絵本デビュー作を描きなおし! 「どうやって描いたっけ?」新人の珍行動
第42回 講談社絵本新人賞受賞・伊佐久美の『タコとだいこん』制作日記第3回
2022.03.28
第3回 描きなおし事件進行中!
1979年に創設され、歴代受賞者には、かがくいひろし氏、シゲタサヤカ氏(佳作)、石川基子氏など、絵本界の綺羅星のような才能を輩出しています。新人賞受賞作品は、単行本として刊行されるため、絵本作家デビューを目指す多くの人が、こぞって応募します(21年度は579作品が集まりました)。
第42回講談社絵本新人賞を受賞した伊佐久美氏。受賞からデビューまでの裏側を、受賞者自身に「制作日記」形式でルポしてもらいました。創作の裏側が覗ける貴重な同時進行ドキュメントをお届けします。
こんにちは。皆さんお元気でお過ごしでしょうか。今月も前回に引き続き、描きなおしのお話です。
なぜそんなに描きなおしを渋っているのか? それには理由がありました。
どうやって描いたのか思い出せないからです!
特に色がわかりません。まったく同じ色でなくても良いのでしょうが、応募した絵とあまりに違ったら、サギみたいですよね。なるべくもとの絵に近づけるよう、手がかりを探してみることにしました。
『タコとだいこん』は、背景はアクリル絵の具、タコや大根はクレヨンで描いています。
まずは、背景の海の色。
どの青を使ったのでしたっけ?
絵の具入れをひっくり返してみると、海に使えそうな青は三色あります。そこで推理してみました。
「どうやら二年前の私は、三色の青を重ね塗りしていたようだ」なんだか探偵みたいでかっこいい!
さらにもとの絵を観察すると、枠からはみ出ている部分に、重なっていない青の断片が見えます。きちんとした人は、マスキングテープで枠外を覆うらしいのですが、私はずぼらで良かった~! 手がかりがたくさん残っています。
ためしに発見した色を重ねて塗ってみたら、ほぼ同じ色になりました。これで青は解決です。
次は大根畑の茶色です。
「たしか赤と青と黄色を混ぜて作ったような?」と思い出しながらお皿に混ぜていきます。
「だいぶ赤っぽくなったから、黄色をいれよう」「今度は黄土色になったから、青をいれよう」
どんどん絵の具を足していったら、お皿にあふれるほど茶色ができてしまいました。「もったいないから、茶色のシーン全部に塗っちゃおう」と塗りはじめて突然思い出しました。
二年前もまったく同じことをしたのでした。
これは推理ではなく実験でしたが、名探偵ホームズみたい~! いい調子です。これで絵の具を使う部分は解決しました。良かった良かった。
次はタコと大根を描くときに使ったクレヨンです。
この謎を解くのは簡単でした。使ったクレヨンには、重ね塗りしたあとが残っているのです。観察すると、いろんな色のクレヨンの先端に、タコに使った赤が付いていました。
でもまだあと一つ謎が残っていました。
それは……ホコリです。
もとの絵をみると、表面にホコリがいっぱい付いているのです。「保護ニスを間違えたせいで、ホコリもくっついてしまったのか?」と推理してみたのですが、いくら部屋がホコリだらけでも多すぎます。
「名探偵なのに行き詰ってしまった……」気落ちしながら下地を塗ったあと、気分転換に踊りはじめてハッと気が付きました。原因はこれでした!
二年前の私も絵の具が乾くのを待つ間、よく踊っていたのです。そりゃホコリがたちますよね~。
とりあえず、これですべての謎は解けました! さすが名探偵。めでたし。めでたし。
それではまた来月お会いしましょう♪
伊佐 久美
1970年生まれ、東京都在住。東京造形大学デザイン学科卒業。製版会社、デザイン事務所勤務を経て、2002年よりぬいぐるみ、雑貨等の制作・販売をするネットショップの運営をしている。2021年、第42回講談社絵本新人賞受賞。
1970年生まれ、東京都在住。東京造形大学デザイン学科卒業。製版会社、デザイン事務所勤務を経て、2002年よりぬいぐるみ、雑貨等の制作・販売をするネットショップの運営をしている。2021年、第42回講談社絵本新人賞受賞。