──クイーンの最新刊『怪盗クイーン ヴェネチア・カーニヴァル』(以下『ヴェネチア・カーニヴァル』)の舞台はイタリアです。舞台はどんな経緯で決まりましたか?
1冊前の『怪盗クイーン 陽炎村クロニクル』(以下『陽炎村クロニクル』)の舞台がフランスでした。そこで担当の山室さんが「次はイタリアがいいんじゃないですか?」と提案してくれたので、イタリアになりました。お話の舞台が決まると山室さんから資料が送られてくるので、そこから調べて書いています。
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『怪盗クイーン 陽炎村クロニクル』(作:はやみね かおる 絵:K2商会)
『怪盗クイーン 陽炎村クロニクル』(作:はやみね かおる 絵:K2商会)
ヴェネチアを調べると、けっこうおもしろかったんですね。ヴェネチアは、異民族の侵入から逃げたウェネティ人が、アドリア海沿岸の潟(ラグーナ)の浅瀬や湿地に木の杭を打ち込み、その上に耐水性に優れたイストリア石という石灰質の石を積んで土地を造ったこと。道路が狭くて運河が入り組んでいるため、自動車やバイク、自転車などの車両の乗り入れや通行が禁止されていることなど、住民の意識で守られた場所なんだなと。最近は海の水位が上昇して困っているというのも、心に響きました。
──『ヴェネチア・カーニヴァル』の冒頭に登場する新キャラクター、中学校教師ロレンツォ・ビアンキは、どんな経緯で生まれましたか?
「0(ゼロ)」が関わってくるということで、子どもたちが読んだときにイメージする「数学の先生」はどんな感じだろうかと考え始めました。そしてイメージをどんどん突き進めていった結果、キリッとした風貌のロレンツォができあがったのです。
さらに頭の中でロレンツォと会話をしていく中で、年齢や性格など細かい設定がどんどん出てきます。独身なのは、やはり数学に人生を捧げているような独特な性格では結婚できなさそうだと考えたからです。
私がキャラクターを作るときには、最初から決めすぎずに名前と外見だけ出して、話を書いていくうちに「このシーンだったら、こうキャラクターはこう動く」と見えてきて、話に沿って変えていくパターンもあります。でもロレンツォは、最初から全部設定を決めていましたね。
新キャラクターのロレンツォ・ビアンキ。 イラスト:K2商会
「AIの進化」は「人間の退化」
──本作では、執筆の際に「生成AI」の力を借りたとおうかがいました。どんな風にAIを使いましたか? またAIを使ってよかったところ、もうちょっとこうしてくれたらと思ったところなどを教えてください。
ヴェネチアのカーニヴァルは、イベントが開催される時間などがスケジュールで決まっています。物語の終盤に、ある舟が桟橋に到着しますが、そのときの潮位がどのくらいかをAIにききました。そうしたら、「その時間帯なら、階段の1、2段目あたりまで見えています」と即答で。「すごいな!」と思いましたね。
でも、いろいろ条件を書いて「伏線を張ってくれ」と考えさせましたが、何度やってもうまくできないんですよ。AIのヤツは伏線の意味がわかっていないなと思って、具体的な事例を挙げて伏線の意味を説明したら「勉強になりました」と返ってきたんです。
私の代わりにAIに書いてもらおうと思っていたのに、その前にAIに勉強させなければならないとなって、もうやめました。結局は自分で考えた方が早い。だから、進化中のAIはまだ不得意なところがありますね。
8月16日に名古屋で行われた「はやみねかおる 赤い夢学園林間学校2026」では、赤い夢学園のRDとはやみねさんが、1400文字の短編ストーリーを書いて評価を競った。
──赤い夢学園RDプロジェクト開始のインタビューで、物語のRDはいずれ「神」のような存在になるとおっしゃっていました。
私は、「AIの進化」は同時に「人間の退化」だと思っています。今回『ヴェネチア・カーニヴァル』を執筆しながら、AIは人間が考えられない精度で「確率」の計算をできるものではないかというのが、自分の中から出てきた答えのひとつ。量子力学に「多世界解釈」という考え方があります。物体の状態が確定するたびに宇宙が枝分かれし、あらゆる可能性の数だけパラレルワールド(並行世界)が同時に存在するとされています。
じゃあその世界を確定したのは誰なのか?
それがAIです。だからAIは神のような存在になると考えています。AIに究極の命令を出したらどうするのかと考えると、「神」を創り出すだろうと思ったからです。人間の上位存在として「神」がいて、今のところ人間の下位存在がAIです。RDのようなAIが次になにをするかといったら、人を創造した「神」を創造していくのではないかと考えたんです。
──改めて「怪盗クイーン」シリーズを通して、書きたかったテーマはなんですか?
クイーンは「あるもの」を盗む存在として書きたかったんです。