ピクサー・アニメーションは理科学びの宝庫!

『カールじいさんの空飛ぶ家』『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』…映画の「気になるシーン」を柳田理科雄先生が考える

ピクサーのアニメ作品には、びっくりするような物語がたくさんあります。たとえば、カクレクマノミのパパが、はぐれた息子を探して遠大な旅をする『ファインディング・ニモ』、モンスターが子どもを怖がらせ、叫び声をエネルギーに変える『モンスターズ・インク』、人間が気づかないとき、おもちゃたちが自在に動きまわる『トイ・ストーリー』。こんな奇想天外な世界で、キャラたちが懸命にがんばるのだから、子どもから大人まで、世代を超えてハマってしまう人が多いのも当然ですよね。

でも、アニメを観ながらふと気になったこと、ありませんか。映画のあのシーンって、実際はどうなんだろう? 実現できるのだろうか?……と。たとえば、『カールじいさんの空飛ぶ家』では、最愛の妻を亡くしたカールじいさんが、たくさんの風船を家にくくりつけて空の旅に出ます。カラフルな風船とともに家が浮き上がるシーンの美しさは圧巻でしたが、実際に風船で家を飛ばすことができるのでしょうか? また、『トイ・ストーリー』では、ウッディとバズが花火で空に舞ったけど、そんなことが可能? 『モンスターズ・インク』の「子どもの叫び声をエネルギーに変える」というシステムはあり得る?

もちろん、アニメの世界に浸るだけでも充分に楽しいのですが、せっかく頭に浮かんだこれらの疑問を、ちょっとマジメに考えてみましょう。なんとも楽しくて意外な結論が導かれます! その結果、アニメで描かれた世界が深まるのはもちろん、子どもにとっては、理科や科学への興味が広がる絶好のきっかけにもなります。

マンガやアニメ、ゲームの世界を科学的に考える『空想科学読本』シリーズで子どもたちに人気の柳田理科雄先生が、このたび「青い鳥文庫」レーベルで『ピクサー空想科学読本』を刊行しました。ここでは、上に挙げた3つの疑問について、本書のなかで示される科学検証の結果を、簡単に紹介してみましょう。

家を浮き上がらせるために、風船は何個必要?

『ピクサー空想科学読本』本文より

『カールじいさんの空飛ぶ家』では、カールじいさんが風船を家にくくりつけて、空に浮かせていました。いったい何個の風船があれば、そんなことができるのでしょうか? 映画のなかでカールじいさんが使った風船を観察すると、その大きさから、1個あたり105gのものを浮かべられると考えられます。家の重さを12tと仮定すれば、風船は「11万4286個」が必要、という計算になります! 風船で家を飛ばすことは可能だった!

そう喜んでここで終わらせてもいいのですが、カールじいさんの身になって、この11万4286個という数を考えてみると、その苦労がしのばれます。カールじいさんは、これだけの風船を一晩で準備していました。たとえば、夜8時から朝6時の10時間、徹夜でがんばったとしても、風船は11万個以上あります。1個あたり何秒で膨らませる必要があるでしょうか? また、11万個ともなると、莫大なお金がかかったと思われます。総費用はいったいいくらだったのでしょう?

──こんなふうに、一つ検証すると、そこから新たな疑問が生まれて、次から次に考えていくことになります。これが「アニメの疑問が科学の入り口になる」ということです。

ウッディとバズは、花火でどこまで飛んだ!?

『ピクサー空想科学読本』本文より

『トイ・ストーリー』では、引っ越しする家族に置いていかれそうになったウッディとバズが、ロケット花火を点火させて、走る車に追いつこうとする……というシーンがありました。はらはらドキドキのクライマックスシーンで、誰もが手に汗握ったことでしょう。でも、おもちゃとはいえ、ロケット花火で空を飛び、車に追いつくことなんて、できるのでしょうか? これは、科学的に考えても、とてもワクワクする問題です。

ウッディとバズ、それにロケット花火自体の重さを合わせた全重量を1.5kgと仮定しましょう。離陸するまでの加速の勢いから、花火は1.3kgの推進力を持っていたとみられます。計算してみると、点火して上昇を始めた1秒後には、2人を乗せた花火は高度25mに達し、2秒後には高度52m、3秒後には80m、5秒後には139m……と、グングン上昇していったことになります。花火は、2人が離れた直後に爆発しましたが、このとき(上昇開始後13秒)の高度は399m。なんと東京タワーよりも高いところまで飛んだのです!

ウッディとバズは、大好きなアンディと離れたくない一心で決死の大冒険をしたわけですが、科学的に導き出された結論は、それを裏打ちするものとなりました。ちょっと感動してしまいます。

子どもの叫び声はエネルギーになるの!?

『ピクサー空想科学読本』本文より

『モンスターズ・インク』はとても面白い設定の映画で、なんとモンスターたちは「人間の子どもの悲鳴」を集めて、エネルギーに変え、自分たちの社会を運営していました。主人公は、子どもを怖がらせる名人のサリーとマイクです。

しかし「子どもの叫び声」は、エネルギーになるのでしょうか?音の大きさを表す単位に「dB(デシベル)」があります。通常の会話が60dB、地下鉄の車内が80dB、ジェット機の離陸音が120dBですが、音のエネルギーはとても小さく、ジェット機の離陸音でさえ、エネルギー換算ではたったの1Wしかありません。トイレの電球でさえ40~60Wなので、どれほど少ないかわかるでしょう。逆にいえば、人間の耳は、音にとても敏感ということです。

もし「子ども部屋のドアから聞こえる悲鳴のエネルギーを集める」という仕組みだとしたら、平均的な4人家族が1ヵ月暮らすのに必要な声のエネルギーは、劇中に出てきたボンベで6800億本! サリーとマイクの仕事はめちゃくちゃ大変そうです。もちろん、映画に出てきたモンスターズ・インクはブラック企業ではなかったので、われわれが知らないエネルギー換算の技術を開発しているのかもしれませんね。

ここで紹介したのは『ピクサー空想科学読本』のほんの一部です。同書では、他にも「ウォーリーが700年働き続けたのはどういうシステム!?」や「グイドのタイヤ交換は、どれほどの離れ業?」「ニモのお父さんマーリンは、いったいどんな旅をした?」「ネズミのレミーが髪の毛を引っ張って、人間をコントロールできたのはなぜ?」など、さまざまな問題を楽しく考えています。ピクサー・アニメーションを通じて、科学的に考えることの面白さを味わってください。

参考図書

『ピクサー空想科学読本』
著/柳田理科雄 イラスト/石蕗永地
 
ピクサー作品の不思議を科学的に考えよう!
『トイ・ストーリー』でウッディ&バズがロケット花火で飛んだ⇒実際できる!?
『モンスターズ・インク』は子どもの悲鳴がエネルギー⇒そんなのアリ!?
『ファインディング・ニモ』で、マーリンが海を渡った⇒どんな距離?
『カールじいさんの空飛ぶ家』で、風船で家が浮いた⇒風船は何個必要?
世界中の子どもと大人の疑問に答える衝撃の本。
小学校中級以上/総ルビ