撤退しても、夢は消えなかった──遠回りばかりの人生が、いちばん強かった理由(わけ)

【第3回】絵本『あちちち地球とだいじなやくそく!』発売記念! 国連広報センター所長・根本かおるさん×さかなクン スペシャル対談! (2/2) 1ページ目に戻る

根本かおるさん
根本かおるさん
撮影/日下部真紀
根本さん:私は40代後半のころ、心身ともに不調をきたし、2年ほど休職したことがあります。もっと楽に、自分が取り組めるやり方があるんじゃないかと考えて、その職場を辞めました。

結果的に、それが今の仕事につながっていて、あのとき一度撤退した経験は、自分にとって大きな財産になっています。撤退しても「自分はなんとかなる」と思える自信がついたんです。

困ったときは、こう相談すればいい。なにがなんでも火の玉みたいにがんばらなくてもいい、ということも学びました。 

「撤退する勇気」と「転んでもただでは起きない」。これが私のモットーですね。
あちちち地球とだいじなやくそく! ニコとサクの大冒険
世界中をめぐり、温暖化はやっぱり自分のせいなのかもしれない…と、悲しい気持ちが溢れそうになるシーン。
──素晴らしいですね。さかなクンは「撤退する勇気」について、いかがでしょうか?

さかなクン:はい、さかなクンは撤退しまくりました……(苦笑)。

どんなことがあっても、絶対にお魚の道に進みたいと強く思っていました。お魚に関わるお仕事をしたくて、水族館さんの飼育員さんになろうとしたんです。でも、いざ勤めてみると、お魚だけに集中できないんですよね。

機械の点検や水質管理、餌づくりに掃除……。機械はとっても複雑で覚えることは多いし、おっちょこちょいで餌は床にぶちまけるし。お魚以外のことが全然覚えられなくて、「これはちょっと自分には無理かもしれないな」としばらくして撤退しました。

熱帯魚屋さんでは、「この子(お魚)かわいい、やっと餌付いた!  元気になってきた!」と思ったら、どんどん売られていく。それが、どうしてもつらくて……。お寿司屋さんで修行してみたときは、握ったお寿司がおにぎりみたいになぜか大きくなりすぎてしまって、「ダメだ、これは」と。

なにが自分に合っているのかがわからず、当時はたくさん悩みました。でも、今ふり返ると、どれも大切な「撤退」だったなと思います。

あるとき、お寿司屋さんの大将さんがとてもやさしい方で、「君は寿司職人には向いてないね。だったら、壁いっぱいに魚の絵を描いていいよ」と貴重なギョ経験をくださったんです。その絵を描く日々をテレビ局の方が取材してくださり、ドキュメンタリー番組になりました。そこから、“さかなクン”のお仕事につながっています。

根本さん:なにが幸いするかわからないですよね。

さかなクン:はい。全部、無駄ではギョざいません。お寿司屋さんや水族館さんで学ばせていただいたことは、とっても貴重な知識となり、さまざまな場でお魚の魅力とともにお伝えできる宝でギョざいます。
さかなクン
さかなクン
撮影/日下部真紀
根本さん:私は大学卒業後、最初に就いた仕事がアナウンサーでした。でも、東京の民放キー局は標準語が基本ですよね。関西出身の私は方言が強くて、ニュースが終わるたびに先輩に呼び出され、イントネーションがおかしいと注意されていました。

それがつらくなって、「この会社の中で、ほかに私にできること、やりたいことは何だろう」と考え始めたんです。すると、アナウンサーという仕事は、ひとつの入り口にすぎなくて、自分が本当にやりたいのは「伝えること」だと気づきました。

それなら、報道の仕事も同じ。自分の足で情報を集め、リポートし、原稿を書く。そのほうが向いているんじゃないかと思い、報道局に異動させてもらいました。ふり返ると、報道記者時代の人脈や学び、理解がなければ、今の自分はありません。

さかなクン:すギョい‼︎ 好きなことを探すためには、撤退してもいい。根本さんからのすギョく素敵なお言葉です‼︎

根本さん:人生は、直線じゃない、ということですね。

さかなクン:はいっ! 同時に、自分が好きなこと、夢中になれることは、ときには撤退しながらでも、揺るがずに「好きな気持ち」を持ち続ける。それも大切なんだなと思います。

──根本さんは「伝えること」、さかなクンは「魚」に携わりたい。その原点となる、「あ、これが好きなんだ」と気づいた瞬間はありましたか?

