子ども同士のトラブル 「友だちを泣かせる我が子」は加害者ですか?

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室〔04〕

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

孫・F菜ちゃんとお散歩する石原壮一郎ジイジ。人気の新刊『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』(ワン・パブリッシング)では、SNSやマスク越し等、今の時代ならではのコミュニケーション術を説いている。
写真:おおしたなつか

パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。
500冊を超える人生相談本コレクターで、2歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。
今回は、
「子どもが友だちを泣かせてしまう」
というママ(3歳男児の母32歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

泣かし泣かされて成長 大人と違う子どもの人間関係

ジメジメした季節だが、心の中までジメジメする必要はない。人生相談の森の奥に踏み入れば、悩みを晴らす一筋の光がきっと見つかるはずじゃ。今回は「子どもが友だちを泣かせてしまう」という3歳の男の子のママさんから届いたお悩み。公園に遊びに行くたびに友だちを泣かせてしまい、周囲のお母さんの目が気になって辛いとか。

遊んでいる様子を見守っている親としては、子ども同士の「トラブル」はやはり気になる。子どもが泣いたりケンカしたりするのは自然なことだとわかってはいても、泣かせた側の親も泣かされた側の親も冷静ではいられない。しょっちゅう泣かされる側の悩みもきっと深いが、今回は泣かせがちな側の悩みを掘り下げてみるとしよう。

ひとつ目は、幼稚園ママ対象の電話相談に寄せられた【活発すぎて友達を泣かせてしまいます。「乱暴な子」と言われ、肩身の狭い思いです。】という4歳のお母さんからの相談。「月かげ幼稚園」園長(当時)の中西雄俊さんは、「まずは『活発さ』を、お子さんの『よさ』として認めてあげたいですね」と前置きしつつ、こうアドバイスする。

〈幼稚園の中では、こういった「やった」「やられた」がしばしば見られます。(中略)でも、それは「いじめ」ではありません。まだ人との関わりが未熟な段階の子ども同士が、たまたま作り出す場面なのです。(中略)お母さんも、子どもの一時期一方的な訴えだけで、加害者対被害者という図式で見たり、「乱暴な子」というレッテルを張(原文ママ)ったりしないことです。タイプの違ういろいろな子と関わりをもつことで、どの子も成長していくのですから〉
(育児文化研究所編『幼稚園のころ ママの悩み相談100』1999年、赤ちゃんとママ社より抜粋)

さらに「お母さんは『肩身の狭い思い』をする必要もありませんし、「いじめっ子になるんじゃないか」と心配することもありません」とも。子どもには子どもの人間関係があり、成長段階ごとの事情がある。大人の基準や感覚を元にジャッジするのは、大きなお世話かもしれん。我が子に対してもよその子に対しても、つい「わかりやすいレッテル」を貼りたくなるが、その誘惑は全力で跳ねのけたいものじゃ。

子どもは“ノーコンピッチャー” 親は守りに回れ と映画監督・大森一樹

続いては、新聞に寄せられた【しょっちゅう友だち泣かす三歳の娘】という30代主婦からの相談。娘が活発すぎて、友だちのおもちゃを取り上げたり泣かせたりするとか。子どもなら当たり前と思いつつ「最近ではまわりの目が冷たく思え、子育てを批判されている気さえします」とも。映画監督の大森一樹さんは、自分も親として周囲の目にビクビクした経験があると言いつつ、こう答えておる。

〈あなたの言われるように、子どもなら当たり前で成長のひとつでいいと思います。しかし、そう開き直るとまわりの目は冷たくなるものですし、結局、絶えずハラハラビクビクしながら見守らざるを得ないのなら、それがあなたの役割かもしれません。子どもはノーコンのピッチャー、バックの内野を守るのはあなた。ただ、その後ろの外野を守る父親にまったく触れられていないのが気にはなりますが〉
(1990年代後半に『読売新聞』の「人生案内」に掲載。 ※大森一樹著『あなたの人生案内』2001年、平凡社より抜粋)

「子どもなら当たり前」と思ってはいても、周囲へのアピールとして必要以上に叱ってしまう状況は、きっとよくある。ハラハラビクビクをなくそうとすればするほど、余計にハラハラビクビクしてしまうし、子どもに無理を強いることにもなりそうじゃ。たしかに「開き直る勇気」を持つことが、親の役割かもしれん。相棒である父親にも、悩みや決意をきっちり話して、バックを守る一員である自覚を持ってもらおう。安心して開き直るためにも。

尾木ママは まず子どもに寄り添って話を聞くことを最優先

最後は、雑誌『小学一年生』に寄せられた【娘が友だちに意地悪をしていました……】という相談。小学一年生の娘が、友だちに「もう一緒に遊ばない」と言ったり、ケンカをしたあとも無視をしたりしていたとのこと。担任の先生にも伝えたものの、また意地悪をしていないか不安だという悩みに、尾木ママこと教育評論家の尾木直樹さんは「(あなたがしたように)担任の先生に相談するのがいちばん」とホメつつ、こうアドバイスする。

