人気児童書作家に聞いた歴史ファンタジー小説の舞台の選び方

「天山の巫女ソニン」シリーズの菅野雪虫が描くもうひとつの「うらしま太郎」

児童書・YA作家:菅野 雪虫

菅野雪虫さんの新作『星のおちた海 海神の姫君と浜辺の兄妹』は、「うらしまたろう」のもうひとつのお話でもあります。  装画:しまざきジョゼ

小説家は、どんなことから物語の着想を得るのでしょうか。

「天山の巫女ソニン」シリーズや『チポロ』など、数々のファンタジー小説で人気の児童書・YA作家、菅野雪虫さんに伺ってみました。

2026年9月10日発売『星のおちた海 海神の姫君と浜辺の兄妹』の舞台は、平安時代の陸奥の国。ここは、菅野雪虫さんの生まれ故郷、福島県南相馬市にあたります。子ども時代のどんな記憶が物語に生かされているのでしょう。

2026年9月10日発売
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砂鉄とどんぐり

このお話は、2024年に福島県の新聞・福島民報に連載されたものです。

私が育ったのは福島県の鹿島町(現・南相馬市鹿島区)ですが、子どもの頃、遊んだ浜辺の砂は黒く、波打ち際では白い砂と黒い砂が文様のようになっていました。

それが日本中の海辺の光景だと思っていたので、上京して色々な地方から来た人と出会い、海水浴の話になり、「海にいくと磁石で砂鉄集めるよね」と言ったところ、「何それ?」「やったことない」と返されてびっくりしました。

上京してもう一つ驚いたのは、東京のどんぐりの多さでした。特に郊外の多摩地区はどんぐりの木が多く、道端に大量に落ちていても、だれも拾わないので、車のタイヤですり潰されて白くなっていることも珍しくありません。それを初めて見た時は、

講談社児童図書編集チーム撮影

「もったいない! 子どもの頃ここに拾いにきたかった!」

と思いました。というのも、私は子どもの頃、本物のどんぐりを、ほとんど図鑑や絵本でしか見たことがなかったからです。町には「どんぐり林」と呼ばれる数十本の広葉樹林が一か所だけあり、秋にそこへゆくとどんぐりが落ちていましたが、ごくわずかで、数粒をめぐって子どもたちの間で争奪戦でした。

といった「砂鉄はあるがどんぐりはない」という地域の話を、たまたま歴史に詳しい人にすると、「ああ、それは鉄のせいだよ」と言われました。「きっと砂鉄からの製鉄が行われていたので、大量の薪が必要で、どんぐりがなるような雑木林はみな切り倒されたのだろう」というのです。「アフリカとかでも、よくある話なんだよ」

そうだったのか、あれだけ絵本や物語に出てくる「どんぐり」を、ほとんど見たことがなかったのは、そういうことだったのか──私は、海と陸の記憶がつながったように感じました。

その経緯は、あくまでその人の推理ですが、南相馬市には、実際に製鉄の遺跡があり、あながち間違っていないと思います。

横大道(よこだいどう)製鉄遺跡は、奈良時代から平安時代にかけての製鉄の遺跡で、福島県南相馬市小高区飯崎にある。  写真提供:福島県文化財センター白河館

2024年に、「新聞小説を書きませんか?」というお話をいただいた時、「せっかく福島県の新聞に載るのだから、地元につながるものを入れたい」と思い、この「砂鉄とどんぐり」のことが頭に浮かびました。

福島民報での連載が始まってすぐ、新聞の投書欄に、「中通りの者ですが、浜通りで鉄を作っていたとは知りませんでした」というお便りが載りました。

福島県は東西に幅広く、阿武隈山地と奥羽山脈が南北に走っているので、「はま・なか・あいづ(浜通り・中通り・会津)」と三つの地方に分かれ、気候も文化も違うので、互いに知らないことも多いのです。そんな人たちにとっても、近くでありながら知らなかった歴史を知るきっかけになったのではと思います。

また海神(わだつみ)の姫君・亀姫に関しては、みなさんよくご存知の「浦島太郎」の伝承の他に、中国の四遊記の一つ、『北遊記』からも発想を得ました。四遊記の中では『西遊記』が一番有名ですが、『東遊記』や『南遊記』もあるのです。

この物語を、海辺で育った人にも、そうでない人にも捧げます。

菅野雪虫(『星のおちた海 海神の姫君と浜辺の兄妹』あとがきより)

『星のおちた海』

星のおちた海 海神の姫君と浜辺の兄妹

星のおちた海 海神の姫君と浜辺の兄妹

菅野 雪虫(著)

発売日:2026/09/10

価格:定価:本体1600円(税別)

菅野 雪虫
すがの ゆきむし

菅野 雪虫

Sugano Yukimushi
児童書・YA作家

1969年、福島県南相馬市生まれ。2002年、「橋の上の少年」で第36回北日本文学賞受賞。2005年、「ソニンと燕になった王子」で第46回講談社児童文学新人賞を受賞し、改題・加筆した『天山の巫女ソニン1 黄金の燕』でデビュー。同作品で第40回日本児童文学者協会新人賞を受賞。主な著書に、「天山の巫女ソニン」シリーズ、「チポロ」シリーズ、『海のなかの観覧車』(以上、講談社)、『羽州ものがたり』(角川書店)、『アトリと五人の王』(中央公論新社)などがある。ペンネームは、子どものころ好きだった、雪を呼ぶといわれる初冬に飛ぶ虫の名からつけた。

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1969年、福島県南相馬市生まれ。2002年、「橋の上の少年」で第36回北日本文学賞受賞。2005年、「ソニンと燕になった王子」で第46回講談社児童文学新人賞を受賞し、改題・加筆した『天山の巫女ソニン1 黄金の燕』でデビュー。同作品で第40回日本児童文学者協会新人賞を受賞。主な著書に、「天山の巫女ソニン」シリーズ、「チポロ」シリーズ、『海のなかの観覧車』(以上、講談社)、『羽州ものがたり』(角川書店)、『アトリと五人の王』(中央公論新社)などがある。ペンネームは、子どものころ好きだった、雪を呼ぶといわれる初冬に飛ぶ虫の名からつけた。