根本さん:子どものころから、いろんな民族の方がガヤガヤと集まっている場所が好きでした。スパイスの香りも含めて。

父が商社勤務だったので、海外からのお客さんが家に来ることもありましたし、神戸で育ったこともあって、街に出ると多国籍な文化に自然と触れられる環境だったんです。

そうした経験が、世界のことに関心を持つ土台になっていたのかもしれません。

さかなクン:自分は、友達が描いてくれたタコの絵がきっかけでした。ノートから飛び出してくるような、すギョく力強いタコちゃんだったんです!

「こんな生き物がいるのか!」とわくわく調べ始めて、海に行くようになりました。潮風がさわやかだな~、波の音が心地いいな……と、だんだん海が大好きになって通うようになりました。

根本さん:ニコとサクと同じで、出会いが人生を変えた、ということですね。

さかなクン:はいっ♬ その前は、町を走っているダンプトラックちゃんやゴミ収集車ちゃんを見るとワクワクして、とにかく夢中だったんですよ♪

そのころはトラックちゃんの絵ばかり描いていたので、もしかしたら「とらっくクン」になっていたかもしれません(笑)。
根本かおるさんとさかなクン
根本かおるさん(写真手前)とさかなクン(写真奥)
撮影/日下部真紀
撤退したからこそ、思いがけない出会いがあり、居場所が見つかる。それはニコの物語とも、どこか重なっています。ペットボトルに“撤退”したからこそ、ニコはサクと出会い、世界を巡る旅に出ることができたのです。

絵本『あちちち地球とだいじなやくそく!』は、「がんばり続けること」だけが正解ではないこと、そして遠回りや立ち止まりの先にも、新しい道は必ずあるということを、教えてくれます。読み終えたあと、自分のこれまでの選択や、これからの一歩を、前向きに見つめ直したくなる──そんな一冊です。

では、この物語と生きる「いま」の世界で、私たちはどんな力を身につけていけばいいのでしょうか。

AIによって、もっともらしい情報や映像が、いくらでも作られる時代。気候変動をめぐっても、正しい情報とフェイクが入り混じり、「なにを信じればいいのかわからない」と感じる人は少なくありません。

最終回は、フェイクニュースの時代になにを疑い、なにを信じ、どう考えるか。そして、子どもたちにどんな視点を手渡せるのかを、二人の言葉から探っていきます。

『あちちち地球とだいじなやくそく! ニコとサクの大冒険』好評発売中!

あちちち地球とだいじなやくそく! ニコとサクの大冒険

あちちち地球とだいじなやくそく! ニコとサクの大冒険

こさか しほ+モノガタリラボ(作)  坂井 治(絵)  神奈川県立生命の星・地球博物館(監)

発売日:2026/02/24

価格:定価:本体1700円(税別)

●根本かおるさん
国連広報センター所長。国連の活動や地球規模課題を日本社会にわかりやすく伝え、人々の行動につなげる広報・啓発を担っている。気候変動、SDGs、生物多様性、平和や人権などをテーマに、メディア出演や講演、教育現場での発信を通じて、国内外をつなぐ役割を果たす。対話を重視した姿勢で、次世代に希望を手渡すメッセージを届け続けている。
●さかなクン
魚類学者・タレント・イラストレーターとして幅広く活躍し、東京海洋大学名誉博士・客員教授も務める。中学生時代にカブトガニの人工ふ化に成功、2010年には絶滅種クニマスの再発見に貢献した。テレビや講演では、魚への深い愛情とわかりやすい解説で人気。最新著書は『さかなクンのギョギョッとサカナ★スター図鑑4・5』(講談社、2025年11月)。

根本かおるさん×さかなクン 前回までのスペシャル対談はこちらから!

絵本『あちちち地球と大事なやくそく!』を石塚英彦さんが読み聞かせ! インタビュー&動画はこちら

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