美容家・君島十和子さん 子育てが終わった今だから言えること「先回りしすぎない」「優先順位のうち1位ができただけでその日はよしとする」

書籍『アラ還十和子』刊行記念インタビュー1

ライター:小川 聖子

撮影/山本倫子
女優として活躍し、その後は美容家として仕事を続けながら、ふたりの娘を育て上げた君島十和子さん。長女の憂樹さんは元宝塚歌劇団で現在は女優として活躍中、次女の幸季さんは大学生。

そんな十和子さんは、私たち子育て世代の大先輩です。近著『アラ還十和子』が大ヒット中の十和子さんに、子育てや仕事と家庭の両立、さらにエイジングへの考え方まで、前後編でたっぷり伺いました。

子どもの個性を摑むため細かく質問してきました

──個性の違う姉妹を、それぞれに輝かせながら立派に育て上げた君島十和子さん。お子さんが小さかったころ、子育てで意識していたことはありましたか。

十和子さん:私は結婚前は芸能界、出産後は美容業界で働いていますが、「仕事」というものは自己形成の上でとても大切なものだと思っています。壁にぶつかって苦しんだり、もがいたりする時間は、私を成長させてくれましたし、「生きている」という実感を与えてくれました。

ですから私は娘たちにもぜひ、「仕事」を持ってほしいなと思ってきたんです。必ずしも就職という形でなくてもいいのですが、自分の良さや力をしっかり発揮して生きていけるようになってほしいな、と。

そのためにはそれぞれの特性や個性を見極め、伸ばしてあげることが大切です。それが親の役割ではないかと思い、心がけてきました。

──子どもたちの個性は、どのように見極めたのでしょうか。

十和子さん:これはなかなか難しくて、その子の自発的なエネルギーのようなものは、どんなタイミングで出てくるか分かりません。ですから私は幼いころは習いごとだったり、旅行だったり、なるべくいろいろな経験をさせるようにしていました。その中で、強く反応するものには細かく質問して……。

子どものうちは、それが楽しいのか好きなのか、自分でもわからない場合が多いと思うのです。ですからひとつひとつ、「どんなふうに思った?」「何が楽しかった?」と質問し、紐解くことで理解を深めるようにしていました。

その中で覚えているのは、長女はとにかくバレエが大好きだったこと。他のお稽古に比べて、バレエに行くときだけは目の輝きが違うんです。一方次女のほうは、小学校2〜3年生のころに「バレエはあまり好きじゃない」と。

同じように通わせているお稽古ごとでも、感じ方はそれぞれ。ですから次女にバレエを無理強いすることはありませんでしたが、その後次女は、高校でダンスのクラブに入ったとき、自分で「もっとちゃんとやっておけば良かった」と言っていました(笑)。子どもの様子をよく見ておくことはその後の選択のヒントになると思います。

先回りしすぎて子どもの芽を摘まないように

──十和子さんのSNSを見ていると、家族仲が良いことにも驚きます。姉妹を育てる上で気をつけたことはありますか。

十和子さん:姉妹には、個性にも性格にも違いがありますので、それぞれに寄り添いかたを変えていました。長女の性格は私にそっくりなので、リアクションも行動も、言ってみたら全部読めるんです(笑)。でもだからこそ、先回りしすぎないように気をつけていました。

せっかく彼女が考えてアクションを起こそうとしているのに、私が先に「こうなんでしょ、ああなんでしょ」と言ってしまったら、芽を摘むことになってしまいますよね。

──著書の中でも「先回りは良くなかった」とお話しされている箇所がありましたね。

十和子さん:はい。先回りのエピソードでよくお話ししているのは、娘が学校の宿泊行事に参加したときのこと。バッグの大きさも、持ち物や服の枚数も決められていたのに、私が「何かあったときのために」と、勝手に少しずつ多めに用意して入れてしまったんです。

その結果、帰りは自分で詰め直すこともできず、買ったお土産もバッグから溢れてしまって……結果、先生の手を煩わせてしまうことに。本人が悪いわけでもないのに注意を受けてしまったようで反省しました。

これが象徴的なエピソードなのですが、もちろん他にもありましたよ。結局は、子ども自身が経験していくことが大切なので、先回りはしすぎないほうがいいですね(笑)。

「あなたの話を聞いているよ」は子どもにもわかるように伝える

──良かれと思ってしたことが裏目に出てしまったのですね。姉妹はそれぞれ性格が違っていたということですが、次女の幸季さんにはどんなアプローチをされていたのですか。

十和子さん:次女は内面が主人にそっくり。だから私には全然わからないんです。そこでどう感じているのか、どう行動するのか、毎回「これはこういうこと?」と確認して、細かいところを把握するようにしていました。

