戦争で「なぜ殺した?」と問われ続けて 塚本晋也が挑んだ『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』の深すぎる問い

映画監督の塚本晋也さん
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「戦争」は勝てばいいのか、生き残ればいいのか。

2015年の映画『野火』を皮切りに、『斬、』『ほかげ』と3作品で「戦争」を描いてきた塚本晋也さん。監督・俳優として幅広く活動し、ヴェネチア国際映画祭で審査員を務めるなど、その才能は世界で高く評価されています。

塚本監督の戦争映画の集大成ともいえる、最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』の原作は、実はもともと子ども向け(児童書)として書かれた一冊でした。

ベトナム戦争の元海兵隊員アレン・ネルソンの実話を元に、戦争の加害者が抱える心の傷や暴力の連鎖を描いた塚本監督へ、原作との出会いや、今この作品を届ける意味を聞きました。

大人向けの本でも読んだことのない 苛烈な「加虐体験」

©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners
©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners

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〈ストーリー〉貧困や差別から抜け出すために18歳で入隊したアフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソン。ベトナムという苛烈な戦地で学んだのはただひとつ、いかに多くの人を殺せるか。その対価として得たのは、ごくわずかな賃金とPTSD(心的外傷後ストレス障害)だけだった。23歳で家を追い出され、ホームレスとなったアレンをこの世につなぎ止めたのは、退役軍人病院でカウンセリングを行っていたダニエルズ医師の存在だった。
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──9月11日公開の『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』の原作本は、塚本監督が『野火』(2015)で資料を探している際に出会って衝撃を受けた作品だったと聞きました。

塚本晋也監督(以下、塚本):そうですね。手にしたときから子ども向けに書いてあることはわかり、内容もスッと頭に入ってきました。しかし、そこに書いてある戦場体験は衝撃的で。

著者のアレン・ネルソンさんは、本当に包み隠さず自身の経験を語っており、その内容は大人向けの本でも読むことができないような苛烈なものでした。

▲23年前に児童向けの単行本(ハードカバー)で刊行された『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(左)、現在は文庫本(右)として刊行されている

塚本:戦争について書いた手記は、英雄的な視点や被害体験を書いたものが多く、「加虐体験」について語る人はほとんどいません。聞いて喜ばれるような話ではありませんから。それでもアレンさんは何も隠さず語っていく、そのことに大きな驚きを感じました。

この体験をそのまま映画にするだけでも、相当恐ろしい作品になるという気がしつつ、同時にそれは「世の中に必要なものだ」と思いながら読んだのが最初でした。

──18歳で海兵隊員になったアレンさんが、最初に人を殺したときの様子や自身の心情までとても細かに書かれていますね。

塚本:相手は40代くらいのベトナム人で、車のタイヤから作ったゴムサンダルを履き、歯が茶色くて……と、事実をつぶさに思い出して書かれているので、まるで戦場の匂いが立ち上ってくるほどのリアリティでした。

これを語ることもまた、アレンさんの戦争によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の、治療的な作業のひとつだったのだと思います。そして、それでも結局、克服しきれないことまで書いてあります。ですから、いかに戦争が恐ろしいかを実感させる一冊だと感じました。

©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners
©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners

──これが子ども向けに書かれた本だということにも驚きます。

塚本:
そう、そのことはとても大切だと思っています。というのも僕自身、子ども時代に『はだしのゲン』というマンガを通して戦争の恐ろしさを感じたから。

戦争の恐ろしさは、「死んでしまうのは嫌だけれど、生きて帰ってきたからといって良いものでもない」ということ。

「戦争に行けばこんな恐ろしいことを体験する」ということを知るのが重要だと思っています。だから映画とともに、この本もぜひ、たくさんの方に読んでいただきたいと思います。

帰還兵の苦悩  見過ごされてきたPTSD

──この映画は、「加害者の立場」から見た戦争とその影響の大きさにスポットを当てています。現在広く使われている「PTSD」という病名と診断基準は、ベトナム戦争(1960~1975年)の帰還兵たちをめぐる研究や社会運動がきっかけとなって誕生しました。第二次世界大戦では、日本の帰還兵の多くも同様の症状に悩まされていましたが、当時はほとんど黙殺されていたと聞きました。

塚本:
まさにそのとおりです。映画でも描きましたが、ベトナム戦争後のアメリカには、アレンさんの主治医・ダニエルズさんのようなカウンセラーがいて、帰還兵のカウンセリングやケアがなされたので、まだ救いがありました。

©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners
©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners

塚本:しかし日本では、「皇軍には軟弱な兵士はいない」という建て前のもと、多くは戦争による病とは認められませんでした。「もともと心が弱い人だった」「乱暴な人だった」ということで処理されてしまったため、まともな研究やケアがなされないまま、放置されてしまったのです。

近年になってようやく、この問題に目を向ける人が出てきているので、この映画によってさらに大きな問題として注目されればと思っています。

──塚本監督は、たびたび「暴力」にまつわる作品を作られていますが、人を殺したり、暴力を振るう体験は人間を変容させてしまうものだと思いますか。

塚本:
そうですね。あるドキュメンタリー番組でみたのですが、日本にいるときは優しいお父さんだった人が、戦場で敵を銃剣で刺し殺すように命じられる。当然やりたくはないのですが、逆らえば自分が殺される世界なので、ものすごく嫌だけれど決心してドスンと相手を刺す。

その瞬間、嫌だという気持ちが極限に達するのかと思いきや、不思議な手応えや充実感を感じると。そこからは腹がすわり、人を殺すことに抵抗がなくなる。

「兵隊さん」としては良い状態になるのだけれど、人間としては大きなものを失っていく、それが「戦場」なのだと。そうして殺戮を繰り返したのちに日常生活に戻ると、大きなギャップでPTSDの症状がでる、ということのようです。

そして、一度PTSDを患うと完治することは難しい。アレンさんも、カウンセリングなどで症状が緩和することはあっても、完全に元の状態に戻ることはできませんでした。

戦場で恐ろしい暴力を振るったら、家族には向けまいと思うのが人情のはずなのに、戦争に行った人にしかわからない独特の精神状態が生まれ、妻や子どもにさえ暴力を振るってしまうようになるのです。

──映画にも、帰還兵として戻ったアレンさんが、家族の些細な一言に激昂してしまうシーンがありました。

塚本:
アレンさんは、元軍人である自分の父親が怒りっぽく暴力的であることを嫌っていましたが、結局彼も父親と同じような状態になってしまう。もしかしたら彼の父親も、もともとは暴力的な人ではなかったのかもしれない。

戦争が、いかに人間の精神を荒廃させるか。そして、そのトラウマが家族へと連鎖する現実は、今やっと大きな社会問題として明るみに出てきました。なので、そのことも映画で描きたいと思いました。

人間が持つ「暴力性」を止めるもの

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