関根勤・麻里親子らに学ぶ 子育てでもっとも大事な親の姿勢の見せ方とは

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室【20】「子育てでもっとも大事なことは」

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

1月に新刊『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)を上梓。100冊以上の著書を出してきた石原ジイジが、還暦を前に気づいたという、あえて“意識ゆるい系”で生きるススメとは。  写真:いしはらなつか

パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。

500冊を超える人生相談本コレクターで、4歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回は、4歳と息子と1歳の娘を持つ33歳のママからの相談。「子育てでもっとも大事なことって何なんでしょうか。親として子どもに何ができるのでしょうか」と悩んでいる。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)PROFILE
コラムニスト&人生相談本コレクター。1963年三重県生まれ。1993年のデビュー作『大人養成講座』がベストセラーに。以降、『大人力検定』など著作100冊以上。現在(2023年)、4歳女児の現役ジイジ。

親は「人生は楽しい」を子どもに見せる

子どもは無限の可能性を持っている。我が子はどんな人間になって、どういう人生を歩んでいくのか。親の影響は大きいし責任は重大である。楽しみであると同時に、不安や心配や迷いは尽きない。

子育てでもっとも大事なことは何か。親は子どもに何ができるのか。親にとっての永遠の命題に、人生相談がどう答えてくれているのかを見てみよう。

最初に取り上げるのは、1歳と3歳の子どもを持つ32歳のママからの相談。我が子には「自分で考えて行動できるように育ってほしい」と願っていて、プラスになることがあれば心がけたいと考えている。いっぽうで「情報を仕入れすぎて混乱しています」とも。

ライフネット生命保険の創業者で、現在は立命館アジア太平洋大学の学長を務める出口治明さんは、「動物も同じですが、大人は子どものロールモデルです」と切り出しつつ、こう言う。

〈お子さんと接するときに何がいちばん大事かといえば、あなたが元気で明るく、楽しそうにしていることです。あなたがいつも元気で明るく楽しそうにしていれば、お子さんも“人生は楽しいものなんだな”ということが、実感としてわかると思います。

では、あなたが元気で明るく楽しそうにするために何が必要かと言えば、きちんと食べて、きちんと寝ることです。(中略)

教育とは、人間が複雑な社会において生きていく武器を与えることだと思います。いちばん大事な武器は、「自分の頭で考え、自分の言葉で自分の意見をきちんと言える力」を身につけることです。〉

(初出:期間限定サイト「おしえて出口さん! 出口が見えるお悩み相談」2017年3月30日~7月31日。引用:出口治明著『おしえて出口さん! 出口が見えるお悩み相談』2017年、ウェッジ)

出口さんはさらに、子育てについてパートナーとよく話し合って、意見を一致させることが大切だと強調する。「両親が教育について違う考えを持っている中で育てられる子どもって、かわいそうですよね」とも。

パートナーと意見が対立していたら、大前提である「元気で明るく、楽しそうにしている」も、けっして実現しない。自分が考える「正しさ」を強引に押し通すのは、明らかに正しくないし、パートナーや子どもに対して不誠実である。

関根勤は娘・麻里をとにかく笑わせた

続いては、7歳の娘を持つ30歳のママ。タレントの関根勤さんと関根麻里さん親子を見て「(娘を)麻里さんのような素敵な女の子に育てたい」と考えているそうじゃ。

「関根さんの子育てでこだわった点やどんな親子関係だったか聞かせてください」と尋ねられた父親の勤さんは、「娘にしてあげたのは、毎日笑わせること」と答える。

〈世の中はストレスだらけです。(中略)僕は、人を笑わせるのが仕事です。その力を使って、家庭で娘を徹底的に笑わせて「世の中は楽しい」「生きているって楽しい」と思ってもらおうとしました。それが僕にできることだなと。

とにかくふざける。くだらないことでいいんで、娘を笑わせる。そうしたら外でいやなことがあっても家でリセットできるはず、と信じました。そしてもうひとつ。親子でも口に出さなきゃ伝わらないことがある、という信念です。(中略)

その頃、麻里は小6ぐらい。ある日の夜、いつものようにさんざんふざけた後に僕は改めて彼女に言ってあげました。「お父さんは、麻里のために死ねる」と。〉

(引用:関根勤著『全肯定! 関根流・ポジティブ人生相談』2012年、マガジンハウス)

麻里さんが芸能界に入りたいと父親に伝えたのは、21歳のとき。勤さんは「『そうきたか…』という感じ」だったものの、止めはしなかった。

「本当は楽しいだけではない仕事なんですが、僕は娘には楽しい面しか見せないようにしてましたし。なるべくしてなったんでしょうね」と言う。

親と同じ仕事を選んでくれた嬉しさはあるだろうが、仮に別の仕事を選んでいたとしても、その仕事を楽しそうにやっていれば父親として同じぐらい満足に違いない。

ママが勉強を無理じいした子どもはヒネて悪くなった

最後に紹介するのは、半世紀ほど前の人生相談。当時、事あるごとに「教育ママ」を批判していた作家の山口瞳さんに、37歳のママが「教育ママのどこが悪いのでしょうか」と疑問をぶつけている。

「子供の教育に熱心な母親というものは誉められこそすれ、けっして責められる筋あいのものではないと思います」「戦後、男は弱くなったといいます。それは認めるでしょう。従って、女が立ち上がる以外にないのです」など、とても威勢がいい。

山口さんは、教育に熱心なことは悪くないけど教育ママは「非常に悪い」と断言する。

〈では家庭教育は不必要であるか。私は全く不必要だと思う。子供は、十歳くらいまでは両親を尊敬し、見習うものです。そこに親の責任が生ずると考えます。それだけでいい。(中略)

私の知人で、ムリヤリ優秀校へいれた母親が何人かいます。その子供たちを親は自慢しているようですが、そのヒネこびていて行儀の悪いこと。私はそんな子供は大嫌いだな。(中略)

子供は子供で、母親のことを「教育怪獣ママゴン」と言って憎み、かつ馬鹿にしています。私は、子供は、素直で心が優しければいいと思う。〉

(初出:「週刊文春」連載「山口瞳のマジメ相談室」1966年1月~1967年9月。引用:山口瞳著『キマジメ人生相談室』2012年、河出書房新社)

回答は「もし、母親が立ち上がるとするならば、思春期の子供たちの生きる喜びを奪ってしまうような、受験本位の現在の学校教育に対してではないでしょうか」と締めくくられている。当時は経済が発展していく中で、「教育ママ」の増加が社会問題になっていた。

しかし、昨今の親の「教育ママ」「教育パパ」っぷりは、当時とは比べものにならないぐらい広くて深くて念入りである。山口さんが言う「教育ママがもたらす弊害」は、今読んでもけっして時代遅れではない。

大きなお世話と受け止めるか、ありがたい警鐘と受け止めるか。そこは親としてけっこう重大なポイントと言えるじゃろう。

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