理解してほしいと思うからです。

このママとパパは、赤ちゃんの様子を見るために、出産まで何度も私のクリニックに通ってきました。そして、いざ生まれた後のことです。ママはまったく動揺することなく、我が子を抱っこして「なんてかわいいのかしら」とつぶやいたのです。

──時間をかけて受け入れていくことで、生まれてすぐに我が子をかわいいと思うことができたのですね。

夫先生:はい。これがもしも、生まれてから初めて、我が子の口が裂けているところを目にするのだとしたら、果たしてママは、このように穏やかに、病気の赤ちゃんを受け入れることができたでしょうか? 手術できれいに治すことができるとしても、恐らく、強いショックを受けたのではないかと思います。

ママは、お腹の中にいる間から何度も、我が子の「かわいい姿」も「病気の姿」も両方を見てきたからこそ、生まれてすぐに受け入れることができたのです。

このように、子どもの病気をママとパパが受け入れるためにも、出生前診断は重要な役割を果たします。ママとパパが子どもの病気を受け入れることは非常に重要ですが、それにはやはり一定の時間が必要だからです。

第1子に障がいがあり、第2子妊娠が不安で受診するケースも

(写真:アフロ)

──ほかにはどんなケースがありましたか?

夫先生:これまで数え切れないほどの、ママとパパに出会ってきました。例えば、第1子に障がいがあって、第2子を妊娠したときに、また障がいがないか心配だから診てほしい、というママやパパも来ます。

遺伝子が関係している病気を、一般の産婦人科で調べることは難しいので、そのような患者があちこちから私のクリニックへ紹介されてくるのです。

あるママは、第1子の妊娠初期から「何か異常がありそうだが、正確なことは分からない」と言われ、不安を抱えながら出産し、生まれた子どもにはやはり重度の障がいがありました。そして、障がいを持つ第1子を介護しながら第2子を妊娠。今度こそはしっかり調べたい、と言って私のところへやってきたのです。

このようなとき、以前の私ならば「どうして第1子のときも、私のところへ来てくれなかったのだろう。来てくれてさえいれば、赤ちゃんのどこに問題があるのか、どうすれば安全に産むことができるのか、一緒に考えてあげることができたのに」と、悔しい思いをすることがありました。

しかし、今ではそのようには考えません。

私のところへ来ることで異常を早期に発見して、その結果、ママとパパが妊娠の中断を決断していたら、今、目の前にこの子はいないと思うからです。このように考えると、上の子どもは私とこのご家族を結びつけてくれた縁結びの神様のようにも思うのです。

このように、今では、私のところへ来たことで救われる命がある一方で、来なくて良かったケースもあるのかもしれない、と考えるようになりました。

後悔しない選択を──診断を続ける原動力

──出生前診断を受けようかどうしようか迷っているママとパパにメッセージをお願いします。

夫先生:私が伝えたいのは、すべてのママとパパに、後悔しない選択をしてほしいということです。

出生前診断を受けることで、赤ちゃんの病気や異常を早期に発見できれば、安全に出産するための準備ができますし、早い段階から治療を受けることも可能です。

あるいは、どうしても妊娠を継続できない、と考えることもあると思います。

私は、出産する決意とあきらめる決意の、どちらが優れていて、どちらが劣っているということは決してないと思います。なぜなら、どのママとパパも真剣に我が子のことを考えて、考え抜いた結果として導き出した答えだからです。

一方で、正解・不正解がないからこそ、ママとパパが正しい情報や診断に基づいて、自分自身で決断することが何よりも大切です。正しい情報に基づいて自分自身で導き出した答えだからこそ、どのような結果になっても後悔を最小限にできるからです。

この記事を読んだママとパパには、出生前診断についてまずは正しい情報を知ってほしいと思います。

出生前診断は、受けて終わりの検査ではありません。そうではなく、受けた後にどうするかが重要な検査なのです。

だからこそ、出生前診断を受けようと思ったら、赤ちゃんに何か異常が見つかった後もしっかり相談に乗ってくれる医療機関を選んでくださいね。

──この記事のまとめ──

胎児診断専門の産婦人科医・夫先生のインタビュー第1回では、出生前診断の正しい知識について、第2回では、NIPTについてと検査後のカウンセリングの重要性についてお聞きしました。最後となる第3回では、出生前診断の意義について、「ママとパパが安心すること」そして「万が一、病気が見つかった場合に対応を考えられるようにすること」であると教えていただきました。

「出生前診断は、受けて終わりの検査ではなく、受けた後にどうするかが重要な検査」という、夫先生の言葉が心に響きます。すべての年齢の妊婦さんがNIPTを受けられるようになった今だからこそ、「出生前診断」について、当事者だけでなく社会全体で考えていくべきテーマだと改めて気づかされました。

(取材・文 医療ライター 横井かずえ)

Baby shower ちいさな命と向き合った出生前診断9つの物語

「出生前診断」に対して、多くの人が「ダウン症の診断」や「命の選別につながる」という誤解をもっています。しかし、出生前診断で病気を発見できたことにより助かる命も少なくありません。本書は、さまざまな家族のエピソードを通し正しい出生前診断の知識を深め、命とは何かについて改めて考えることのできる一冊です。

ぷぅ りつこ

夫 律子

Ritsuko K. Pooh
産婦人科医

クリフム出生前診断クリニック院長。慶應大学法学部卒業後、生命の神秘に見せられて医学の道へ。徳島大学医学部卒業後は産婦人科医として勤務する中で、超音波検査で胎児の脳の異常を見つけたことがきっかけで胎児診断の道を進む。日本人として初めて胎児診断の国際資格であるFMFを取得。主な著書に『Baby shower ちいさな命と向き合った出生前診断9つの物語』(幻冬舎メディアコンサルティング)、毎週日曜日午前9時半からラジオ大阪で『Dr.ぷぅに聞く!おなかの赤ちゃんの声』を放送中。

クリフム出生前診断クリニック院長。慶應大学法学部卒業後、生命の神秘に見せられて医学の道へ。徳島大学医学部卒業後は産婦人科医として勤務する中で、超音波検査で胎児の脳の異常を見つけたことがきっかけで胎児診断の道を進む。日本人として初めて胎児診断の国際資格であるFMFを取得。主な著書に『Baby shower ちいさな命と向き合った出生前診断9つの物語』(幻冬舎メディアコンサルティング)、毎週日曜日午前9時半からラジオ大阪で『Dr.ぷぅに聞く!おなかの赤ちゃんの声』を放送中。

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2