100冊の中から選ばれた感動絵本 『さくらの谷』のスゴイ魅力!

2021年度 第52回講談社絵本賞

「講談社絵本賞」歴代の受賞作(一部)、『ねずみくんのチョッキ』(ポプラ社)、『こんとあき』(福音館書店)、『あらしのよるに』(講談社)
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みなさんは、「絵本賞」ときくと、なにが思い浮かびますか? 「日本絵本賞」「MOE絵本屋さん大賞」など、書店や絵本の帯などで見かけたことがあるという方も多いのではないでしょうか。「○○賞受賞」となっていると、絵本でも書籍でも、つい手にとってしまいますよね。

講談社にも、講談社絵本賞という、1970年から52年間も続いている賞があります。

歴代の受賞作には、『ねずみくんのチョッキ』(作・なかえよしお 絵・上野紀子 ポプラ社)、『こんとあき』(作・林明子 福音館書店)、『あらしのよるに』(作・きむらゆういち 絵・あべ弘士 講談社)など、だれもが読んだことのある名作絵本たちがずらりとならんでいます。

このようなロングセラーの名作絵本は、どうやって選ばれているのでしょうか。4冠達成! 2019年を代表する奇跡の絵本『なまえのないねこ』 に続いて、第52回講談社絵本賞の受賞作品をご紹介します。

この感動に、世界も注目!

講談社絵本賞は、1年間に刊行されるたくさんの絵本の中から、4ヵ月もの選考を経て、たった1冊だけが選ばれます。今年度(第52回)の贈呈式は、コロナの影響で延期となっていた昨年度(第51回)分と合わせて、先日リモートにて開催されました。

第52回受賞作は、こちらの絵本!
2021年度 第52回 講談社絵本賞 受賞作
『さくらの谷』(文・富安陽子 絵・松成真理子 偕成社刊)

こちらは、文を担当された富安さんが、お父様を亡くし、葬送した夜にみた「幸せな夢」から生まれた絵本です。

夢と現実の境目のような不思議な世界に、心がすーっと持っていかれる美しい1冊。選考委員の先生方も、選考会にて大絶賛されました。

ミュンヘン国際児童図書館が、世界の優れた児童書を多くの国の子どもに読んでもらうことを目的として、選定し掲載する国際推薦児童図書目録『ホワイト・レイブンズ』(2020)にも選ばれた、世界も注目する絵本です。
文を担当された富安陽子さんは、これまでに児童文学界の賞という賞を総なめ(記事略歴参照)にした素晴らしい児童文学作家。

贈呈式では、絵本づくりについて、そして松成さんへの感謝の気持ちをお話してくださいました。
「絵本というのは不思議なもので、私が書いた言葉で、絵を描く人の心の中になにかを引き起こせたときには、1足す1が2ではなくて、10にも、100にも、1000にもなるような、不思議な化学反応を起こすような気がいたします。まさに『さくらの谷』は松成さんのおかげで幸福な化学反応が起こった、かけがえのない1冊だと思います」
(富安陽子氏)

絵を担当された松成真理子さんは、これまでに『にちようびのばら』(白泉社)、『ぼくのくつ』(ひさかたチャイルド)、『きんぎょすくいめいじん』(講談社)などを出されている、素晴らしい絵本作家。

贈呈式では、ずっとこういう絵本が描きたかった! と長年の想いをお話してくださいました。
「桜と鬼がでてくるお話を、私に描かせてもらえることが嬉しかったです。ずっとこういうのが描きたかったと思っていました。大きな賞をいただいて、これからも、ここ(絵本の世界)で遊んでいいのだと思うことができて、喜んでいます」
(松成真理子氏)
都内のホテルで、初のリモートで開催された贈呈式。
受賞者と選考委員の先生方は、ご自宅などからのご参加でした。
受賞の言葉をお話する富安陽子氏。
お二人とも、ベテランと呼ばれることに戸惑いながらコメントされていて、謙虚な姿が印象的な受賞の言葉でした。

『さくらの谷』の素晴らしさ

受賞作は、数ある候補作の中から、選考委員の先生方が最終選考会にて協議をして、1冊に絞られます。

選考委員の先生方は、1ヵ月以上かけて、たくさんの候補作を真剣に何度も読みこみ、最終選考会を迎えます。読み返すうちに、感想が変わっていったりしたようすを伺うと、絵本の奥の深さを感じました。