──丁寧に質問したいと思いつつも、家事などで忙しいときは、ついついおざなりになってしまう場合も多いです。

十和子さん:そうですよね。子どもとの向き合い方についても、私は反省したことがあって。仕事を終えて家に帰ってくると、やることがたくさんありますよね。そんな状況で娘に「ママ、ママ!」と呼ばれて話を聞いてみると、「昨日こんな夢見たんだけど……」みたいな、まったくオチのない話だったりして(笑)。

そうなるとつい生返事になっていたようで、主人の母から「ちゃんと返事をしてあげなさい」「顔を見てあげなさい」ということを言われました。主人の母も「働く母親」だったので、子どもへの向き合い方については気にしていて、よく話し合っていたんです。

自分ではそこまでおざなりにしているつもりはなくても、子どもから見たら「聞いてくれていない」と思われることは多いようです。ですから、「あなたの話を聞いていますよ」は、子どもにもわかるようにしっかり伝えてあげないといけないのだと、そのとき胸に刻みました。

子どもって、こちらが聞こうという体勢を整えたときには、もう話してくれなかったりするもの。お互いの「話したい」「聞きたい」のタイミングはなかなか一致しないんですよね。だからこそ、本人が話そうとしてくれるときは、その様子を見逃さないように。そこをわかっていたほうが、良い関係が築けると思います。

優先順位の1番目ができたらその日はよしとする

──「Ane♡ひめ.net」の読者には、子育てや家庭と仕事の両立に悩む親御さんたちがたくさんいます。うまく進めていくコツのようなものはありますか。

十和子さん:私もそうでしたが、この時期はとにかく「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と日々やることに追われる毎日だと思います。でも、時間にも体力にも「限界」はあるもの。ですから、「これだけはやる!」という優先順位をつけたもの……「洗濯物を片付ける」でも、「きちんと料理する」でもいいのですが、それができれば、もうその日はよしとしていいと思います。

ある方からは「手抜き」と思われるかもしれませんが、そんなことは気にしなくていい。自分なりに「今日これはやった」と思えることが大切です。きちんと充実感を感じ、自己肯定感を高める。そういう状況を作ることで、次の課題も見えてくるんです。

──確かに「よし」と思えれば、心が健やかに保てそうです。ただ、パートナーの協力が得られないと嘆くお母さまたちは多いですが……。

十和子さん:わかります。腹が立つのは相手に期待するから。いっそ、期待するのをやめてしまえば、腹が立つこともなくなります。自分が見ている景色とパートナーが見ている景色は、角度も違えば解像度も違う。察してもらうことは永遠に不可能ですから、やってほしいことは言葉で伝えるのが一番だと思います。

葛藤がなくなることはないけれど子どもは意外と気にしていない場合も

──子育て世代の共通の悩みには、子どもを預けて働く「後ろめたさ」というものもあります。十和子さんはどんなふうに折り合いをつけていたのでしょうか。

十和子さん:折り合いは……いつまでもつかないと思います(笑)。私はこの年齢になってもまだ、心の片隅に後ろめたさがあるんですよ。ですから、お子さんが小さいうちはなおさらその苦しみは大きいと思います。

でも今、成長した娘たちに話を聞くと、あまり寂しかった記憶はないというんです。私は娘たちがかなり小さいころから働いていたので、それが当たり前になっていたこともあるようです。周りの働くお母さんたちに聞いても、「子どもたちはあまり気にしていないみたい」と話される方が多いので、それはひとつ事実としてあるのかもしれません。

ただ、子育てと仕事の間で揺れ動く葛藤というものは、絶対にゼロになることはないですよね。これはもう、シーソーのように、あるいは綱渡りをするように、両方のバランスをとりながら進んでいくしかない。だから折り合いは、永遠につけられませんし、それで良いのかもしれないです。

ただ振り返ってみると、そんな時期が一番充実していたな、とも思うんです。当時は、「もう少し自分の時間が欲しいな」「ちょっと辛いな」なんて思っていたのですが、裏を返せば、職場にも家庭にも自分がそれだけ必要とされていたということ。そんなに求められるなんて、素晴らしいときですよ。どちらからも「もういいよ、大丈夫、大丈夫!」と言われたら……性格にもよりますが、私は寂しくなってしまっていたと思います(笑)。
※インタビューは後編に続きます。
君島十和子/きみじまとわこ

1966年東京都生まれ。FTCクリエイティブ・ディレクター、美容家。雑誌の専属モデルや女優として活躍後、結婚を機に芸能界を引退。その後も美容への意識の高さから多くの女性誌で取り上げられる。現在はテレビや雑誌にて活躍しながら、自身のSNSでも飾らない姿を発信。最新著書『アラ還十和子』(講談社)が大好評発売中!
「アラ還十和子」
著:君島十和子
発売日:2023年04月20日
定価:1760円
取材・文/小川聖子
撮影/山本倫子
ヘア&メイク/黒田啓蔵(Iris)
スタイリング/後藤仁子
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