年少からの「子どもの時間管理術」を時間教育の専門家が伝授!

時計は何歳から読めるようになればいい?の疑問に親野智可等(おやの ちから)さんが回答

ライター:川辺 美希

「年長なのにまだ時計が読めない」「マイペースで時間が守れない」など、子どもの時間管理に悩んでいる方もいるでしょう。特に小学校進学を間近に控えた子を持つママやパパは、時間で区切られた学校生活に向けて、我が子がいつ時計を読めるようになったらいいか、気になりますよね。元小学校教師で、時計教育に関する書籍も執筆する教育評論家の親野智可等さんに、親子で時間管理を上手に学ぶ方法を聞きました。

小学生になったとたん、学校の準備や勉強などタスクがもりだくさん。(写真/川辺美希)

「小学校に上がるまでに」は子どもにとって大きなストレス

こんにちは。教育評論家の親野智可等です。今日は、特に小学校入学前のお子さんをお持ちの親御さんが気になる「時計学習」についてお話しします。

まず最初にお伝えしたいのは、お子さんの成長に関して、「何歳までにこれができるようになったほうがいい」という考え方には、あまり意味がないということです。

小学校に上がる前に時計が読めるようにとか、勉強もここまでやっておかなくちゃということを気にする親御さんはたくさんいます。入学直前に焦って、時計ワークやひらがなワークを買ってお子さんに勉強させようとする方もいらっしゃいますが、期限に迫られて勉強をさせられるのは、子どもにとって大きなストレスです。

子どもを時計の勉強嫌いにさせないコツは?

特に、時間の概念はとても複雑です。10進法と12進法と60進法が組み合わさった時間を理解するのは、幼児や小学校低学年のお子さんにはとても難しいです。だからこそ、生活や遊びの中で無理なく、その子のペースに合わせて学びを進めることが大切なのです。

「何歳までに時計を読めるように」とゴールを決めると、子どものペースは無視されてしまいます。自然に楽しく時間に親しむことで「時計って面白い!」という前向きな意欲が生まれます。私はこのように、楽しく子どもが知性を鍛えることを「楽勉(らくべん)」と呼んでいます。

すべての部屋にアナログ時計を置くのが理想

時計を学び始めるのに適した年齢は、それぞれの子どもによるので一概には言えませんが、数字を読めない年少からでも、時計に親しむことは可能です。

時計学習の基本は、家の中にアナログ時計をできるだけ置くこと。子どもが時計に慣れ親しむ​ためには、各部屋にアナログ時計がひとつずつある状態が理想です。

時計が常に目につく環境で、「長い針が上に来たら終わりだよ」というような声かけをしていくことで、自然と時間や時計を理解できるようになります。持ち運びができる「マイ時計」を子どもに持たせるのも、やる気を引き出せるのでよいでしょう。

時計を選ぶときのポイントは、文字盤にキャラクターのイラストなどがないものを選ぶこと。子どもは大人が思っている以上に認知能力が低いので、イラストがあると時計の針が見えにくくなります。文字盤が無地で、針がくっきりと見えるものにしましょう。砂時計や、残り時間に応じて色の部分が減っていく「実感タイマー」も、時間が見える化されるので子どもにわかりやすく、おすすめです。

やることをやらない子が自分のペースを作れる「模擬時計」とは

親野さん直伝の模擬時計を実践!(写真/川辺美希)

子どもが時間を守れず、いつも「早くしなさい!」と言ってしまう親御さんも多いのではないでしょうか。そんな方にぜひトライしてほしいのが、「模擬時計」です。

模擬時計は、紙の時計に、生活の中でやるべきことと、目標とする時間を書き込んだものです。夕食の時間や、学校に行く時間などを紙の時計に書いて本物の時計の横に並べ、その時間が、実際の時計に重なるタイミングを目指して行動するように子どもに声をかけます。

見えない時間を見える化したら、子どもが変わった!

あるお母さんは、息子さんが食べるのが遅く、食事のたびにガミガミしかっていたそうです。そこで、卓上のアナログ時計の横に、時計の絵を描いた画用紙を貼って、食事中の男の子の目の前に置きました。「今は、針はここだね。食べ終わる時間はここだよ」と声をかけながら食べさせると、時間内に食べ終わるようになりました。残り時間が見える化されたことで、お子さんが食べるスピードを調整できるようになったのです。

壁掛けのアナログ時計の上下左右に、4つの模擬時計を貼るのも良いでしょう。たとえば、ひとつめは朝起きて着替える時間。ふたつめは、学校に行くために家を出る時間。3つめが、宿題を始める時間、そして4つめが、寝る時間です。子どもが自分で時間をモニタリングしながらペースを調整して進められるので、生活リズムが整いますよ。

時間内で間に合わないなら親が手伝ってOK

模擬時計を使っても、どうしても時間内にできないという子もいます。そういうときは、親が着替えや片づけを手伝って、間に合わせてあげましょう。

日本では、「自分のことは自分でやるべき」とか「人に迷惑をかけてはいけない」という考え方が根深いですよね。「親がやってあげると自立できなくなる」と言う方もいますが、私はそうは思いません。

