2021.08.04

4冠達成! 2019年を代表する奇跡の絵本『なまえのないねこ』

2020年度 第51回 講談社絵本賞

「講談社絵本賞」歴代の受賞作(一部)、『ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社)、『こんとあき』(福音館書店)、『あらしのよるに』(講談社)

みなさんは、「絵本賞」ときくと、なにが思い浮かびますか? 「日本絵本賞」「MOE絵本屋さん大賞」など、書店や絵本の帯などで見かけたことがあるという方も多いのではないでしょうか。「○○賞受賞」となっていると、絵本でも書籍でも、つい手にとってしまいますよね。

講談社には、講談社絵本賞という、1970年から52年間も続いている賞があります。

歴代の受賞作には、『ねずみくんのチョッキ』(作・なかえよしお 絵・上野紀子 ポプラ社)、『こんとあき』(作・林明子 福音館書店)、『あらしのよるに』(作・きむらゆういち 絵・あべ弘士 講談社)など、だれもが読んだことのある名作絵本たちがずらりとならんでいます。

このようなロングセラーの名作絵本は、どうやって選ばれているのでしょうか。今年の講談社絵本賞受賞作とともに、ご紹介します。

ねこが「ほんとうにほしかったもの」

講談社絵本賞は、1年間に刊行されるたくさんの絵本の中から、4月もの選考を経て、たった1冊だけが選ばれます。昨年度(第51回)は、コロナの影響で贈呈式が延期となってしまったため、2年分の贈呈式が、先日(21年5月26日)リモートにて開催されました。

第51回受賞作は、こちらの絵本!

2020年度 第51回 講談社絵本賞 受賞作
『なまえのないねこ』(文・竹下文子 絵・町田尚子 小峰書店刊)

名前のない野良猫が「ほんとうにほしかったもの」に出合うまでのお話が丹念に描かれています。

「ほんとうに欲しかったもの」を見つけるシーンでは、読んでいるだれもが心動かされるはず。
大人の方にも、お子さんへの読み聞かせにも、ぜひ読んでほしい心に響く1冊。

こちらの印象的な猫の絵が表紙の絵本を、書店で見かけた人も多いのでは? 

今回、「講談社絵本賞」を受賞したことで、第12回MOE絵本屋さん大賞2019 第1位、第10回リブロ絵本大賞受賞、第3回未来屋えほん大賞受賞、4冠達成という無双っぷり! まさに2020年を代表するねこ絵本といっても過言ではありません。

こんなすごい絵本を作ったのは、もちろんすごいお二人。

文を担当された竹下文子さんは、これまでたくさんの子どもたちに物語の世界を届けてきました。

贈呈式当日のお話では、ご自身の過去を振り返りながら、作品について語ってくださいました。

「人は名前を呼ぶことで、周囲の人やたくさんの生き物、色々なものと一生懸命関わりを持とうとします。私自身、積極的に関わることが苦手でした。ですが、人のいないほうへと行きついた場所から、このようなものを描いているんだなと、作品を通して、改めて自分を知ることができました」
(竹下文子氏)

絵を担当されたのは町田尚子さん。猫が大好きな町田さんが描く猫は、猫よりも猫にみえます。これまでは、『ネコヅメのよる』(WAVE出版)、『さくらいろのりゅう』(アリス館)などを出されています。

贈呈式当日のお話では、お膝に可愛い猫をのせながら、絵本への想いをお話してくださいました。

「初めて竹下さんの文章を読んだときに、まるで自分が書いた文章なのではないかと感じました。いつも、絵本の依頼があると、描けない。と思ってしまうのですが、この時は、描けないとも思わず、当たり前のように受け止めることができたんです。この先も、私にとって奇跡の1冊であり続けるのだと思います」
(町田尚子氏)


これまでリモートで話をする機会が少なかったため、リモート贈呈式が不安だったと言っていたお二人。当日はそんな不安を感じさせないような落ち着いた様子で、笑顔でカメラに向かってお話ししてくれました。

受賞の言葉を聞いて、『なまえのないねこ』は、お二人の想いが通じ合ってできた特別な冊なのだと感じました。

贈呈式当日、会場に飾られた受賞作『なまえのないねこ』

なぜこの絵本が選ばれたのか?

