「日本のファッション誌の革命児」軍地彩弓が語るプリキュア20年「安室奈美恵にパリス・ヒルトン“ガールズパワーの時代”にプリキュアは生まれた」

クリエイティブ・ディレクター軍地彩弓が語るプリキュアと日本のファッションの20年「2000~2010年代」編

ライター:小川 聖子

写真:須藤秀之

プリキュア×ファッション年表! 『2000年代〜2010年代』

毎年新たに登場するプリキュアには、その時代の憧れの女の子像が反映されています。

『ふたりはプリキュア』が始まった2004年のファッションブームや、視聴者の価値観の変化は、プリキュアにどのような影響をもたらしたのでしょうか。
30年以上にわたり『ViVi』や『GLAMOROUS』『VOGUE JAPAN』、『Numéro TOKYO 』など数々の雑誌に携わり、現在はテレビ等で多数活躍されている軍地彩弓さんに「プリキュアシリーズ」とファッションについてインタビューしました。

前編では2000年代〜2010年代のプリキュアについて、その時代背景とともにファッションの視点でお話を伺います。

ガールズパワーが花開いた2000年代

──『ふたりはプリキュア』が始まったのは2004年。まずは、当時のファッションや女の子を取り巻く状況からおうかがいしたいです。

軍地彩弓さん(以下敬称略):2000年代前半は、海外ではブリトニー・スピアーズが音楽シーンを席巻し、日本だと安室奈美恵さんや浜崎あゆみさんが人気を博し、「カリスマ」という言葉がよく聞かれた時代です。

今より雑誌やテレビなどのマスメディアの影響力が強く、アイドルやタレントのファッションにトレンドが左右される時代でした。同時に80年代の女子大生ブームや、90年代の女子高生ブームを経て、10代の女の子たちのエネルギーや発信力に注目が集まる時代でもありました。

ミニ丈ボトム、お腹出しトップス、アームウォーマー……。私が長年携わっていた雑誌「ViVi」でも、そんなガールズパワーの象徴をすくいあげて発信することでファッションのムーブメントを起こしていました。
──『ふたりはプリキュア』のキャッチコピーは「女の子だって暴れたい!」。ミニ丈ボトムやお腹出しのファッションは、パワフルな女の子の象徴ですね。

軍地:はい。2023年の今は、再びこのようなファッションが「Y2K」として人気を集めています。それにはBLACKPINKなど韓国を中心としたアーティストの、強くカッコいい女性像が「ガールクラッシュ(女性が憧れる女性)」として注目されている背景があります。

ただこれらも元を辿れば、「女の子が戦って世界を変える」「お姫様ではなく、戦士に変身して強くなる」という『美少女戦士セーラームーン』(’92) やプリキュアシリーズの影響があるんですよね。

特にプリキュアでは、時には主人公を助けてくれようとする男性、「タキシード仮面」のような存在すら登場しません。「自分が強くなれば、自分で人を助けられる」という気づきは、それまでの女の子たちにはなかったもの。

両作品が今も人気を集めているのは、この世界観や価値観が時代を問わず多くの女性たちの共感を集めているからだと思います。

東日本大震災のときには「色の力」を感じました

──2010年代のプリキュアを見て感じることはありますか。

軍地:まず思い出されるのは東日本大震災('11)です。当時はガレキと土砂で真っ黒になってしまった被災地に誰もが衝撃を受けました。しかし同時に、ガレキの下から顔を出す鮮やかな花の色に勇気や希望を感じた人も多かった。

雑誌やファッションの世界でも、改めて「色の力」や「ファッションの力」に注目する動きがありました。『スマイルプリキュア!』('12) の鮮やかで強い色使いには、そんな思いが込められているような気がします。

『Go!プリンセスプリキュア』('15)のプリンセスや、『魔法つかいプリキュア!』('16)の魔法つかいの世界観にはディズニーっぽさを感じますが、これには『アナと雪の女王』('14)の大ヒットも影響していそう。

華やかなドレスやボリュームのあるヘアスタイルは、いつの時代も女の子の心をときめかせますよね。『アナ雪』は、王子様に頼らず、女性同士の連携で問題を解決したり、自分自身で幸せをつかむなど、今日的なテーマを内包している点も新しかった。

これらの価値観を自然に受け入れ成長していく女の子たちが、同じくプリキュアの視聴者であるという点は重要なことだと思います。

『キラキラ☆プリキュアアラモード』('17)は、コスチュームというか、もはや「キャラクターそのもの」という印象を受けますね。スイーツも動物も、子どもたちが大好きなものだと思いますが、それらを合体させてしまうのがすごい!

思えばこのころから、「食」に力を入れるファッションビルが増え、ファッション以上にフードのトレンドが盛り上がっていきました。「フード×キャラクター」の相性の良さはビジネスの世界でも注目されています。昨年の『デリシャスパーティ♡プリキュア』('22)もまさに「食」をテーマにしていましたね。

ダイバーシティへの意識がキャラクターにも

軍地:『HUGっと!プリキュア』('18)は、ぱっつんと切り揃えた前髪やロリータ風コスチュームに、三戸なつめさんを始めとした青文字系ファッションや、原宿カルチャーを牽引する「ASOBISYSTEM(きゃりーぱみゅぱみゅさんらが所属する芸能事務所)」の雰囲気を感じます。

このころになると、デジタルネイティブ世代(1990~2000年代生まれ)が発信をはじめ、2016年からは「Vチューバー」なども登場しています。

『スター☆トゥインクルプリキュア』('19)の、猫耳でレインボーカラーのスカートをはいたキュアコスモは、まさにそんなヴァーチャルの世界の住人を思わせるキャラクター。新しさや時代性を感じますし、実際私のまわりのα世代(2010~2020年代生まれ)が一番反応するのもキュアコスモでした。

──『スター☆トゥインクルプリキュア』は、「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマにした作品でもありました。

軍地:確かに、キュアコスモがまとうダイバーシティを表すレインボーカラーのコスチュームからも、それは伝わってきます。

メキシコ人とのミックスだという天宮えれなの存在も象徴的。2018年は、ヴァージル・アブローが「ルイ・ヴィトン」初の黒人デザイナーに就任した年でもあります。「自分とは違う相手を受け入れ、良さを認め合っていこう」というメッセージは、まさに時代にぴったりだと思います。
用語解説

Y2K:2000年ごろに流行したファッション。

青文学系:モテや男性ウケを狙った赤文字系に対し、個性的でカジュアルなファッションを志向する。

※デジタル世代、Z世代、α世代などの生年区分には諸説あります。
今憧れられる「ヒロイン像」とは? 2020年代のプリキュアとファッションの関係についてのインタビューは、後編に続きます。
発売日:2023年10月31日発売
価格:2420円(税込)/講談社
軍地彩弓(ぐんじさゆみ)

講談社「ViVi」編集部でフリーライターとして活躍したのち、同社「GLAMOROUS」の創刊に尽力。その後クリエイティブ・ディレクターとしてコンデナスト社「VOGUE girl」の創刊と運営に携わる。現在、株式会社gumi-gumi代表取締役を務める。
おがわ せいこ

小川 聖子

Seiko Ogawa
ライター

東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。

東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。