人に甘えてはいけないという考え方を持って育つと、大人になってから仕事や育児をするときも人に頼れず、ひとりで抱え込んで苦しみます。大人も子どもも、ひとりでできなければ上手に周りに頼ればいいわけです。助けてほしいときに「助けて」と言えたり、人とうまく協力できたりすることも、自立に必要な力のひとつです。

時間の管理ができれば、社会で有利だけど……

ダラけてしまいがちな歯磨きの時間をあえて「見える化」に。(写真/川辺美希)

小学校は、幼稚園や保育園とは違い、勉強の時間や給食、片付けの時間など、全部決まっていますから、自分で時間管理ができれば、学校という社会で有利であることは確かです。

ただ、子どもの成長ペースや特性はそれぞれです。苦労なくテキパキと行動できる子もいれば、できない子もいます。しかもその特性は、生まれつき決まっていることが多いんですね。本人のがんばりとか、親のしつけは関係ないケースがほとんどです。

模擬時計などで子どもが時間に親しめる環境を整えて、それでもできないのならしからずに、その子の特性を受け入れてあげてください。それに、親に手伝ってもらっている子は、友達や兄弟も助けることができます。時間について学ぶとともに、人に助けてもらってもいいこと、そして「​困っている友達がいたら手伝ってあげようね」ということも、お子さんに教えてあげましょう。

「もっと早く」ではなく「針がここに来たら」と具体的に伝える

時計の絵本も、時間の学習にとても効果的です。絵本は場面設定がありますから、目で見たイメージで時間を学べるのがメリットです。子どもは、ぱっと見たときに「面白そう」「楽しそう」と感じると、やる気のベクトルが上がります。自分の好きな乗り物やキャラクターを通じて、自然と時間や数字を身につけることができます。

時間に関するコミュニケーションでもうひとつ大切なのは、具体的な目標設定です。小さい子どもには「急いで!」とか「もっと早く」という抽象的な指示は理解できません。「長い針が3になったら出かけるよ」など、子どもにわかりやすい言い方を心がけましょう。否定的で抽象的な言葉はNG。肯定的で、具体的な言葉に言い換えることが大切です。

子育て中の方たちは、毎日忙しくてカリカリしてしまうのも無理はありません。でも「子どもと過ごす時間はあっという間に終わってしまう」ということを、私は伝えたいです。今は大変かもしれませんが、後から振り返ると短かったと感じますから、今日の今、ここを、親子で楽しんでほしいと思うんです。

親子の時間を楽しむことで、子どもの「将来」もついてくる!

私が講演でも伝えているのは、「将来というのは水平線のようなもので、実在しない」ということ。真面目なお父さん、お母さん方は、「将来、しっかりした生活ができるように」と、子どもに厳しくしつけをしたり、何度もしかったりしてしまいます。でも、いくら船を漕いでもたどり着けない水平線と同じように、「将来」というものは存在しません。将来はいつも、そのときの「今ここ」として現れるわけです。

そんな実体のない将来のために、子どもとの貴重な「今」を犠牲にすることはありません。人生は、ゴールよりも過程が大切です。親子で今を犠牲にしていると、永久に苦しい状態が続きます。だから今あるこの時間を、親子でエンジョイしてほしいんです。そうすれば、子どもの自己肯定感も高まって親子関係も良くなり、子どもの幸せ体質が育まれます。そういう子は、いわゆる「将来」が実際に訪れたときにも、幸せでいられるわけです。

メディアに溢れる「子どもが何歳になるまでに」とか「小学校入学準備」という言葉は、親御さんを苦しめていると私は思います。期限ありきではなく、「楽しみながら」「その子らしさを大切に」ということを意識して、親子の時間を大切に過ごしてほしいですね。

楽しみながら時計が学べる絵本はこちら

でんしゃの とけいえほん
電車で時計の読み方を覚えよう! かっこいい新幹線、特急、在来線が登場!実際に針を手で動かして時間の読み方を覚えられます。地図上のどこを走るのかがわかる路線図つき。
ディズニープリンセス まほうの とけいえほん
朝、昼、晩とディズニープリンセスのシチュエーションに合わせて、実際に時計の針を動かせる絵本。幼児に絶大な人気のディズニープリンセスの世界を楽しみながら学べます。
カーズ とけいが よめる えほん
時計の針を動かして、マックィーンが生活する時間を指し示してみよう! ディズニー&ピクサー映画『カーズ』のマックィーンの一日を時計で追ってみましょう。車好きのお子さまにおすすめです。

©️2022 Disney

かわべ みき

川辺 美希

Miki Kawabe
ライター・編集者

出版社勤務を経て独立。フリーランスとして映画誌、美術誌、音楽誌で編集やライティングを手がけるほか、WEBのコラム、インタビュー記事も担当。俳優やクリエイター、ビジネスのトップランナーへのインタビューや書籍レビューを中心に執筆する。得意分野は、映画と本と食べ物。埼玉県出身、今は神奈川県で夫と2歳差きょうだい、猫と暮らす。

出版社勤務を経て独立。フリーランスとして映画誌、美術誌、音楽誌で編集やライティングを手がけるほか、WEBのコラム、インタビュー記事も担当。俳優やクリエイター、ビジネスのトップランナーへのインタビューや書籍レビューを中心に執筆する。得意分野は、映画と本と食べ物。埼玉県出身、今は神奈川県で夫と2歳差きょうだい、猫と暮らす。