“ママ友と仲良く”は本当に必要? 上手な付き合い方を見つける心構え
人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室〔05〕
2021.07.03
コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎
パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。
500冊を超える人生相談本コレクターで、2歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。
今回は、「ママ友とうまく付き合えない」
というママ(2歳男児の母35歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?
毒舌のマツコが“無理はせず自分と向き合って”と応援
親だからといって、何でもこなせるわけではない。それぞれ苦手なことはある。今回は「ママ友とうまく付き合えない」というお悩み。公園に行っても母親たちの輪に入っていけず、仲のいい友だちもできないそうじゃ。この先、幼稚園や小学校に入ってからも、同じ状態が続くかもしれないと落ち込んでおる。似た悩みを持つ親は、きっと多いに違いない。「人生相談」の森に分け入って、悩みから抜け出すヒントを探してみよう。
まず最初にご紹介したいのは、33歳のミツヨさんからの【ママ友達がいません。集団の中に入っていけない私を変えたい】という相談。話しやすい相手とは1対1で話せても、周囲にいっぱい人がいると、声もかけられずに固まってしまうとか。そんな引っ込み思案な自分が悲しいと嘆く相談者に救いの手を差し伸べるのは、マツコ・デラックスさん。
〈みんなで無理して集わなくてもいいのよ。連れションする女子高生じゃあるまいし。(中略)ただね、ミツヨさんで気になるのは「声もかけられない」っていう弱さ。ううん、友達を作るために話しかけられないのが問題なのではなく、ひとりの男性と結婚して立派に子供を育てている女性として自分が引っ込み思案だからといって、社交辞令として「おはようございます」も言えないことが問題なの。何故それが言えないのか、その根源にある問題を自分で発見できたら、人に対する恐怖心は和らぐはず。自分の心を知るためにも、今一度人生を顧みることも必要かもしれないわね〉
(初出:マンガ雑誌『本当にあった主婦の体験』上で、2006~2010年に掲載された連載「マツコ・デラックスの愛の人生相談劇場」など。引用:マツコ・デラックス著『あまから人生相談』2011年、ぶんか社)
力業で悩みを吹き飛ばすのかと思いきや、自分の中に潜む問題を見つけたほうがいいと、深い対処法を勧めている。自分を無理に変える必要はないが、自分が何を怖がっているのかは、探っておいたほうがいいかもしれん。さらに「周りと一緒という生き方にこだわらないことで、新たに生まれてくる喜びは必ずあるのだから。頑張ってね」とも。マツコさんだからこその説得力あるアドバイスである。考えてみたら、ママ友の集団に入れなくても、みんなと一緒のことをしていなくても、後ろめたく思う必要はさらさらない。
面倒なママ友からはすっと身を引き「柳に風」で
続いては、子ども同士のトラブルが厄介な事態に発展したケース。相談者は33歳の女性。5歳の子ども同士のいさかいで相手の子に注意したら、母親がくどくど文句を言ってきた。「よそで遊ばせたりして距離を置こうとすると、気に入らないようで行き先をしつこく聞いてきます」とのこと。引っ越ししたいとまで思いつめている相談者に、詩人の伊藤比呂美さんは、こうアドバイスしている。
〈息子さんは(中略)、自分で友だちをみつけて世界をひろげていくでしょう。信じましょう。一方、おとなはあやういです。相手の人もがんじがらめになっちゃってるようだ。がんじがらめをほどくのはたいへんむずかしいので、ここはもう、そのがんじがらめに近寄らないことにする。ご近所というだけです。つきあう義理もなけりゃほんろうされる義理もない。だから基本的には無視することです。どんな態度をとったっていいんですが、かえって相手を刺激するとあとがしつこいから、ここは、柳に風で聞き流す〉
(初出:『西日本新聞』上で、1998~2002年に掲載された連載「比呂美の万事OK」 引用:伊藤比呂美著『万事OK』2002年、新潮社)
さらに、夫を引き込んで悩みを共有したり息子と遊んでもらったりして、いっしょに「家庭を攻撃するちんけな敵」に立ち向かおうとも。ひとりで抱え込むと、それこそいろんなことにがんじがらめになって、世界のすべてが絶望に包まれているように思えてくる。相談者はこのアドバイスで、きっと「ご近所のひとりやふたり、さっさと切り捨てたところで何の問題もない」と気づいてくれたに違いない。
