不安症、発達障害の子どもが「うつ病」に? 遺伝・環境・疾患…「うつ病になりやすい子ども」の特徴と治療 専門医が解説

子どものうつ病#2 ~うつ病の診断・治療~

北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授、児童思春期精神医学専門医:齊藤 卓弥

齊藤先生 お子さんにうつ病を疑われる症状があり、生活リズムの乱れや自殺念慮が見られるなど、今までの普段の生活から大きく逸脱した場合、受診をおすすめします。中学生くらいまでであれば児童精神科、高校生以上であれば精神科でも診られることがあります。

医療機関でうつ病の診断に使われるのは、以下の精神疾患の世界的な診断基準「DSM‐5準拠」です。中核症状からひとつ以上、関連症状から4つ以上の症状があり、さらに2週間以上続いて日常生活に大きな影響が出ている場合には、うつ病と診断がつきます。

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精神疾患の世界的な診断基準「DSM‐5準拠」

◾中核症状
・抑うつ気分(子どもの場合、易怒的な気分)
・興味、または喜びの喪失


◾関連症状
・体重の変化、食欲の障害
・睡眠障害
・精神運動性の焦燥、または抑止
・易疲労性、または気力の減退
・無価値観、または過剰、不適切な罪責感
・思考力や集中力の減退、または決断困難
・自殺行動

齊藤先生 うつ病と診断がついたら、お子さん本人や家族にうつ病であること、うつ病がどんな病気であるかを十分に説明して治療を進めていきます。大切なのは、大人のうつ病と同じで、しっかりと休養すること。心と体を休ませるのが不可欠です。

アメリカでは、うつ病の治療として、認知と行動に働きかけて健全なものに導く認知行動療法、身近な人との関係性に焦点を当てた対人関係療法などが一般的ですが、日本ではまだ対応できる医療機関が非常に少ないのが現状です。

まずは、お子さんがつらい気持ちを言葉で表現できるようにサポートすること。そして、医療関係者と家庭、学校、スクールカウンセラーなどが協力しながら、うつの要因となっている問題を減らしていけるように環境を整えることが、子どものうつ病への重要なアプローチとなります。

他国では薬物療法も取り入れていますが、日本では18歳未満への使用で有効性を承認されている抗うつ剤がないこと、また、抗うつ剤の有効性は年齢が低いと下がることから積極的には行いません。ただ、自殺念慮が強いケースなど症状が重い場合、家族に未承認であることを説明して処方することはあります。

ADHDなど発達障害の二次障害でうつ病を患っている場合も、まずはうつ病を治療してから、ベースにある発達障害の治療をするのが一般的だと思います。

──治療期間はどれくらい必要でしょうか?

齊藤先生 重症度にもよりますが、数ヵ月はかかります。うつ病はすぐに治る病気ではないですし、大人に比べて、子どもはより元の生活に戻るのが困難なのです。

なぜなら、大人はリワーク(※注 精神疾患が原因で休職している労働者に対し、職場復帰に向けて実施されるプログラム)などもあり、症状が回復し元の機能レベルに戻ることが治療のひとつのゴールなのですが、成長段階にある子どもはそうはいきません。

数ヵ月学校を休めば、授業は進んでいるし、仲のよかった友達も新しい関係性を築いている。そこに入っていくのは、とても難しいですよね。

単に気持ちの問題だけではなく、うつ病は疲れやすく、集中力を低下させてしまうため、よほど気力がないと周りに追いつくのは大変です。回復してもまた気持ちが落ち込んでしまい、うつを再発する子も多いのです。

これは、子どものうつ病の治療の大きな課題です。元に戻ることがゴールではなく、どうやって周りに追いつけるようにサポートするか。あせらせないように、過剰なストレスを与えないように見守ることが大事だと思います。

─・─・─・─・─・

第3回は、うつ病の予防・悪化・再発を防ぐために親ができることについて伺います。


取材・文/星野早百合

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さいとう たくや

齊藤 卓弥

Takuya Saito
北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授、児童思春期精神医学専門医

1987年に日本医科大学卒業後、日本医科大学神経科、アメリカ・ニューヨークのコーネル医科大学精神科、アルバート・アインシュタイン医科大学を経て、1999年、日本医科大学にて医学博士取得。 アルバート・アインシュタイン医科大学精神科助教授、日本医科大学精神医学教室准教授を経て、2014年、北海道大学大学院医学研究科児童思春期精神医学講座(現・子どものこころと発達センター)特任教授に就任。児童思春期精神医学の発展、児童思春期精神医学を担う医師の養成に尽力する。 ●北海道大学病院 ●北海道大学病院子どものこころと発達センター

1987年に日本医科大学卒業後、日本医科大学神経科、アメリカ・ニューヨークのコーネル医科大学精神科、アルバート・アインシュタイン医科大学を経て、1999年、日本医科大学にて医学博士取得。 アルバート・アインシュタイン医科大学精神科助教授、日本医科大学精神医学教室准教授を経て、2014年、北海道大学大学院医学研究科児童思春期精神医学講座(現・子どものこころと発達センター)特任教授に就任。児童思春期精神医学の発展、児童思春期精神医学を担う医師の養成に尽力する。 ●北海道大学病院 ●北海道大学病院子どものこころと発達センター

ほしの さゆり

星野 早百合

ライター

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。