【不登校】通信制高校系フリースクールのある1日 傷ついた小中学生に教える高校生のやさしさとは[教育ジャーナリストがルポ]

『フリースクールという選択』ハイライト版2/4〜大手通信制高校系〜 教育ジャーナリストおおたとしまさ 全4回 (3/3) 1ページ目に戻る

教育ジャーナリスト:おおたとしまさ

4コマ目は高校生インターンが考えたゲームの時間です。じゃんけんで勝ってポイントを増やしていく単純なゲームですが、じゃんけんをするには他プレーヤーとの交渉が必要で、そこに相手の裏をかくかけひきの心理戦が発生します。

「これはゲームだから。ゲームのなかではなんでもありだけど、あとから『あいつに騙(だま)された』とか言って喧嘩をするのはなしね(笑)」と、高校生が念を押します。

すると「嘘つきたくないときは?」と中学生がつぶやきます。「……ん。おまえ、やさしいな」。高校生がニコッと笑います。

見ているとわかります。彼らは本当にやさしいんです。中学生だけでなく、高校生インターンにも、担任にも、競うとか、比べるとか、優位に立つとか、そういう意識がほとんどありません。星槎グループの約束がそのまま教室の空気になっていました。

特にインターンの高校生たちの中学生へのかかわり方には感心させられました。下手なフリースクールのスタッフよりもよほど安心して見ていられます。

余計なことは言わないし、大げさにポジティブな声がけをしたりもしません。自分たちも通ってきた道ですから、不登校当事者の気持ちがよくわかるのでしょう。

フリースクールでみんなこんなにやさしくなれるなら、フリースクールで学ぶことを義務教育にすれば、社会はいまよりずっとやさしくなるんじゃないかとすら思えてきます。

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星槎グループの約束「人を認める」「人を排除しない」「仲間を作る」につながるやさしさが校内の随所でみられた。  写真:おおたとしまさ

大活躍だった高校生インターンに聞きました。

「この学校の特徴は?」
「やりたいことが実現できることです。でも、校舎が古い。先生が忙しそう」

たしかに校舎は古いんです。老朽化が進んだ地方の公立高校をそのままずいぶんとコンパクトにしたような佇まいです。見た目におしゃれでキラキラしている昨今流行りの通信制高校の通学コース用の校舎とは印象がまるで違います。でも星槎の校舎には、たくさんの先輩たちが残していった味わいみたいなものがあります。

その校舎が問いかけているように私には思えます。「あなたは見た目でひとを選びますか? キラキラ着飾ったひとが好きですか? そのようなひとになりたいですか? それならば、どうぞそのような学校に行ってください」と。

現在の世の中一般的な価値観では評価のされにくい校舎なのかもしれません。でもだからこそ得られるものがあるように感じます。それこそが、ひとやものを比較し、見下し、排除する世の中への解毒剤になるのではないでしょうか。そういうところにこそフリースクールの存在意義があるのだと私は思います。

昼休み、校舎の前の小さな花壇になにげなく咲いている黄色い花を、写真が趣味という中学生が一眼レフカメラでのぞき込み、シャッターを押していました。

一口に通信制高校系といってもニュアンスはだいぶ違う

拙著『フリースクールという選択』では、星槎フリースクールについてこの約倍の文字数で詳しく実況中継しています。

同書の「第2章 大手通信制高校系の多拠点タイプ」では、星槎フリースクールのほかに、「学研WILL学園初等部・中等部」と「N中等部」についても星槎フリースクールと同様に詳しくルポしています。

「学研WILL学園初等部・中等部」は教育産業大手の学研グループ傘下の株式会社学研エル・スタッフィングが運営するサポート校・学研WILL学園に付設するフリースクールです。付設するといっても、多くの授業で高校生とフリースクール生がいっしょに学んでおり、小中学生も通えるサポート校のような感じです。

「N中等部」は、学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校系列のフリースクールです。角川ドワンゴ学園は出版大手のKADOKAWAとニコニコ動画のドワンゴが共同で立ち上げた学校法人です。つまりもともと教育系ではありません。しかしITを駆使したいままでにない教育というコンセプトが大当たりし、飛ぶ鳥を落とす勢いで通信制高校最大手に成長しました。同じコンセプトで中学生向けにつくられたのがN中等部です。

星槎フリースクールはまさに不登校経験者にとって心地よい学びの場としてつくられていますが、N中等部はいままでにない教育の実現が目的です。目的が違うので、場の雰囲気はかなり違います。

また、サポート校は学校教育法上の学校ではありません。通信制高校そのものでもありません。にもかかわらずメディアでは一括りに“通信制高校”と呼ばれていたりします。そのあたりのしくみもしっかり理解しておきましょう。

なお、星槎フリースクールと学研WILLは一部小学生も受け入れていますが、実際には生徒のほとんどは中学生でした。通いやすさを考えると、小学生までは、近所の小規模なフリースクールをあたるほうが現実的かもしれません。

不登校の増加およびフリースクール等への自治体による助成金制度の拡大を受け、昨今、大手教育産業がサポート校およびフリースクールを開設する動きがますます盛んになっています。

しかしフリースクールの安定した運営には、専門的な知識も経験も必要です。安易に大手の看板に飛びつくのではなく、いつごろフリースクール事業を始めたのか、あまりに営利目的な企業体質でないかなどという点も気にしてみてください。

取材・文/おおたとしまさ

おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。リクルートから独立後、教育に関してさまざまな観点から取材を行い、著書は90冊以上。どこの組織にも属さない在野の視点で現代の教育への考察・提言を続けている。メディアへの出演や講演も多数。

全4回の2回目
1回目〜小規模な個人商店型〜を読む
3回目〜“オンライン”フリースクール〜を読む※2026年5月18日より公開
4回目〜オルタナティブスクール〜を読む※2026年5月19日より公開

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価格:定価:本体1200円(税別)

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おおたとしまさ

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教育ジャーナリスト

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。