2022.02.03

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鎌倉殿との悲しき因縁…仇討ちのために生きた兄弟「曽我物語」

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の展開に注目!

作家:時海 結以

イラスト『きずなの兄弟と鎌倉殿 曽我物語』(文:時海結以 絵:久織ちまき 講談社青い鳥文庫)より

きっかけは親戚同士の土地を巡る争い

2022年1月から始まったNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。その第一回で、汚れてみすぼらしい姿の男が登場しました。彼の名は工藤祐経、演じているのは坪倉由幸さんです。

なぜあれほどまでにみすぼらしい姿なのか気になったかたもおいでかもしれません。

工藤祐経は小栗旬さん演じる主人公北条義時の、母方の祖父である伊東祐親(演じるのは浅野和之さん)に恨みを持つ者です。

二人は親戚同士です。伊東は、子どものころに父親を亡くした工藤の面倒を見て元服後は娘の婿にしていました。そして伊東は彼を京の都に連れてゆき、平清盛(演じるのは松平健さん)の息子平重盛あるいは藤原多子(近衛・二条両天皇の后となった女性)の屋敷に仕えさせる(諸説あります)と、そのまま置いて伊豆へ帰ってしまったのです。

工藤がいないすきに伊東は伊豆で、工藤が亡き父から受けつぐはずの土地を奪って占領しました。

二十歳を過ぎて大人になった工藤は自分がだまされたことに気づき、土地を取り返すために都で訴えをおこします。ですが、伊東が賄賂を送ったりといろいろ裏工作をしたため「半分に分けるように」と言われただけでした。

本当なら、父の持っていた土地は全部自分が受け継ぐはずと工藤は伊東を恨みました。しかも伊東は工藤の妻も無理矢理離縁させて他の男へ嫁がせてしまいました。

工藤はがまんならなくなり、ひそかに都をぬけだして伊豆へもどってきたというわけです。

大河ドラマ前半につながりのある「曽我物語」

こういった事情が書かれている物語があります。「曽我物語」です。

「鎌倉殿の13人」第一回の展開は多くを「曽我物語」に拠っていました。

たとえば大泉洋さん演じる源頼朝(やがて鎌倉殿と呼ばれる)と新垣結衣さん演じる伊東の娘八重との間に生まれた男の子千鶴丸が、川で殺されてしまったかのようなシーンがありました。伊東は頼朝と八重の仲も引き裂きます。

この事情も「曽我物語」に記されています。

さて「曽我物語」の主人公は「曽我」という苗字の兄弟です。「曽我兄弟の復讐の物語」なのです。
いったいなぜ、誰に復讐するのか……。

この先は、今後大河ドラマで描かれる可能性があると予想できる展開のため、ネタバレとなってしまいますのでご注意ください。

平氏から源氏の世へ。伊東と工藤の形勢が逆転

工藤が伊東を暗殺しようとしたとき、一緒にいた息子の河津祐泰(通称・河津三郎/演じるのは山口祥行さん)が巻きこまれて亡くなります(注:ただし、大河ドラマ第四回まででは、亡くなったシーンは登場していない)。

河津には幼い息子が二人いて、夫を失った妻は、息子たちを連れて曽我祐信(通称・曽我太郎)という武士と再婚します。なので「曽我兄弟」というわけです。

曽我兄弟は父を殺した工藤を憎み、大人になったら仇討ちをすると誓います。

源頼朝と曽我兄弟には深い因縁があった。『きずなの兄弟と鎌倉殿 曽我物語』(講談社青い鳥文庫)より。イラスト/久織ちまき デザイン/ジュン・キドコロ・デザイン

ちょうどそのころ、世の権力は、平氏から源氏にうつりました。

都で学び、鼓の演奏が得意な工藤は、頼朝のお気に入りの家臣となり、土地を取り返した上に、伊東が支配していた分の土地まで手に入れました。

仇討ちのために生きた悲劇の兄弟

この時代、まだ司法制度は確立していません。不満不平は支配者に訴えるしかなく、しかもその支配者の考えに裁定が左右されるのです。

そのことに納得できなければ、自力で「やられたらやり返す」他ない、自分自身で武力をふるい、相手を倒すしかないのです。

工藤が伊東にそうしたように、孫の曽我兄弟もまた、そうするしかない時代でした。

頼朝のお気に入りの工藤を、頼朝が憎む伊東の孫である兄弟が殺せば、当然兄弟は頼朝の命令で処刑されるでしょう。

愛する母や恋人がいても、処刑は免れないとわかっていても、孫の曽我兄弟は復讐以外に生きる道を見失ってゆく……「死ぬために大人になってゆく」曽我兄弟の悲劇は、当時の多くの人の心を動かし、語り伝えられ、物語としてまとめられて、後の世に能や歌舞伎等の芸能の題材となったのです。

なお、「鎌倉殿の13人」では源頼朝が工藤に、伊東の暗殺を命じるシーンがありました。となれば、曽我兄弟にとって頼朝も仇ということに……⁉

もし「鎌倉殿の13人」に今後曽我兄弟が登場するなら、仇討ちがどう描かれるのか、楽しみに待ちたいところです。

兄弟の強いきずなと、純粋で一途な意思を描く「曽我物語」。

興味を持たれました方は、拙著『きずなの兄弟と鎌倉殿 曽我物語』(小説)で、彼らの悲劇の結末をごらんいただけたらと思います。

きずなの兄弟と鎌倉殿 曽我物語
文:時海結以 絵:久織ちまき

強いきずなで結ばれた兄弟の生きざまを描く「曽我物語」
二人と鎌倉殿(源頼朝)の間には、深い因縁があった――

父親・河津三郎を殺された幼い兄弟は、母と義父の曽我太郎のもとで、将来のかたき討ちを誓って成長する。
しかし、世の中は平家から源氏の世へと変わり、かたきの工藤祐経は、鎌倉殿(源頼朝)の御家人となって取り立てられていた。先のない人生とわかっていながら、舞姫の虎と恋に落ちる兄・曽我十郎。すべての楽しみを断って、まっすぐに目的を果たそうとする弟・曽我五郎。正反対の二人は、互いを信じ、励まし合いながら、かたき討ちの機会をねらっていた。そして、建久4年(1193年)。兄弟は、頼朝が富士で行った巻狩りにまぎれこむ。
<小学校上級から大人まで・すべての漢字にふりがなつき>

ときうみ ゆい

時海 結以

Yui Tokiumi
作家

長野県生まれ。歴史博物館にて、遺跡の発掘や歴史・民俗資料の調査研究にたずさわったのち、作家デビュー。著書に『平家物語 夢を追う者』『竹...