祝まもなく30年!ジンベエザメの世界最長飼育記録更新中の「沖縄美ら海水族館」バックヤードに潜入!
MOVEラボの高校生研究員がジンベエザメの飼育を担当する松本先生にインタビュー
2024.04.30
今回は沖縄美ら海水族館でジンベエザメの移動や繁殖を担当されている松本瑠偉先生にMOVEラボ研究員のひであきがお話を伺ってきました。
〈MOVEラボ研究員とは?〉
MOVEラボ研究員は、厳正な選考によって選ばれた、生きものや自然科学に興味のあるMOVE読者の代表です。研究員は、MOVEラボの活動に参加し、フィールドや博物館、動物園などをリアルに楽しみます。また、ラボの研究員は、自分たちの研究レポートをMOVEラボのサイト上で発表します。
メンバーは現在24名! 中学生以上は「助手」として活動しているよ!
https://lab.zukan-move.kodansha.co.jp/
「沖縄美ら海水族館」の飼育の裏側を聞いてみました!
美ら水では、展示用だけで約一万匹、バックヤードにも展示水槽と同じくらい多様な海洋生物がいるそうで、彼らのエサや使用する水にも気を使っているそう。エサは生物の種類によって違いますが、一番多いのはジンベエザメやマンタなどが食べるオキアミで、冷凍されて入荷しているエサの品質を毎年調べているそうです。
【沖縄美ら海水族館ジンベエザメ】豪快にオキアミを食べる
なぜかというと、海水中でそのまま解凍するとビタミンが抜けてしまい、栄養が足りなくなってしまうこともあるからだそう。さらに、加工するときに出た生ごみは、食用昆虫のエサや肥料などに再生する取り組みに参加しており、環境のこともすごく考えていると感じました。
また、水族館で飼育しているエサ用のプランクトンのエサまで作っているそうで、とことん体調管理をしている美ら水のこだわりに感動しました。
使用する海水は、約1万トンのうち、毎時2000トン以上を沖合いから取ってくるそうです。もちろん寄生虫などの心配もありますが、生物たちが四季の水質や温度の変化を感じられるため、季節ごとの行動や成長速度の変化も観察することができます。
また、美ら水では寄生虫がついた生物を、身体への負担を考え、クリーニングフィッシュで治療するそうです。マンタの成体1頭に対して体長10cm程度のクリーニングフィッシュ3〜4匹で、2~3週間もあれば取り除かれるそう。そのため、あまり害はないようです。
【 #沖縄美ら海水族館 バックヤード】#寄生虫 がついた魚をつつく #クリーニングフィッシュ
世界初の偉業を成し遂げたイソギンチャク繁殖の様子も!
ここで少し、展示水槽についての豆知識!
入口を入ってすぐに『サンゴの海』水槽があります。実は屋根がなく、サンゴと共生している藻が光合成をできるように、太陽光を直接取り込めるようになっています。しかしサンゴは成長して伸びすぎると根本に光が届かず藻が光合成を出来なくなり、栄養不足で死んでしまいます。自然界では台風などで荒波が起こることで伸びすぎた枝が折れるのですが、水族館で荒波はもちろん起きません。放っておくとサンゴは死んでしまいます。なので美ら水ではいわゆる「剪定」をして、サンゴを育てているのです。
一見、ただ展示してあるだけのように見えますが、飼育員の方が水流の位置や向きを工夫して群れの位置を水槽の中心近くになるよう調整しているのです。さらに、この水槽に展示されているブダイのオスは繁殖期になると水槽のガラスを攻撃し始めます。
これは、ガラスに反射した自分を別のオスだと思いケンカをしているのだそうです。おかげで、繁殖期が終わるころにはガラスがボロボロになってしまい、ガラス磨きが大変なのだとか!
まず、タツノオトシゴの小さめの水槽を見せてもらいました。そこには3本の棒が手すりのように張られていました。なぜ展示用でもない水槽にそんな棒があるのでしょうか。それは、タツノオトシゴの生態と関係していて、実は彼らは尻尾で捕まるものが何もないと、うまく飼育することができないそうです。
次は、トレーのような水槽にたくさん入っていたイソギンチャクです。そこには生後1〜2年のイソギンチャクたちがいました。時間とともに成長速度も速くなるそうで、1年目のイソギンチャクは3〜5cmほどだったのに対し、3年目のものは20cmほどもあり、驚きました。なぜ年齢が分かるかというと、実は彼らは全員美ら海水族館で産まれたからです。イソギンチャクの繁殖はとても難しく、美ら水が初めて成功したそうです。
【世界初!】「ハタゴイソギンチャク」の繁殖に成功!
今回、幸運なことにそのチームが生殖細胞を採取するところを見せていただけました。
水槽の目玉! ジンベエザメとエイについても解説していただきました
ジンベエザメの妊娠個体は過去に台湾に打ち上げられた1例しかなく確かなことはいえないですが、その例では子宮内には体長60cmほどの赤ちゃんが、約300匹もいたそうです。
現在、松本先生は水中エコーを使って、ガラパゴス諸島に集まる野生のジンベエザメ(メス)の妊娠について調査しているそうです。これまでの成果として、腹部がふくれて妊娠ではないかと思われていた個体は、皮膚が厚くなっているだけで、妊娠は確認できなかったそうです。
松本先生は、この腹部がふくれる原因は、妊娠のためのエネルギーをためているからと考えているそうです。また、2024年の夏にガラパゴス諸島に調査に行くそうで、今からその成果が楽しみです。
【美ら海水族館バックヤードからの】大水槽の #ジンベエザメ「 #ジンタ 」
展示の最後は、沖縄の環境問題についてです。最近の論文でもよく出てくるようになったという、『ex situ』という言葉を紹介してもらいました。これは「生息域外保全」と訳され、外来種や環境破壊などのせいで、野生で棲んでいる地域で生きることが難しくなった種を、動物園や植物園などで人間の手で養ったり、殖やしたりして、絶滅させないようにすることを意味します。
沖縄の生きものは島ごとに遺伝子が違う固有種も多く、他の島の個体を持ち込んでしまうと雑種ができてしまい、島ごとの特色がなくなってしまいます。このため、どの島から持ち出されたか分からないと野生に返せず、今も保護したまま野生に返せない生きものがたくさんいるそうです。
取材した内容はこれで終わりです。とても楽しかったのでつい長くなってしまいました。対応してくださった松本先生や美ら水の方々には本当に感謝しています。ありがとうございました。このような裏話を知っていると展示をより一層楽しめると思います。みなさんも是非、機会を作って沖縄美ら海水族館に行ってみてください!