新人賞受賞作家の「最後の日記」 担当編集者“おだて大王”との365日

第42回 講談社絵本新人賞受賞・伊佐久美の『タコとだいこん』制作日記第8回

第8回 愛しのタコ

新人絵本作家の登竜門として知られる「講談社絵本新人賞」。
1979年に創設され、歴代受賞者には、かがくいひろし氏、シゲタサヤカ氏(佳作)、石川基子氏など、絵本界の綺羅星のような才能を輩出しています。新人賞受賞作品は、単行本として刊行されるため、絵本作家デビューを目指す多くの人が、こぞって応募します(21年度は579作品が集まりました)。

第42回講談社絵本新人賞を受賞した伊佐久美氏。受賞からデビューまでの裏側を、受賞者自身に「制作日記」形式でルポしてもらいました。創作の裏側が覗ける貴重な同時進行ドキュメントをお届けします。
こんにちは。皆さんお元気でお過ごしでしょうか?

私の担当する制作日記もこれで最終回になりました。

最後は私を担当してくださった編集者Nさんのお話です。

選考委員の先生方や編集部の方々にはじめてお会いしたとき、「意外とふつうの人だった!」と驚かれました。ものすごくへんてこりんな人物がやってくるのでは? と心配されていたみたいです。なんでだろう?

ところがNさんはそんな私を担当したいと立候補してくださったそうなのです。それを聞いた瞬間、私はもうNさんを大好きになってしまったのでした。

はじめてお会いしてから、そろそろ一年になります。コロナ対策で、打ち合わせはzoomとメールのみだったので、直接お会いしたのは二回だけですが、なんとなくわかってきました。

どうやらNさんはおっとりした人のようです。

出版社の編集部というところは殺伐としていて、たとえば締切に間に合わないとホテルに軟禁されたり、ちゃんと書けないと罵倒されたりするおそろしいところだと思っていましたが、実際はなんだかぽわーんとしているように感じました。

絵本の発売日を決めるのも「いつにしましょうかね~。伊佐さん、いつ頃がいいですか~? じゃあ八月八日はタコの日みたいなので、タコの日にしましょう~♪」と終始なごやかなのです。それともNさんを通すとすべてがぽわーんとなるのでしょうか?

さらにNさんは、ものすごい『おだて大王』なのでした。

「これは蜘蛛だろうか? 宇宙人だろうか?」と考えてしまうようなタコのラフスケッチをちゃんと解読して、褒めたたえてくれるのです。

毎月の制作日記も、送ってすぐに大絶賛する返信が届くのでした。最後なので、今までにいただいた、おだてメールの一部をご紹介しますね。


「かわいいです~!」

「伊佐さんの作品すべてが素敵なので、編集者ですがファン状態ですね。」

「なんとも言えず最高です……。やはり『タコとだいこん』は名作ですね!」

「さ、さ、最高です!!!!」

「可愛いですー!!!」

「さすが伊佐さん。天才です……。」



すごいでしょう~?
「うわー。またすごいおだてがキター!」と、おののきながらも、やっぱりうれしいので、この際おだてに乗っかることにして、木に登るどころか舞い上がり、近頃は宇宙をピュンピュン飛び回っているような状態でした。楽しかった~。

どうして絵本新人賞を受賞できたのかいまだに謎で、走馬灯疑惑継続中の私が、のんきにタコを描き終えることができたのは、『ぽわーんとしたおだて大王』のNさんのおかげでした。

描き終えたあとも、初校の時だけは私も講談社に行って、一緒に作業しましたが、その後は校正紙をきれいに製本して送ってくださるので、私はそれにメールで注文をつけるだけでした。何もかも(なぜかまた付いていた大量のホコリに赤をつける作業も!)やっていただきました。
初校に赤を入れているNさん
校正といえば、共同印刷さんはやっぱりすごかった~! 

テスト校正の時「海の青はこれが限界!」とおっしゃっていたはずなのに、初校、再校と直していただくうち、青がどんどんきれいになっていくのです。

以前、はたこうしろう先生に「こういう青は印刷で出ないんだよね~」とうかがってから、青に関してはあまり望まないようにしよう。と思っていましたが、こんなに素敵になるなんて!

製本は大村製本さんがしてくださいました。私は製本のアルバイトをしたことがあります。大きな輪転機がいくつもある印刷工場で、丁合という仕事をしました。

『タコとだいこん』には違う機械を使ったのでしょうが、紙の粉が舞う工場が今でも目に浮かびます。ああいう所でタコは本にしてもらったのですね~。

そして、本屋さん。学生の時、本屋さんにアルバイトの面接を受けにいったことがあります。色々忙しくて、週一日しか働けません。と言ったとたん不採用になってしまいましたが……今でも本屋さんで働くのは憧れです。

そのほかにもいろんな仕事のたくさんの方々の手を借りて『タコとだいこん』は出来上がりました。私は超ラッキーな幸せものです。
なんだか落ち着かなくて作っちゃったタコとだいこんのぬいぐるみ
そして、これを読んでくださっている皆さん、八か月間、ほんとうにほんとうにありがとうございました。

最後にもう一つだけNさんの言葉を。

……愛おしいタコが、たくさんの人に届きますように。


それでは皆さん、お元気でお過ごしください~♪
『タコとだいこん』(作・伊佐久美)講談社刊
いさ くみ

伊佐 久美

絵本作家

1970年生まれ、東京都在住。東京造形大学デザイン学科卒業。製版会社、デザイン事務所勤務を経て、2002年よりぬいぐるみ、雑貨等の制作...