金色に輝く月と、雪のような水玉模様が美しい、24ページの小さな絵本『キーウの月』(講談社)。
この絵本は、国際アンデルセン賞作家のジャンニ・ロダーリ(1920-1980)が1960年に発表した詩集に収められた一篇の作品から生まれました。
キーウの月とローマの月
ゾウや、フクロウが羽根を休める木や、川へ。そして世界各地に分け隔てなく月は光をそそぎ……、最後はさまざまな髪や肌の色の子どもたちが、お月さまにつかまってブランコ遊びを楽しむ様子が描かれます。
翻訳を手がけたのはイタリア在住のジャーナリスト、内田洋子さん。2011年『ジーノの家 イタリア10景』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を受賞し、『皿の中に、イタリア』(講談社)や『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社・文春文庫)など数々の著作で知られます。
世界が賛同するウクライナ支援絵本プロジェクト
世界へも寄付をともなう翻訳出版の呼びかけがあり、ルーマニア、ギリシャ、スペイン、イギリスなどの各国出版社が手を挙げます。内田さんも日本の出版関係者に働きかけ、講談社の参加が実現しました。
「今回、『キーウの月』のプロジェクトに参加する各国の出版社は、売り上げのすべてをウクライナのために寄付をします。日本でも、売り上げによる利益、私の翻訳料、中嶋香織さんのデザイン料はすべて、イタリア赤十字社およびセーブ・ザ・チルドレンに寄付されることになっています」
「違いこそ、大切なこと」というロダーリの思い
小学校の国語の先生をしていたときは、その遊び心のある授業で子どもたちに大人気だったというロダーリ。第二次世界大戦をきっかけに文章を書き始めたこと、対ナチスのレジスタンスに参加していたことも知られます。戦後はジャーナリストとしてたびたび旧ソ連も訪れていたようです。
以前、彼の代表的掌編小説の一つ『パパの電話を待ちながら』(講談社)の翻訳も手がけた内田さんは、ロダーリ作品の魅力をこう語ります。
「ロダーリの書いたものを読むと、『異なること』や『間違い』から興味深いことも生まれる、ということを積極的に受け入れ大切にしていることがわかります。“人はみんな違っていいんだ”というメッセージが伝わってくるのが、私も大好きなところです」
闇を照らすのは、同じ月
何より大切なのは子どもの未来だと内田さんは言います。
「ぜひ『キーウの月』をぜひ手にとって、日本のみなさんの元にこの絵本が届く意味を、どうか想像していただけたらと思います。普通の毎日を送れることがどれほど大切なことでしょう……」
続くコロナ禍と、戦争。この先が見えないトンネルのような中で傷ついている人たちへ、内田さんは呼びかけます。
「月の光はすべての境を軽々と飛び越えます。国家も人種も関係なくすべてを優しく包みます。
世界のどの場所でも、闇を照らすのは、同じ月……。さみしいとき、孤独を感じたとき、どうぞこの絵本を開いてください。お月さまは必ずそこにいます」
内田 洋子
1959年、兵庫県神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。通信社ウーノアソシエイツ代表。ジャーナリスト。 2011年、『ジーノの家 イタリア10景』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞・講談社エッセイ賞を同時受賞。2019年にウンベルト・アニェッリ記念 ジャーナリスト賞、2020年に金の籠賞受賞。著書に、『皿の中に、イタリア』(講談社文庫)『十二章のイタリア』(創元ライブラリ)『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(文春文庫)『デカメロン2020』(方丈社)などがある。また、ロダーリ作品『パパの電話を待ちながら』『緑の髪のパオリーノ』『クジオのさかな会計士』(すべて講談社)の翻訳を手がけている。
1959年、兵庫県神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。通信社ウーノアソシエイツ代表。ジャーナリスト。 2011年、『ジーノの家 イタリア10景』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞・講談社エッセイ賞を同時受賞。2019年にウンベルト・アニェッリ記念 ジャーナリスト賞、2020年に金の籠賞受賞。著書に、『皿の中に、イタリア』(講談社文庫)『十二章のイタリア』(創元ライブラリ)『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(文春文庫)『デカメロン2020』(方丈社)などがある。また、ロダーリ作品『パパの電話を待ちながら』『緑の髪のパオリーノ』『クジオのさかな会計士』(すべて講談社)の翻訳を手がけている。
大和田 佳世
絵本・児童書のライター。出版社勤務を経て、2009年よりフリーランスに。雑誌や、絵本・児童書情報サイトなどで執筆。作家、翻訳家へのインタビュー多数。
絵本・児童書のライター。出版社勤務を経て、2009年よりフリーランスに。雑誌や、絵本・児童書情報サイトなどで執筆。作家、翻訳家へのインタビュー多数。