第46回(2025年)講談社絵本新人賞 贈呈式のようす・受賞者の言葉・審査員の選評

受賞者のみなさん。左から、かい のりひろさん、鹿毛トモタロウさん、むぎはらさん、さとやまそらんさん。
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「講談社絵本新人賞」は、講談社が主催する、絵本作家をめざす人のための公募新人賞です。1979年に創設して以来、数多くの人気作家を輩出し、本年で46回目の開催となりました。
2026年春に予定している第47回の募集に先立ち、絵本作家を目指す人のためのオンラインセミナーを開催。期間限定で、アーカイブ動画を配信中です!

講談社絵本新人賞の贈呈式が行われました

第46回講談社絵本新人賞の贈呈式。
2025年10月17日(金)に、講談社絵本新人賞の贈呈式が行われました。

会場には、選考委員の苅田澄子先生、たしろちさと先生、藤本ともひこ先生、三浦太郎先生。そして、受賞者の鹿毛トモタロウさん、かい のりひろさん、むぎはらさん、さとやまそらんさんが集まりました。
上段左から、三浦太郎先生、藤本ともひこ先生、苅田澄子先生、たしろちさと先生。下段左から、かい のりひろさん、鹿毛トモタロウさん、むぎはらさん、さとやまそらんさん。
賞の贈呈後は、選考委員の方々より、選評とお祝いの言葉をいただきました。選考委員の方々からの選考委員の方々からの激励の言葉とアドバイスに、受賞者のみなさんも真剣に聞き入っていました。
登壇しお話しされる、選考委員の苅田先生。
選考委員の方々からのお話が終わると、次は受賞者の4人から、喜びのスピーチと合わせて、これまでの応募作品づくりの奮闘エピソードが披露されました。

式の最後には、作品の原画を見ながら、選考委員の方々と受賞者のみなさんでご歓談。選考委員の方々から直接お話を聞くことのできる、貴重な時間になりました。
選考委員の藤本先生のアドバイスに、メモをとる鹿毛さん。
選考委員の苅田先生と楽しげにお話しされる、かいさん。
選考委員のたしろ先生のお話に聞き入る、むぎはらさん。
作品を前に、選考委員の三浦先生と談笑するさとやまさん。
関係者のみの参加でしたが、あたたかい贈呈式になりました。

来年のご応募も、お待ちしております!

撮影/柏原力

受賞者の言葉

新人賞
『オオカミさんのおうちになにがきた』 鹿毛トモタロウ(北海道)
『オオカミさんのおうちになにがきた』より
このたびは栄えある賞に選んでいただき誠にありがとうございます。 これまでこの賞に何度も挑み続けてきましたが、今回は自身が本当に描いてみたいと思う形式で作品をつくり、そしてそれがこんなにも大きな形で認めてもらえたことを誇りに思うと同時に、大変安堵しております。やってみたいことがきちんと伝わったのだ、と。 ここはひとつの通過点、今後も描き続ける所存です。
佳作
『にんジャガ』 かい のりひろ(大阪府)
『にんジャガ』より
この絵本の中で気に入っているところがあります。

食べられずに忘れられたじゃがいも。それを見つけた少女が、そのじゃがいもをお母さんに見せます。お母さんはじゃがいもに忘れてしまったことを「ごめんなさい」と、きちんと謝ります。また、じゃがいもの頭から出た芽を見て、「かわいい」と言います。

話の展開の面白さだけでなく、こういうちょっとした一言も大切にしていきたいです。このたびは選出いただき、ありがとうございました。
佳作
『んはこんなふうにあそびます』 むぎはら(東京都)
『んはこんなふうにあそびます』より
「ん」っておもしろい形をしているなあ。くるんとしているところは引っ掛けやすそう……などと考えていたら、不意に「ん」と目が合いました。一緒に遊ぼうと言われた気がしました。

このお話では、ぼくがひらがなの「ん」と出会います。んは「ん」としか喋りませんが、何を言いたいのかはちゃんとわかるようになっています。理解し合えない誰かと一緒に遊ぶことを、かろやかに描けていたらうれしいです。

昨年に続き2度目の佳作受賞です。ありがとうございました!
佳作
『おきないぞ』 さとやまそらん(福岡県)
『おきないぞ』より
なんだかおばけが出そうな夜ってありませんか? そんなとき、私ならこわくてひたすら寝たふりをします。「いかに自然に寝ているように見せるか」がポイントです。一方で、この作品の主人公ユウちゃんは、とっても怖いもの知らずの女の子。後半は、なんだかおばけを応援したくなる展開に……(笑)。最後まで楽しめるお話ができたと思います。

