月と虫の声を愛でながら…「秋の夜長を楽しみたいとき」おすすめの絵本

大人に効く絵本〔14〕『ネコヅメのよる』『もっかい!』『なく虫ずかん』がおすすめ

外で読書するにも最適な秋。子どもと一緒に、ときにはひとりで、ゆったりとした時間が過ごせる3冊の絵本を紹介します。
写真:アフロ
美しい絵に癒やされたり、ハッと気付かされたりと、大人にとっても感動がいっぱいの絵本。この連載では、“絵本のプロ”がパパママにこそ読んでほしい絵本をテーマに合わせてピックアップ。

第14回は、絵本専門士・井上まどかさんが「秋の夜長を楽しみたいとき」におすすめの3冊を紹介します。

猫たちが心待ちにする不思議な夜のお話

――今回は、どんな思いで選書されたのでしょう?

秋へ移ろうとともに、日に日に夜が長くなりました。暑さは和らぎ、窓を開ければ、聞こえてくる虫の声。心地よい夜風が入ってきて、空にはきれいな月。とっても気持ちがいいですよね。

そんな秋の夜、パパママがひとりで、または、お子さんと一緒に、どんな風に過ごしたいかを思い浮かべながら、「月」「おやすみ前の読み聞かせ」「虫の声」をキーワードにセレクトしてみました。

はじめにご紹介するのは『ネコヅメのよる』(作:町田尚子)。正直に言いますと、私は“犬派”なのですが、インパクトのある表紙の猫に魅かれて、思わずジャケ買いしてしまった絵本です(笑)。

――猫の表情が、とってもリアルですね。

表紙の猫・主人公の白木(しらき)さんは、作者の町田尚子さんの飼い猫なのだそうです。ほかにも、ギャラリーの猫、本屋の猫など、町田さんの知り合いの飼い猫がたくさん登場しています。モデルが実在するからこそ、よりリアルで魅力的なのかもしれませんね。今にも猫たちの声や息遣(づか)いが聞こえてきそうです。

夜、猫たちは一体どこで何をしているのでしょうか。
読み進めるうちに、だんだんと真相が明らかになっていきます。「おや?」「あれ?」「もしかして……」と、文章は1ページにほんの少しだけ。ミステリアスで緊張感のあるストーリー展開です。

――夜、猫たちが公園で集まっているのをときどき見かけるのですが、<もしかして“この夜”だったのかも>と、妙に納得してしまいました。

わかります! そういった現実とのリンクも楽しい1冊ですね。

もし、おうちの飼い猫ちゃんが、窓の外をぼんやり眺めていたら――。
猫たちが待ち望んでいた、夜空に浮かぶ“あるもの”の正体とは? 秋の月夜にぴったりの絵本、ぜひ読んでいただきたいです。
猫好きの間でブームを巻き起こした話題作『ネコヅメのよる』(作:町田尚子/WAVE出版)。愛猫家としても有名な作者が、猫たちのミステリアスな夜を描く。

読み聞かせの苦労を分かち合おう

続いてご紹介するのは『もっかい!』(作:エミリー・グラヴェット、訳:福本友美子)です。主人公は、ドラゴンの子ども・セドリック。人間の子どもと同じように、おやすみ前の時間、お母さんにお気に入りの絵本を読んでもらうのが大好きです。

お母さんが絵本を読み終えた途端、もう一度読んでほしいセドリックは言いました。「もっかい!」

今度はストーリーを少し変えて読んであげても、まだまだ読んでほしいセドリック。「もっかい!」

そうして、何度も読み聞かせるうち、お母さんはだんだん眠くなってしまいます。ストーリーは短くなり、内容も何だかちょっと変。ついに眠ってしまったお母さんに、セドリックは「もっかい!もっかい!」と、顔を真っ赤にしながら怒って……。

ラストに待っているのは、遊び心いっぱいの仕掛け。現実とファンタジーが入り混じっているような楽しい絵本です。

子どもと絵本を読む時間は大切だけど、お仕事や家事で疲れているとき、何度も「もっかい!」とせがまれるのは、なかなかツライですよね。<うちの子とそっくり!><わが家と同じだ>と、お母さんドラゴンに共感してしまうのではないでしょうか。

――絵本を短くアレンジする方法は、多くのパパママが使っていそうです(笑)。

ですよね(笑)。たしかに、幼児期の子育ては、寝かし付けをひとつとっても大変かもしれません。でも、お子さんが大きくなったら、「もっかい!」と言われていた日々が、きっと愛おしくなるはず。

そのときが来るまで。静かな秋の夜、ひとり、この絵本を読みながら共感したり笑ったりして、癒やされていただきたいなと思います。
イギリスの歴史ある絵本文学賞「ケイト・グリーナウェイ賞」を二度受賞した人気絵本作家、エミリー・グラヴェット作。絵本に施された仕掛けも楽しい『もっかい!』(作:エミリー・グラヴェット、訳:福本友美子/フレーベル館)。
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