編集者が明かす、タイトルに込めた思い
「この本を最初に企画したのは当時の編集長でした。私は2000年に入社したばかりの新人でしたが、編集担当を任せてもらいました。
編集長といっしょに、アレンさん(ネルソンさん)の講演会を何度か聞きに行ったり、直接インタビューをさせてもらいました。
講演会やインタビューが終わると必ず、ギターを手に歌っていたアレンさんの姿を思い出します。歌を歌うことは、戦争の記憶から現実の世界に戻ってくるための儀式のようなものだったようです。
もともと編集長からもらっていた仮タイトルは『人を殺してはいけない』というものでしたが、私の希望で『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』としました。物語の中に出てくる子どものこの問いかけが、作品のキーワードでもあり、子ども読者にも興味を持ってもらえる言葉だと思ったからです。
刊行から23年もの時間が経ち、いま映画化されるということに、まずびっくりしています。
そして、アレンさんの体験に多くの人が関心をよせてくださるということは、つまり多くの人が世の中に危機感を持っているということでもあるので、複雑な思いもあります。
それでもやはり、この素晴らしい映画と原作を、特に若い方に知っていただきたいです」(講談社 児童図書出版部部長 塩見亮)
「戦争」へ行った先に起こることを伝えたい
この物語を実写映画として完成させたのは、2015年の映画『野火』を皮切りに、『斬、』『ほかげ』と「戦争」を描いてきた塚本晋也さん。監督・俳優として幅広く活動し、ヴェネチア国際映画祭で審査員を務めるなど、その才能は世界で高く評価されています。
塚本監督は、公式インタビューで次のようにコメントしています。
「『野火』を上映した2015年も、平和安全法制(安保法制、2016年施行)が決まっていき、戦争が急激に近づいていると思ったのですが、憲法改正を急ぐ国民投票法改正案が審議されている今、ますます加速しているように感じられます。その流れに乗った先に何が起こるか、ということをイメージできる映画があればと思いました」
「本作では、アレンさんを偉人として描くのではなく、戦場での真実の体験と、 PTSDを抱えた人がどう克服しようとしたかという個人的な映画として描きました。実際には平和活動に力を注ぎましたが、すべて個人の問題として描くことにしました」
「どんなことがあっても戦争はしたくないと思っている方、やるときはやらなければ、と思っている方、すべての人に観ていただきたいと思っています。ご覧いただいた方に『どう感じたか?』を問える映画になっているとうれしいです」
また塚本監督は、大人同様、たくさんの子どもたちにこの作品を見てもらいたいと話します。
「僕らがいま語らなければ、子どもたちが戦争に行くことになりかねないのが現状。なので、僕自身が、『はだしのゲン』を見て強烈なインパクトを受けたように、映画で仮のトラウマを体験してもらい、疑似体験の傷から防御膜を張ってもらえればと思っています」
戦争の恐怖や過酷な加害の現実から目を背けず、「いま知ること」の大切さを教えてくれる今作。ぜひスクリーンで体感してください。
※本作は「PG-12」(12歳未満の年少者が観覧する際、親または保護者の助言・指導が必要)となっています。
取材・文/小川聖子
撮影/水野昭子
映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
9月11日(金)よりkino cinéma 新宿ほか公開
ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?
監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也(『野火』、『斬、』、『ほかげ』)
出演:ロドニー・ヒックス ジェフリー・ラッシュ マーク・マーフィー リリー・フランキー and タチアナ・アリ
原作:『「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」』(アレン・ネルソン著、講談社文庫刊)
参考文献:『戦場で心が壊れて 元海兵隊員の証言』(アレン・ネルソン著、新日本出版社刊)
2026年|日本|英語|116分|PG12
英題:Mr. Nelson, Did You Kill People?
©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA
製作:木下グループ 制作プロダクション:キノフィルムズ、Cross Media International、J&B Entertainment、Chanh Phuong Films
配給:キノフィルムズ 公式サイト:nelsonsan.jp 公式X:@nelsonsan_movie
死体のにおい、戦場の音……。
戦争の本質は、今も昔も変わらない。
「ミスター・ネルソン」女の子はまばたきもせず、わたしをまっすぐに見つめると、たずねました。
それは、わたしにとって運命的な質問でした。
「あなたは、人を殺しましたか?」
だれかにおなかをなぐられたような感じがしました。
わたしの体はこわばり、重くなり、教室の床にめりこんでいくような気がしました。
――本文より
日本国憲法の絵本
▶︎親子で「憲法」を知る一冊

平和憲法の精神を表している「前文」と「第九条」を、子どもにも読める言葉に「翻訳」し、憲法の内容を心で感じられる作品。
▶︎大江健三郎さん推薦!