〈ときには娘さんに「友だちとはどうなの? 困ったりしていることはない?」とさり気なく聞いてみましょう。本人にそのつもりはないのに、「意地悪なことをされた」と相手に違った受け止め方をされてトラブルになったり、何気ない言動で相手を傷つけてしまった、なんてこともありますから。そんなときは、なぜ相手を傷つけてしまったのか、ママも一緒に考えましょう。そして、「何があったの?」と子どもの気持ちに寄り添い、話を最後までしっかり聞いてあげてください。たとえ本人が悪くても、決して頭ごなしに叱ったりしないでくださいね〉
(2012年~2016年に雑誌『小学一年生』に掲載。 ※尾木直樹著『尾木ママ小学一年生 子育て、学校のお悩み、ぜ~んぶ大丈夫!』2017年、小学館より抜粋)

さすが尾木ママ、丁寧でやさしい対応の仕方を伝授してくれている。基本的な対応ではあるが、それがじつは難しい。反射的にうろたえると、相手の子を悪者にしたり、話も聞かずに我が子を激しく責めたりしてしまう。また尾木ママは、小さな弟や妹の世話などで、気づかないうちに愛情が伝わっていない可能性もあると指摘している。子どもがいつもと違う行動をしたときは、何かの警告かもしれないと考えてみることも大事じゃな。

そもそも子どもというのは、親の思ったとおりの行動はしてくれない。まったく手がかからない「いい子」がいたとしたら、むしろそのほうが心配じゃ。親の希望や想像を超えた行動をしでかすのが、子どもの仕事である。親のほうとしては、超えてはいけない線を超えないようにしっかり見守りつつ、なるべくデンと構えるのが仕事かもしれんな。

子ども同士に加害者・被害者はなし 双方に平和でやさしい対応を

<石原ジイジの結論>
ノドもと過ぎればなんとやらで、すっかり忘れてしまっていたが、娘が幼い頃は毎日のように「不測の事態」に直面していた。友だちを泣かせた、友だちに泣かされた、友だちとケンカして相手の悪口を言っている……。友だち関係だけでも、数え上げたらキリがない。その度に、どう対応するのが「正解」なのか、悩んだり迷ったりしていた。

自分たちのしたことが娘にとって「正解」だったかどうか、それはわからない。間違いも多かっただろう。親としては自分たちの力量以上のことはできないと開き直って、その場面場面ごとに「最適」と思える対応をしていくしかない。まあまあうまくできたり、ああすればよかったと後悔したりを繰り返しながら、親も子どもも少しずつ成長していく。

「子どもが友だちを泣かせてしまう」という相談の例は、紹介した以外にも大量にあった。「こう対応すればたちまち解決」という魔法のやり方は、残念ながらどこにも提示されていない。ただ、回答を見比べることで「気を付けたい落とし穴」は浮かび上がってきた。

その1「『泣かせる側=加害者、泣かされる側=被害者』という図式で見てはいけない」

その2「まわりのお母さんたちの目を気にし過ぎるのは、子どもにも自分にもマイナス」

泣かせる側の子は、加害者でも悪い子でもない。それは泣かせる側の親だけでなく、すべての親が肝に銘じておきたい大原則である。普通に遊んでいる状況の中では、泣かされた側の親が、我が子を「被害者」だと思う必要もないし、泣かせた子に怒りや恨みを抱くのは筋違いじゃ。看板に大きな字で書いて、公園に貼っておいてもいいかもしれん。

おそらく、ほとんどの親はそのことはわかっている。「周囲からの冷たい目」は妄想であることも多いかもしれない。たまに、我が子可愛さで感情的に文句を言ってくる親がいたとしても、表面的には恐縮しつつ、自分の中では適当に流しておけば十分である。

ただ、だからといって「泣かせても謝る必要はない」とムキになる必要はない。泣かせたほうは「あらあら、ごめんなさい」と謝って相手の親の気持ちを鎮め、泣いたほうも「いえいえ、泣いちゃってごめんなさい」と謝るのが、平和でやさしい世界である。どうせ完璧はないという開き直りを武器に、周囲にも我が子にもそして自分にも、余裕ある平和でやさしい対応を心がけたいもんじゃ。

【石原ジイジ日記】
最近のF菜のお気に入りは、私が街のオモチャ屋さんで衝動買いした「ブーブークッション」。直径15cmぐらいと小ぶりで、鳴ったあとに自動的にふくらみます。勢いよく乗っては何度も「ブー」と鳴らして大興奮。まさに天使の笑顔。ただ、横で見ている娘が苦々しい顔をしている気がしないでもありません。
いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか