鷲尾天プロデューサーが語る「ふたりはプリキュア」誕生秘話「幼児誌の表紙が人気を測る尺度に」「西尾大介監督の偉大さ」
2023年7月28日ジュンク堂書店池袋本店オンラインイベントレポート1
2023.08.27
ライター:萩谷 美可
プリキュアを生み出した鷲尾プロデューサートークイベント ~真夏の夜の熱き集い~
本イベントは「プリキュア20周年記念 プリキュアオールスターズ ポストカードブック1」購入者による抽選イベントで、来場者およびオンラインで多数の参加者が視聴。
今回は、「ふたりはプリキュア」プロデューサーで、「プリキュアシリーズ」の生みの親・鷲尾天さんに、いかにして「プリキュア」が誕生したのか、その製作の経緯や思い出を語っていただきました。
なお、今回司会は、20年前「ふたりはプリキュア」の初代担当編集という、当時を知る編集ならではのするどい質問で、数々の秘話が明かされました。
鷲尾 天(わしお たかし)
1998年に東映アニメーションに入社。2002年「キン肉マンⅡ世」でプロデューサーとして独り立ちし、2004年「ふたりはプリキュア」から「Yes!プリキュア5 GoGo!」までプロデューサー、「Go!プリンセスプリキュア」からは企画としてシリーズに携わっている。
『プリキュアの生みの親』『プリキュアの父』と言われる存在。他に「トリコ」「怪談レストラン」「おしりたんてい」など。
現在、東映アニメーション執行役員、営業企画本部企画部エグゼクティブプロデューサー、制作本部制作部スーパーバイザー。
「ふたりはプリキュア」ができるまで
鷲尾さん:まず会社からは、女児ものの企画を作りなさいと言われました。自分は女の子の好きなものなどくわしくないから、何もわからなかった。1年過ぎれば、次の企画が始まるだろうから、それなら1年間、好きにやらせてもらおうと思いました。
幼いころをふりかえると、近所の同級生の女の子と何の意識もなく普通に遊んでいました。当時を思い出し、未就学の子どもたちはあまり男女差がないんじゃないか、自分が好きなことを女の子に提案してみてもいいんじゃないかと思って、監督と相談して立ち上げました。
──放映後にはたいへん大きな反響がありました。また回を追うごとに反響が大きくなっていったと思うのですが、どのように捉えていらっしゃいましたか?
鷲尾さん:一番印象に残っているのは、雑誌の表紙です。番組が始まったころは、「おともだち」と「たのしい幼稚園」の表紙の隅に小さく入っていました。ところが1ヵ月ごとにだんだんキャラが大きくなっていくんですよ。
そしてついに、ブラックとホワイトが表紙の前面に大きく掲載されました。それ以降、ずっとプリキュアが表紙を飾らせてもらっています。本当に驚きました。
鷲尾さん:西尾監督の考えていること、やりたいことが色濃く反映されています。ご本人は否定されますが、なぎさとほのかは、西尾さんの二面性から出ていると思っています。
西尾さんのものの作り方というのは、神の手で作品を作られるわけではなく、全体を俯瞰していろいろなものを配置していくのでもないんです。
あの人は、あの世界の中にいて、なぎさの隣に住んでいるオジさんなんです。隣のオジさんの視点で、なぎさたちに行ってらっしゃい、お帰りなさい、と言える人なんです。あの世界の住人たちと同じ思考回路、同じ考え方をするタイプなんです。
なぎさのお母さんがなぎさの部屋に入るときにノックする場面があります。最初は、ガチャっと開けて「なぎさ?」と言ってたんです。
西尾監督が「いやいや、中学2年生の女の子の部屋にお母さんはいきなり入らないし、入ったら怒るよ。ここは外でノックして」と、修正指示をするわけです。
なんでこの人、そんなことに気づくんだろうと思いました。
そういう繊細さを持ち合わせて、画面の隅々まで気を配るんです。まあ、大変だと思います。それを2年間やり続けるわけです。消耗すると思います。私には思いも及ばないところまで丁寧にみるわけです。そういう作り方をされる方です。
クイーンが空からすーっと流れて飛んでくる場面があります。キャラクターデザインの稲上さんがラフを描いてきました。だいたいこんなかんじだねと言いながら、でも1ヵ所だけいいかな、足の甲の向きが違うんだよね、もう少し外側に向けたほうがかっこいいんだよと。
顔の向きじゃなくて足の甲ですよ! 気づきます? そんなこと! そういうことまで全部指摘する方が、30分の作品を2年間みている。密度が濃い作品になりました。
サイン会を終え、参加者は、サインが加わった本と、鷲尾氏から受け取った“メッセージ”を胸に、軽やかな足取りで帰路に着く様子、大人たちのトークイベントは、熱気あふれる濃い一夜になりました。
今回は「GO!プリンセスプリキュア」から「ひろがるスカイ!プリキュア」までのプリキュアを収録。どうぞお楽しみに!
萩谷 美可
講談社の幼児雑誌「おともだち」や「たのしい幼稚園」などから出版される雑誌や絵本などの構成を担当。
講談社の幼児雑誌「おともだち」や「たのしい幼稚園」などから出版される雑誌や絵本などの構成を担当。