2021年度の最終選考会は、2020年度に続いてリモートでの開催。リモート開催は2年目なので、選考委員の先生方も慣れた様子で話し合いが進みました。

最後に、満場一致で選ばれたのが『さくらの谷』でした。

贈呈式では、選考委員の先生方より、夢でもない、現実でもない不思議な世界を、美しく表現されたお二人への賞賛のコメントが寄せられました。
「富安さんと松成さんというベテラン同士の組み合わせ、文章と絵がお互い過不足なく存在しているというのは、あるようで、なかなか難しいことです。そのことが選考会で大絶賛されました。
あたたかくて、生きるエネルギーを感じさせてくれる作品。誰かを見送るという経験のない子どもでも、不思議な民話として心に残るお話だと思いました」
(もとしたいづみ氏)

「夢でもない、現実でもない不思議さが最初から最後までずーっと続いている。大事件などが起こるわけでもなく、優しくもあり、なんともいえない心地よさが、絵本から感じられます」
(高畠純氏)

「夢の世界と、現実の世界が混ざったものを描き切るということが、素晴らしいです。あんなもの絶対に描けへん」
(長谷川義史氏)
選考委員の武田美穂先生は、すでに言いたいことは他の方が言ってくれたので、と戸惑いながらも
「最終選考会まで残る絵本は、どれも良いので毎回非常に悩むところなんですけれど、その中でもこの第51回と第52回の2冊は、特に心打たれる素晴らしい作品でした。どちらも、文と絵のマリアージュのすばらしさを感じました」
と、2年分まとめてのコメントを寄せてくれました。

 
読み手によっては思わず涙が出てしまうような絵本ですが、そっと絵本を閉じたときに残る気持ちはさわやかで、心にすっと残る素晴らしさの秘密が、先生方の選評で分かった気がしました。
新型ウイルス感染防止のため、リモートでの開催となった、第51回・第52回講談社絵本賞贈呈式ですが、画面越しに受賞されたみなさん、選考委員の先生方の笑顔が終始絶えない、あたたかい式となりました。

文と絵が、奇跡の化学反応を起こして生まれた冊。これから先、ずっと読み継がれる名作絵本のひとつになっていくのかもしれません。

52年続く講談社絵本賞。来年は、どんな絵本が受賞するのでしょうか。これからも楽しみです。
贈呈式当日、会場に飾られた第51回 講談社絵本賞受賞作『なまえのないねこ』(小峰書店刊)と第52回 講談社絵本賞受賞作『さくらの谷』(偕成社刊)
取材・文 西垣玲
富安陽子(とみやすようこ)
1959年、東京都生まれ。和光大学人文学部卒業。
1991年『クヌギ林のザワザワ荘』(あかね書房)で第24回日本児童文学者協会賞新人賞、第40回小学館文学賞を受賞、1997年「小さなスズナ姫」シリーズ(偕成社)で第15回新美南吉児童文学賞を受賞、2001年『空へつづく神話』(偕成社)で第48回産経児童出版文化賞を受賞、『盆まねき』(偕成社)により2011年第49回野間児童文芸賞、2012年第59回産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。
絵本に『まゆとおに』(絵・降矢なな 福音館書店)、『もとこども』(絵・いとうひろし ポプラ社)などがある。そのほかに「妖怪一家九十九さん」シリーズ(理論社)、『絵物語 古事記』(監修・三浦佑之 絵・山村浩二 偕成社)などの作品がある。


松成真理子(まつなりまりこ)
1959年、大分県生まれ。京都芸術短期大学(現・京都芸術大学)卒業。イラストレーター、絵本作家。
2003年『まいごのどんぐり』(童心社)で第32回児童文芸新人賞を受賞、2004年紙芝居『うぐいすのホー』(脚本・杉浦宏 童心社)で第43回五山賞奨励賞(絵画賞)を受賞。
自作の絵本に『にちようびのばら』『じいじのさくら山』『ふでばこのなかのキルル』(白泉社)、『ぼくのくつ』『せいちゃん』(ひさかたチャイルド)、『たなばたまつり』『きんぎょすくいめいじん』(講談社)、絵を担当した作品に『みずたまり』(作・森山京 偕成社)、『手ぶくろを買いに』(作・新美南吉 岩崎書店)、『山のトントン』(作・やえがしなおこ 講談社)、『蛙のゴム靴』(作・宮沢賢治 三起商行)などがある。紙芝居や童話の挿絵も多数手がけている。

講談社絵本賞

絵本において新分野を開拓し、質的向上に寄与した優秀な作品に対して贈呈される賞。第50回を機に、講談社出版文化賞絵本賞から名前が変わりました。

選考委員 
・きたやまようこ
・高畠純
・武田美穂
・長谷川義史
・もとしたいづみ 
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