【第17回】この夏だけの特別企画！　「黒魔女チョコの　魔界で!?修行日記」スペシャル連載

「パンの目印」

2025.08.18

あ、ほんとだ。ギュービッドが走ったあとに、ぽつん、ぽつんと、ちぎったパンが落ちてる。たしか、これ、ヘンゼルさんのお菓子の家の壁だったやつでは？

あっけにとられていると、遠くからギュービッドの声が飛んできて。

「ファンタジーだよ！」

あ、森に置き去りにされたヘンゼルとグレーテルみたいに、パンくずを目印にして進めってこと？

でも、ギュービッド、グリム童話をちゃんと読んでないでしょ。ヘンゼルとグレーテルがのこしたパンくずは、森の小鳥たちが食べて、目印にならなかったんだよ。

そしていま、ギュービッドが落としたパンだって……。

「カー！」

カラスがつぎつぎと食べてます。

ああ、どうしよう。たしかにファンタジーですが、これはおそろしい魔法使いのおばあさんに出会うパターン……。

ガサガサガサッ。

ひっ、むこうの枝がゆれてる！　それも、かなりはげしく！　なにかいるよ。それも、ひとりじゃない。かなり、たくさん……。

とにかく先に進むのはまずそう。ギュービッドとは離れちゃうけど、ここはいったんヘンゼルさんのもとにもどったほうがいいね。

あたしは、足音をたてないよう、そっとあとずさった。ところが……。

どすん。背中になにかがぶつかった。

ふりかえると、だれかがあたしを見おろしていた。

血走った目。ワシのくちばしみたいなかぎ鼻。耳までさけた口と、ノコギリみたいな歯。そして、カモシカみたいな二本の角。

「逃がしはしないぞ、性悪黒魔女」

黒板をひっかくような声でそういわれた瞬間、あたしはさけんだ。

「ぎゃあ！　出たぁ！」