月と虫の声を愛でながら…「秋の夜長を楽しみたいとき」おすすめの絵本
大人に効く絵本〔14〕『ネコヅメのよる』『もっかい!』『なく虫ずかん』がおすすめ
2021.10.13
第14回は、絵本専門士・井上まどかさんが「秋の夜長を楽しみたいとき」におすすめの3冊を紹介します。
猫たちが心待ちにする不思議な夜のお話
秋へ移ろうとともに、日に日に夜が長くなりました。暑さは和らぎ、窓を開ければ、聞こえてくる虫の声。心地よい夜風が入ってきて、空にはきれいな月。とっても気持ちがいいですよね。
そんな秋の夜、パパママがひとりで、または、お子さんと一緒に、どんな風に過ごしたいかを思い浮かべながら、「月」「おやすみ前の読み聞かせ」「虫の声」をキーワードにセレクトしてみました。
はじめにご紹介するのは『ネコヅメのよる』(作:町田尚子)。正直に言いますと、私は“犬派”なのですが、インパクトのある表紙の猫に魅かれて、思わずジャケ買いしてしまった絵本です(笑)。
――猫の表情が、とってもリアルですね。
表紙の猫・主人公の白木(しらき)さんは、作者の町田尚子さんの飼い猫なのだそうです。ほかにも、ギャラリーの猫、本屋の猫など、町田さんの知り合いの飼い猫がたくさん登場しています。モデルが実在するからこそ、よりリアルで魅力的なのかもしれませんね。今にも猫たちの声や息遣(づか)いが聞こえてきそうです。
夜、猫たちは一体どこで何をしているのでしょうか。
読み進めるうちに、だんだんと真相が明らかになっていきます。「おや?」「あれ?」「もしかして……」と、文章は1ページにほんの少しだけ。ミステリアスで緊張感のあるストーリー展開です。
――夜、猫たちが公園で集まっているのをときどき見かけるのですが、<もしかして“この夜”だったのかも>と、妙に納得してしまいました。
わかります! そういった現実とのリンクも楽しい1冊ですね。
もし、おうちの飼い猫ちゃんが、窓の外をぼんやり眺めていたら――。
猫たちが待ち望んでいた、夜空に浮かぶ“あるもの”の正体とは? 秋の月夜にぴったりの絵本、ぜひ読んでいただきたいです。
読み聞かせの苦労を分かち合おう
お母さんが絵本を読み終えた途端、もう一度読んでほしいセドリックは言いました。「もっかい!」
今度はストーリーを少し変えて読んであげても、まだまだ読んでほしいセドリック。「もっかい!」
そうして、何度も読み聞かせるうち、お母さんはだんだん眠くなってしまいます。ストーリーは短くなり、内容も何だかちょっと変。ついに眠ってしまったお母さんに、セドリックは「もっかい!もっかい!」と、顔を真っ赤にしながら怒って……。
ラストに待っているのは、遊び心いっぱいの仕掛け。現実とファンタジーが入り混じっているような楽しい絵本です。
子どもと絵本を読む時間は大切だけど、お仕事や家事で疲れているとき、何度も「もっかい!」とせがまれるのは、なかなかツライですよね。<うちの子とそっくり!><わが家と同じだ>と、お母さんドラゴンに共感してしまうのではないでしょうか。
――絵本を短くアレンジする方法は、多くのパパママが使っていそうです(笑)。
ですよね(笑)。たしかに、幼児期の子育ては、寝かし付けをひとつとっても大変かもしれません。でも、お子さんが大きくなったら、「もっかい!」と言われていた日々が、きっと愛おしくなるはず。
そのときが来るまで。静かな秋の夜、ひとり、この絵本を読みながら共感したり笑ったりして、癒やされていただきたいなと思います。