このたびは素晴らしい評価をありがとうございました。

いつかこのお話がたくさんの人に届きますように。

審査員の先生方の選評(五十音順)

苅田澄子先生

新人賞の『オオカミさんのおうちになにがきた』は、コマ割りと見開きで展開するスタイルが新鮮でした。何より、悪役として描かれがちなオオカミの、ちょっと弱気で親しみやすい人柄(オオカミ柄?)に惹かれました。とぼけた味わいの絵もストーリーも楽しい! 新しい形の絵本になりそうです。

佳作の『にんジャガ』は、ジャガイモの忍者が修行する姿がけなげでかわいくて、子どもはきっと応援したくなるはず。最後の忍術も鮮やか! 『んはこんなふうにあそびます』は「ん」という文字を主人公にした発想に驚きました。シンプルな絵にぴったりです。このお二人は前回も佳作を受賞されていて、安定感を感じました。『おきないぞ』はデフォルメがユニークで、おばけが本領発揮する前のあれこれを描くというアイディアも面白かったです。

選外にも惜しい……と思う作品がいくつもありました。自分の描きたいものが、子どもに楽しく伝わる表現になっているかどうかが大切なのかもしれません(自戒の念も込めて……)。

たしろちさと先生

『オオカミさんのおうちになにがきた』は、圧倒的な完成度で際立った作品でした。コマ割りのハッとするようなデザインやネットリした塗りの美しさに見入ってしまいました。ユーモアのセンスのある方では、とお見受けします。講談社絵本新人賞受賞おめでとうございます!

『おきないぞ』は、くすっと笑って読みました。大きな場面移動のない内容ですが、読み進みながら視点の移動ができ、気持ちよくページを開いていくことができました。『にんジャガ』は、ジャガイモがなんとも味わい深いキャラクターで魅力的な作品でした。テンポよく楽しく読んで、でも最後はほのかに胸がキュンとなりました。『んはこんなふうにあそびます』は、発想の面白さにまず一票でした。ビビッドな色使いもこの作品に合っていて、気持ちのいい画面構成でした。

また、選外の作品の中にも心に残る作品がいくつもありました。『めぐちゃんのおしろ』は、きらりと光るセンスを感じる作品でした。『ニンナナンナ』は静かな夜の色が素敵でした。

藤本ともひこ先生

とにかく手を動かして、頭の中ではシナプスが動き回り、なにものかを摑み取ろうとする。その繰り返しの中から、絵本が生まれいずる。

新人賞『オオカミさんのおうちになにがきた』は人物の感情を伝えるのに有効なコマ漫画の表現をうまく組み入れて、最後まで読ませ、気持ちいい着地。目で楽しい美しい絵。

「着想・着眼を絵本化する力」が賞との分かれ目。実はこの部分が容易ではない。ぼくも日々格闘している。『にんジャガ』構成もキャラも絵もよくできている。が。忍者色が弱い。淡々と見えた。理屈を越えていけるといい。『んはこんなふうにあそびます』さらりと気持ちいい画面処理は綺麗。が。「ん」のポテンシャルのアイデア発掘吟味不足は否めない。『おきないぞ』子どもの気持ちと、お化けの気持ちが物語の土台にあって素晴らしい。が。もっと奇想天外な起こし方があるかも。

そして決め手の「魔法の粉」が一振り必要だ。それが替えのきかない作家性だ。そこを読者は喜んでくれる。笑ってくれる。驚いてくれる。手を動かし続けて摑み取るしかない。

三浦太郎先生

『オオカミさんのおうちになにがきた』を見たとき、この作者は紙選びや塗りにこだわりがある方だと感じました。絵の雰囲気も落ち着きがあり、大人っぽく、新人賞にふさわしい洒落た絵本だと思います。

『にんジャガ』は、昨年佳作を受賞された方の作品だとすぐにわかりました。前回よりもさらにスキルアップされ、もはやプロの作品と並ぶような安定感があります。なぜこの方がまだデビューされていないのか、不思議に思うほどです。

『んはこんなふうにあそびます』は、個人的にも好きな作品です。僕自身はこうした作品が作れないので、うらやましく思います。この方は、右から何かを入れると左から絵本になって出てくるような、不思議な才能をお持ちなのではなかろうか。

『おきないぞ』は、可愛らしい魅力にあふれた絵本だと感じました。このような作風は、作者の人柄や感覚からにじみ出るものだと思います。この感覚を大切にして、今後の制作に活かしてください。