なぜ若者は「ホラー体験」に癒やされるのか? 『放課後死体クラブ(仮題)』が伝える「生きづらさ」を乗り越える知恵

話題の物語がついに書籍化! 講談社児童文学新人賞受賞

怪奇幻想ライター:朝宮 運河

写真:LIELOS/イメージマート
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『8番出口』の世界的な大ヒット、モキュメンタリーの躍進など、映画・ゲーム・小説のジャンルを横断して、エンタメ界では「空前のホラーブーム」が起きています。

「ホラーはあえてネガティブなメッセージを発することで、人生の厳しさや孤独に寄り添ってくれる、セラピーのような側面も持っている」

と語るのは、怪談・ホラー作品に造詣が深い文芸ライターの朝宮運河さん。

ホラー映画の持つ不思議な力と、不器用な少女たちの熱い絆を描いた注目の青春小説『放課後死体クラブ(仮題)』を紐解きながら、不条理な現実を生き抜くための「心のシェルター」となる、ホラーの魅力を解説します。【※(仮題)までが正式タイトル】

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「死体クラブ」を結成する少女たち

ホラー映画を愛してやまない少女たちの友情と成長の物語。第66回講談社児童文学新人賞を受賞した、ひなたきなのデビュー作『放課後死体クラブ(仮題)』(講談社)の内容を簡単にまとめるならこうなるだろう。

▲「死体役」を目指す型破りな少女たちの、「ホラー映画愛」あふれる青春小説『放課後死体クラブ(仮題)』(著:ひなたきな)
▲「死体役」を目指す型破りな少女たちの、「ホラー映画愛」あふれる青春小説『放課後死体クラブ(仮題)』(著:ひなたきな)

児童文学の主人公がホラー映画マニア? しかもタイトルが『死体クラブ』って? いろいろ気になるポイントはあるだろうが、まずはこれだけ伝えておきたい。

本書はダークで風変わりな、それでいてポップで前向きなYA小説の秀作だ。ホラー映画という癖のある題材を用いながら、作者は普遍的な力を備えた物語を見事に紡いでいる。

主人公の内海ひよりはクラスで「浮かない」ことを常に心がけて暮らしている中学2年生。友達に合わせてK-POPアイドル好きのふりをしているが、本当は興味がない。彼女が何よりも好きなもの、それはホラー映画だった。

ある日、敬愛するホラー監督の新作を鑑賞しに出かけたひよりは、映画館で同級生の由木と遭遇する。いわゆる陽キャのグループに属するひよりと、いつも教室で怪しげな本を読んでいる由木。これまで接点のない二人だったが、ともに大のホラー映画好きであることが分かって意気投合する。

その出来事以来、親しく交流するようになった二人は「死体クラブ」を結成。ホラー映画に出演し、完璧な死体役を演じることが、由木の将来の夢だったのだ。元児童劇団員のひよりは演技の基本を由木に教え、代わりに由木は映画で仕入れた死体役のテクニックを伝授する。クラスメイトにも家族にも内緒のクラブ活動は、それぞれに悩みを抱えた二人の大切なよりどころとなっていく。

マニアックなホラーネタと、王道の青春ストーリー

プロフィールによれば作者のひなたきなも、ホラー映画ファンであるらしい。そのため本書には国内外のホラー映画のタイトルや、有名なシーンへの言及がいくつもちりばめられており、元ネタを知っているとそれだけで楽しい。

たとえばひよりと公園で待ち合わせた由木がいきなりやってみせたのは『リング』の貞子の出現ポーズだし、ひよりは推しである『エルム街の悪夢』の殺人鬼・フレディへの愛を口にする。由木が着ているTシャツの胸に踊っているのは『シャイニング』のジャック・ニコルソンだ。

写真:snowleopard/イメージマート
写真:snowleopard/イメージマート

そんなマニアックな趣向が青春小説の王道ともいえる展開とうまく絡み合っているのが本書の特徴であり魅力でもある。二人が取り組む死体クラブの練習は、ナイフで刺されて倒れる特訓をしたり、ホラー映画の有名ヒロインであるキャリーとミーガンになりきって即興演劇をおこなったりと、一見物騒ではあるがとても楽しそうなもの。

好きなことに全力で打ち込むひよりと由木の姿には、ホラーに興味がない人もいつしか頰がゆるみ、二人を応援したい気持ちになっているだろう。

本書の読みどころはそれだけにとどまらない。ひよりは小学生のころ、児童劇団で「トイレの花子さん」を演じて好評を博したのだが、それが原因でクラスののけ者にされてしまった。以来、彼女はなるべく目立つことを避け、輪からはみ出さないように努めている。しかし由木と死体役の特訓を続けるうちに、演じることの楽しさを思い出す。

一方の由木は「この世界は無人島」と言い放つクールな心の持ち主で、同級生にいじめられても動じない強さを持っているように見える。しかしそれは内に秘めたマイナスの感情に目を向けていないだけだ。かつて憧れた花子さん役のひよりに演技の手ほどきを受けることで、由木もまた抑えつけていた心を解き放っていく。

それぞれに悩みや葛藤を抱えた二人が、死体クラブの活動を通じて、抑えつけていた自分らしさを解き放っていく。そうした人間ドラマにも引き込まれる。

誰もが「隠された素顔」を持っている

放課後死体クラブ(仮題)

放課後死体クラブ(仮題)

ひなた きな(著)  satsuki(絵)

発売日:2026/10/21

価格:定価:本体1600円(税別)

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