井上ひさしさんが小学生に語った「憲法」への思いが、絵本になりました。
「井上ひさしさんは、私が子どもの時から出会ってきた、楽しい話し手たちのなかの、一番のひとりでした。かれのことを忘れません。私の中にいるひさしさんの笑顔と声を、この本で何度も、アンコールしてゆきます。──大江健三郎(作家)

小川 聖子
東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。
東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。


































塚本 晋也
1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。14歳で初めて8ミリカメラを手にする。87年『電柱小僧の冒険』でPFFグランプリ受賞。89年『鉄男』で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。以降、国際映画祭の常連となり、その作品は世界の各地で配給される。 世界三大映画祭のヴェネチア国際映画祭との縁が深く、『六月の蛇』(02)はコントロコレンテ部門(のちのオリゾンティ部門)で審査員特別大賞、『KOTOKO』(11)はオリゾンティ部門で最高賞のオリゾンティ賞を受賞。『鉄男 THE BULLET MAN』(09)、『野火』(14)、『斬、』(18)でコンペティション部門出品。本作『ほかげ』はオリゾンティ・コンペティション部門へ出品された。また、北野武監督作『HANA-BI』がグランプリを受賞した97年にメインコンペティション部門、05年はオリゾンティ部門、19年にはメインコンペティション部門と3度にわたって審査員を務めている。 製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集などすべてに関与して作りあげる作品は国内、海外で数多くの賞を受賞、長年に渡り自主制作でオリジナリティ溢れる作品を発表し続ける功績を認められ、2019年にはドイツで開催される世界最大の日本映画祭「第19回ニッポン・コネクション」にてニッポン名誉賞、ニューヨークで開催される北米最大の日本映画祭「第13回 Japan Cuts~ジャパン・カッツ!」にて、第8回CUT AVOVE(カット・アバブ)賞を受賞した。 俳優としても監督作のほとんどに出演するほか、他監督の作品にも多く出演。2002年には『とらばいゆ』(01/大谷健太郎監督)、『クロエ』(01/利重剛監督)、『溺れる人』(00/一尾直樹監督)、『殺し屋1』(01/三池崇史監督)で毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。同コンクールでは15年に『野火』で監督賞・男優主演賞をW受賞、19年に『斬、』で男優助演賞を受賞している。その他出演作に『沈黙ーサイレンスー』(16/マーティン・スコセッシ監督)、『シン・仮面ライダー』(23/庵野秀明監督)。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)などドラマにも多数出演。
1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。14歳で初めて8ミリカメラを手にする。87年『電柱小僧の冒険』でPFFグランプリ受賞。89年『鉄男』で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。以降、国際映画祭の常連となり、その作品は世界の各地で配給される。 世界三大映画祭のヴェネチア国際映画祭との縁が深く、『六月の蛇』(02)はコントロコレンテ部門(のちのオリゾンティ部門)で審査員特別大賞、『KOTOKO』(11)はオリゾンティ部門で最高賞のオリゾンティ賞を受賞。『鉄男 THE BULLET MAN』(09)、『野火』(14)、『斬、』(18)でコンペティション部門出品。本作『ほかげ』はオリゾンティ・コンペティション部門へ出品された。また、北野武監督作『HANA-BI』がグランプリを受賞した97年にメインコンペティション部門、05年はオリゾンティ部門、19年にはメインコンペティション部門と3度にわたって審査員を務めている。 製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集などすべてに関与して作りあげる作品は国内、海外で数多くの賞を受賞、長年に渡り自主制作でオリジナリティ溢れる作品を発表し続ける功績を認められ、2019年にはドイツで開催される世界最大の日本映画祭「第19回ニッポン・コネクション」にてニッポン名誉賞、ニューヨークで開催される北米最大の日本映画祭「第13回 Japan Cuts~ジャパン・カッツ!」にて、第8回CUT AVOVE(カット・アバブ)賞を受賞した。 俳優としても監督作のほとんどに出演するほか、他監督の作品にも多く出演。2002年には『とらばいゆ』(01/大谷健太郎監督)、『クロエ』(01/利重剛監督)、『溺れる人』(00/一尾直樹監督)、『殺し屋1』(01/三池崇史監督)で毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。同コンクールでは15年に『野火』で監督賞・男優主演賞をW受賞、19年に『斬、』で男優助演賞を受賞している。その他出演作に『沈黙ーサイレンスー』(16/マーティン・スコセッシ監督)、『シン・仮面ライダー』(23/庵野秀明監督)。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)などドラマにも多数出演。