「価値のない人と関わるのは無駄!」と美輪明宏は断言
「うまく付き合えない」とひと口で言っても、その形はさまざまである。3つ目は【考えが合わないママ友とどう付き合えばよいですか?】と悩む31歳の女性の相談。子どもには野菜中心に栄養バランスを考えた食事を食べさせている。ところが、周囲のママから「いまどきマクドナルドにも行かないなんて」「野菜ばっかり食べさせられて、子どもがかわいそう」と言われるとか。美輪明宏さんは、ママの悩みをバッサリとメッタ斬りする。
〈無理してつきあう必要はありません。つきあう価値のない人といっしょに過ごしても、時間とお金と神経のむだ遣いになるだけ。かかわり合わないことです。しかも幼稚園は、二、三年のつきあいでお別れでしょう。短い期間なのですから、気を使うことはまったくありません。(中略)どう考えても、あなたのほうがまともなのは一目瞭然。なんにも落ち込む必要はありません。胸を張って、頑としていらっしゃい〉
(初出:雑誌『家の光』に掲載された連載「美輪明宏の人生相談」 引用:美輪明宏著『悩みも苦しみもメッタ斬り!』2011年、家の光協会)
美輪さんは「まわりのバカ親たちには、どう対応すべきか」についても、アドバイスを贈ってくれている。何か言われたら「そうですか、そうですか」と聞き流すこと。そして、気の進まない誘いを断わるには、「おばさんが田舎から出てくる」「夫が早く帰ってくる」といった都合のいいうそを20個ぐらい用意しておいて、代わりばんこに言うこと。美輪さんも、適当に距離を取る大事さと効能を強調しておる。
「うまく付き合えない」という悩みは、発想を変えて「うまく付き合う必要はない」と思えたら、たちまち解決する。地域のママ友にせよ会社の同僚にせよ、たまたま接点ができただけで、相性や考え方が合わないのは当たり前である。うわべだけで無難に接するにせよ遠ざけるにせよ、自分がいちばん楽な“付き合い方”こそが正解と言えるじゃろう。
ママ友より自分&家族を優先 “離れる勇気”があれば怖くない
<石原ジイジの結論>
思い起こせば、娘が幼い頃は、「パパ友」との付き合い方に悩んだものである。保育園の運動会や学童保育のキャンプに行くたびに、よそのパパと何を話せばいいのか、張り切り過ぎて空回りしていないか、このタイミングでダジャレを言っていいものか……などなど。うーむ、どれもノンキな話で「悩み」と言うほどでもないな。しょせんは、たまに会う関係に過ぎなかったわけだし。
人生相談本の森の中で「ママ友」の悩みはたくさん見つかったが、「パパ友」の悩みには出合えなかった。現状、日本では母親が子育てに関わる比率が高い。ただ、パパが日常的な場面で参加する場面も、だんだん増えている。メディアの人生相談コーナーに、パパからの「パパ友とうまく付き合えません」という相談が載る日も近いじゃろう。
「ママ友とうまく付き合えない」という相談は、どれも悲痛な気配をまとっている。悩めるママにとって、ママ友との関係悪化は「世界の終わり」に等しい絶望的な事態なのかもしれん。「ママ友とうまく付き合える素敵なママ」にならねばという呪縛やプレッシャーもありそうじゃ。多くの回答の向こうに、絶望から抜け出す希望の光を授けてくれる真理が浮かび上がってきた。
その1「親が人付き合いが苦手でも、子どもの友だち付き合いには関係ない」
その2「その厄介な人間関係は、断ち切ってしまってもとくに不都合はない」
親が「○○ちゃんのママは嫌い」と思っていても、「あの子と遊んじゃダメ」とか何とか余計なことを言いさえしなければ、子ども同士は勝手に仲良くするじゃろう。ママ友という短い付き合いの隣人とは、最初から「いかに浅い付き合いをするか」を目指すぐらいでちょうどいい。苦手と感じる人がいたら、逃げの一手である。
「どのママ友ともいい関係を築きたい」と力が入っている人は、周囲から見ると面倒くさいかもしれん。ママ友個人にせよ「ママ友」という人間関係にせよ、多くを期待するのは悩みのモトである。そんな腰が引けたスタンスでも、仲のいい「友だち」はできるときはできる。期待していないときにできた友だちのほうが、結果的に長くいい関係を築けそうじゃ。
必要に応じて「離れる勇気」を発揮しよう。ママ友とうまく付き合うことより、自分の感情や大切な家族とうまく付き合うことのほうが、人生における重大事である。
石原 壮一郎
コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか
コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか