【審査員の評価が真っ二つ】佳作で出版!? クセが強すぎるワンオペ「おとうさんねこ」登場

【前編】2022年講談社絵本新人賞佳作受賞『おんぶねこ』出版記念! 作者・殿本祐子さんによる絵本制作日記

絵本作家:殿本 祐子

佳作なのに、にゃんで出版できたのか

2022年講談社絵本新人賞への応募作品。このときのタイトルは『おんぶねこ』ではなく……。
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『おんぶにゃにゃいとにゃく』

2022年講談社絵本新人賞の選考時……。

おんぶ にゃにゃ いと にゃく ???

ハテナが飛び交う中、「これは『おんぶじゃないと泣く』ですよ~!」と、一発で読んだ人がいました。

この人が今の私の担当者さんです。

この年の新人賞は、今めちゃめちゃ大人気の『ぎょうざが いなくなり さがしています』の玉田美知子さんでした。

そんなすごい応募作品が存在する中、初めて描いた私の作品がしぶとく生き残り、佳作なのに、にゃんで、出版までこぎつけたのか……。

それは、「おんぶがいい!」「おんぶがいい!」と担当者さんが騒いでくれたからでした。

それもしぶとく。この「しぶとく」が運命を左右したのです!

「じゃあ、『おんぶにゃにゃ』も本にしたら」

編集長さま! 根負けしてくださり、ありがとうございました!

私の人生…本当は何したい? 絵本描いてみよ!

2021年の春、コロナにかかり、コロナの後遺症で、私は2ヵ月間、お風呂屋さんの仕事を休んでいました。

体調不良でしたが、仕事に追われていない分、
私の人生……本当は何がしたい?
そんなことを考える時間が生まれました。

結婚して、大阪から神戸に引っ越す前までやっていたデザインの仕事、またやりたいなぁ。

今でもお風呂屋さんのイベントのポスターやPOPを作ったり、休みの日に副業でイラストを描いたりはしてるけど、今の私、それを本業にできる?

ちょっと腕試しで、公募ガイドで何か応募してみよっかな……。

ロゴマークがいいかなぁ。
イラストもいいなぁ。
へぇ~、絵本の公募もあるんやぁ~。
ふう~ん、絵本かぁ……。
よっしゃ! 絵本描いてみよ!
わっ! でも、もうすぐ締め切りやん!(ドテッ!!)

こうして2021年はおとなしくお風呂屋さんに復帰し、2022年の新人賞に挑戦することにしました。

こんな思いつきのように描いた作品でしたが、届いた通知の「あなたの作品は、最終候補に残りましたので……」の1行が目に入った瞬間、涙が込み上がってきました(変な声も出てたと思います)。

まだ最終候補の段階なのに(笑)。

家事の手を動かしながら、泣いて、泣き止んで、また泣いてを1時間くらいやっていました。

人生初めてのうれし泣きは、思っていたよりどろくさかったです。

超初心者の応募作品 7つのツッコミどころ大公開

『おんぶねこ』より
贈呈式の日、他の受賞者のみなさんが絵本の学校のお話をされているのを聞いて

え~~っ!? 絵本の学校なんてあんの?
ここはそういう世界なん?
私、場違いとちゃう?

平静を装って、心の中では、ワーワー言ってました。

そんな超初心者の私が描いた応募作品は、ツッコミどころ満載のようでした。

ツッコミどころ その1

主人公の顔を見開きのど真ん中に描いていた。
→顔が折り目で潰れちゃうよ。と指摘される(やっぱり……)。

その2

描き進めていく中で、いい絵の具を知ってしまい、うれしくてその絵の具を途中から使っていた。
→画材は初めから終わりまで同じもので。と指摘される(ですよね。汗)。

その3

主人公をページをめくる進行方向(左から右)とは逆の方向(右から左)に走らせていた。
→ページをめくる流れに合わせたほうがいいです。と指摘される(なるほど!)。

その4

画面全部に絵を詰め込みすぎて、テキストのスペースが狭い。
→他の受賞者の方の作品は、ちゃんと広々している(めっちゃ読みやすい!)。

その5

お話を主人公の関西弁のゆるいセリフのみで展開。
→漫画なら、セリフだけってありだけど、絵本では難しいよ。と指摘される(そうなのかぁ残念)。

その6

お話の途中は我ながら面白く描けたと思うが、最後は強引に着地。ページが足りん! くらいに思っていた。
→最後の意味がわからないと大勢に指摘される(ですよね~。汗)。

その7

私の「かわいい」の感覚が世間とズレていた。
→クセが強い。との声が多すぎて、それに負けてしまう(まあまあショック)。

私はこの日、「はい、クセつよは私の持ち味です」という顔で過ごすことにしました。

2022年応募→2025年出版 にゃんでこんなに年月が?

『おんぶにゃにゃいとにゃく』 改め 『おんぶねこ』は、おんぶじゃないとギャン泣きするこねこを、泣かさないようにワンオペでお世話するおとうさんねこのお話です。

おとうさんねこが、子どもの成長によっておんぶから解放される瞬間が見せ場です。

この見せ場は応募作品にはなかったシーンで、このおんぶ解放のゴールに向かうために、2023年、2024年と描き続けることになります。

ありがたいことに、絵本の学校に通っていなかった私にとって、担当者さんが絵本の先生で、賞をいただいてから、学校に通わせてもらっている感じでした。

2023年1月、本番に向けて、贈呈式の日に指摘されたところを意識しながら、ラフからスタートしました。

打ち合わせは、神戸で暮らしているので、主にLINEのビデオ通話です(便利な世の中だ)。

担当者さんとの打ち合わせは、「応募作品のオチがよくわからないという、このトンデモナイ問題をどうするか?」から始まり、

「この場面は無くしたほうが良くなりそう」
「え~ この場面は気に入ってるんです~」などのやり取りをたくさん経て、

2023年の8月から着色スタート、年末にはいったん、32ページと表紙と裏表紙を描き終えることができましたが……。

絵本出版のお話、なくなるん!?

さて、続きは、次の記事をお楽しみに。

『おんぶねこ』2025年3月27日に発売!

クセが強い絵に子どもは笑い、大人はほろり!? 発売前から話題の、ワンオペ「おとうさんねこ」の絵本がついにできました。

作/殿本祐子 講談社刊
*ひとりで読むなら小学校低学年くらいから
*読んであげるなら4歳くらいから
*すべてひらがな
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とのもと ゆうこ

殿本 祐子

Yuko Tonomoto
絵本作家

第43回(2022)講談社絵本新人賞佳作『おんぶにゃにゃいとにゃく』を改稿した『おんぶねこ』でデビュー。保護猫といっしょに兵庫県で暮らしている。

第43回(2022)講談社絵本新人賞佳作『おんぶにゃにゃいとにゃく』を改稿した『おんぶねこ』でデビュー。保護猫といっしょに兵庫県で暮らしている。