テストの点数で子どもの価値は決まらない 「能力主義」がもたらす本当の弊害とは

学校の「当たり前」を考える 能力主義と子ども #1能力主義の弊害 (3/3) 1ページ目に戻る

「競争が社会を強くする」時代の終わり

──能力が不確かなものだということはわかりましたが、競争自体はいい面もありますよね。

勅使川原:戦後の復興期や人口も経済も右肩上がりの高度経済成長期には、能力主義が一定の役割を果たした部分もあったでしょう。

ですが、今や少子高齢化が進み、人手不足が深刻化する時代、令和です。能力主義を前提に個人が競争し続けた結果、子どもの自殺は増え続け、不登校も過去最大。大人は大人で、精神や身体に不調をきたす人が続出している現状があります。

能力主義がこうした「生きづらさ」を引き起こす要因を、私は著書の中で「能力主義の3作法」として整理しています。

【能力主義の3作法】

©Mai Teshigawara
すべての画像を見る(全5枚)

勅使川原:①本来、能力は「状態」なのに、スナップショット的に切り取り、断定します。

②切り取ると、他者比較が可能になります。

序列化することで、さらなる競争が起きます。場合によっては「あなたの能力ではここにいる資格はありません」と排除されます。

学校でも職場でも、至るところでエンドレスに競争しているのですから、疲れ切るのも無理はありません。「競争がお互いを高め合った」時代はとっくに過ぎ去ったと私は感じています。

学校でもあいまい化して強まる能力主義

──いわれてみれば、学校での成績評価は、「能力主義の3作法」と同じです。

勅使川原:学校は能力主義を基本に動いていますからね。さらにこの十数年で、能力主義はあいまい化しながら強まっています。

今の学校で求められるのは、学力だけではありません。「生きる力」「主体性」「自己調整力」……どんどん増えています。でも、何ができたらそれらの能力があることになるのか、基準ははっきりしません。

「こうあるべき」という指標が増えた結果、正解とされる範囲がすごく狭まっています。そして、そこからはみ出すと「問題のある子」と認定され、通級(通常学級に在籍しながら、一部の授業を発達の特性に応じた別の「通級指導教室」で受ける制度)や特別支援学級に送りこもうとする力が働きます。

ですが、公立の学校は公共財ですから、「できる子」だけを評価してそれ以外の子が排除される状態でいいはずがありません。条件つきではなくどんな子にも存在を承認し、安心できる居場所になる必要があると思います。

──保護者が能力主義的な競争を、学校に求めている面もありそうです。

勅使川原:そうですね。保護者世代は能力主義を強く内面化していますから、考えを変えることが非常に難しいことは理解できます。何を隠そう、私自身が能力主義を深く内面化していた本人なのですから……。

─・─・─・─・

次回は勅使川原さんご自身のストーリーを中心に、行き過ぎた能力主義から子どもを守る方法などを続けてうかがいます。

取材・文 川崎ちづる

【学校の「当たり前」を考える 能力主義と子ども】の連載は、全4回。
第2回を読む。
第3回を読む。
第4回を読む。

※公開日までリンク無効

【勅使川原 真衣 プロフィール】
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社、2022年)は紀伊國屋じんぶん大賞2024で第8位入賞。続く『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社、2024年)は新書大賞2025にて第5位入賞。その他著書多数。最新刊は『学歴社会は誰のため』(PHP、2025年)。日経ビジネス電子版と論壇誌Voice、読売新聞「本よみうり堂」にて連載中。

なぜ学歴社会はなくならないのか、誰のために存在するのかなど、その核心に迫る。『学歴社会は誰のため』勅使川原 真衣著(PHP新書)

【関連書籍】

この記事の画像をもっと見る(全5枚)

前へ

3/3

次へ

26 件
かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。