受賞作は、数ある候補作の中から、選考委員の先生方が最終選考会にて協議をして、冊に絞られます。

選考委員の先生方は、1ヵ月以上かけて、たくさんの候補作を真剣に何度も読みこみ、最終選考会を迎えます。読み返すうちに、感想が変わっていったりしたようすを伺うと、絵本の奥の深さを感じました。

2020年度の最終選考会は、初となるリモートでの開催。慣れない画面越しでの選考会でしたが、例年と同じく、白熱した選考会となりました。

選考会最後に、満場一致で選ばれたのが『なまえのないねこ』でした。

贈呈式では、この絵本の何が素晴らしかったのか、選考委員の先生方より熱いコメントをいただきました。


「言葉も絵も見事に無駄がない。生きていくうえで基盤になる「一番大切なものは何か」という深いテーマですが、ユーモアのある絵と語り口で、読み手も楽しめる要素がたくさんあって、上質な絵本に仕上がっているのは、おふたりの日々の丁寧な暮らしがあってこそ。作品を作るうえで、とても大切なことだと思う」
(きたやまようこ氏)

「場面設定が素晴らしい。テキストと絵が一体化しているという町田さんの言葉もうなずけます。さりげなく最後のポイントにもってくるところがさすが。ネコとともに、自分を感じさせるような、いい絵本だと思います」
(高畠純氏)

「自分たちが今生きている環境が、名前はあるけれど、名前のない扱いをされているようで。この絵本は、自分を認識してくれる、今の世の中に一番大切なことが描かれていると思いました」
(長谷川義史氏)

都内のホテルで、初のリモートで開催された贈呈式。
受賞者と選考委員の先生方は、ご自宅などからのご参加でした。
ご自宅から、あたたかい選評をくださった選考委員のきたやまようこ先生。


選考委員の先生方の選評を伺い、この絵本が発売から短い間に、こんなにもたくさんの方に支持され、自分のことのようだなどと語られている秘密がわかった気がしました。

ねこ目線で展開されるお話ですが、竹下さんの素晴らしい文章と、町田さんのリアルな絵によって、自然に主人公のねこの気持ちに入りこむことができ、そして、最後には、ねこの幸せを喜びながらも、自分自身がふんわりと肩を叩かれたような、優しい読後感がある作品。

絵本は、子どもが読むものと思われがちですが、大人が読んでも、癒されたり、気付くことがある作品がいっぱいあります。

家で過ごす時間が増えた今だからこそ、絵本の世界にふれて、心をリフレッシュすることもいいかもしれない、そんなとき、まず思い出したい1冊です。

取材・文 西垣玲


竹下文子
(たけしたふみこ)
1957年、福岡県門司市生まれ。64歳。東京学芸大学教育学部卒業。
大学で幼児教育を学び、在学中に童話集『星とトランペット』(講談社)でデビュー。同書で1979年、第17回野間児童文芸推奨作品賞受賞。1995年『黒ねこサンゴロウ〈1〉旅のはじまり』『黒ねこサンゴロウ〈2〉キララの海へ』(偕成社)で第17回路傍の石幼少年文学賞、2009年『ひらけ! なんきんまめ』(小峰書店)で第56回産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2020年『なまえのないねこ』(小峰書店)で第25回日本絵本賞、第30回けんぶち絵本の里大賞びばからす賞、第51回講談社絵本賞受賞を受賞。その他の著書に、『むぎわらぼうし』(講談社。第8回絵本にっぽん賞受賞)、「クッキーのおうさま」シリーズ(あかね書房)、「おてつだいねこ」シリーズ(金の星社)、『風町通信』『木苺通信』(ポプラ社)などがある。
猫飼い歴37年、現在3匹(真鈴、クレ、コマ)と暮らす。


町田尚子(まちだなおこ)
1968年、東京都生まれ。52歳。武蔵野美術大学短期大学部卒業。
絵本作品に『小さな犬』(白泉社)、『いるの いないの』『あずきとぎ』(京極夏彦・作 東雅夫・編/岩崎書店)、『おばけにょうぼう』(内田麟太郎・文/イースト・プレス)、『さくらいろのりゅう』(アリス館)などがある。2017年『ネコヅメのよる』(WAVE 出版)で第27回けんぶち絵本の里大賞びばからす賞、2019年『たぬきの花よめ道中』(最上一平・作/岩崎書店)で第24回日本絵本賞、2020年『なまえのないねこ』(小峰書店)で第25回日本絵本賞、第30回けんぶち絵本の里大賞びばからす賞、第51回講談社絵本賞を受賞。
一緒に暮らしているねこの名前は、白木とさくら。


講談社絵本賞


絵本において新分野を開拓し、質的向上に寄与した優秀な作品に対して贈呈される賞。第50回を機に、講談社出版文化賞絵本賞から名前が変わりました。

選考委員
・きたやまようこ
・高畠純
・武田美穂
・長谷川義史
・もとしたいづみ