「プリキュアは20年前からジェンダーを意識していた」生みの親・鷲尾天が男女問わず伝えたいこと
2023年7月29日丸善ジュンク堂書店池袋本店オンラインイベントレポート3
2023.09.09
ライター:萩谷 美可
プリキュアファンの質問に鷲尾さんが答える! プリキュアQ&A ~鷲尾天さんトークイベント~
本イベントは「プリキュア20周年記念 プリキュアオールスターズ ポストカードブック1」購入者による抽選イベントで、来場者およびオンラインで多数の参加者が視聴。
「ふたりはプリキュア」プロデューサーで、「プリキュアシリーズ」の生みの親・鷲尾天さんに、いかにして「プリキュア」が誕生したのか、その製作の経緯や思い出を語っていただきました。
「いま大人になった初期のプリキュアファンへのメッセージ」「初代放送当時といまの視聴者の価値観について、プリキュアを通して伝えたかったこと」など、プリキュアへの想いがぎゅっと詰まった鷲尾さんからの熱いお言葉をご紹介いたします。貴重すぎるそのトーク内容は、プリキュアファン必見です。
鷲尾 天(わしお たかし)
1998年に東映アニメーションに入社。2002年「キン肉マンⅡ世」でプロデューサーとして独り立ちし、2004年「ふたりはプリキュア」から「Yes!プリキュア5 GoGo!」までプロデューサー、「Go!プリンセスプリキュア」からは企画としてシリーズに携わっている。
『プリキュアの生みの親』『プリキュアの父』と言われる存在。他に「トリコ」「怪談レストラン」「おしりたんてい」など。
現在、東映アニメーション執行役員、営業企画本部企画部エグゼクティブプロデューサー、制作本部制作部スーパーバイザー。
私たちの心の中は自由 プリキュアが教えてくれること
鷲尾さん:おかげさまで、小さいころに観ていましたとよく言っていただけます。とてもありがたいことです。我々は大人になってからも生きてくるかもしれない言葉をセリフに込めました。そういう言葉を一生懸命伝えていこうとしていました。
「ふたりはプリキュア Max Heart」の最終回で、世界中は滅びていて、絶体絶命になって、あのふたりしか残っていないだろうという状況の中で、ふたりが会話します。
あ~宿題やってなかった、どうしようとかいうわけです。メップルがそんなこと言ってる場合じゃない! とつっこむんです。そこでブラックが、いいでしょ、何考えたって自由じゃん、というんです。
そこでホワイトが気づくんです。私たちの心の中は自由だ、心の中は誰にも触れられない、心に自由があれば私たちは立ち上がれるんだと。
皆さん大人になって、なんとなく思い当たることはありませんか。会社も辛い、仕事も辛い、毎日大変じゃないですか。そんなときに思い出してほしい。ちょっとだけ何かできるかもしれない、と思えるようなセリフが各シリーズにちゃんと込められているんです。
そういうセリフ・場面を思い出してもらえたら、皆さんへのメッセージになるんじゃないかなと思ってます。
鷲尾さん:かなり変わったんじゃないでしょうか。現在は「ジェンダー」という単語をよく耳にしますよね。
20年前にこの単語を使っていたのは、スタッフの中で西尾さんだけでした。私は知らなかった。どういう意味か、西尾さんから説明を聞いてはじめてわかりました。そういう雰囲気とか考え方とか状況は、ずいぶん変わっているはずなんです。それがどのように作品に影響されるかというと、モチーフとかはどんどん変わっていってる。時代を取り入れている。
でも、一番大もとのところで何を伝えるかは、変わってないんです。これは男女問わず、「自分の足で凜々しく立つこと」。作品を作りながら監督と話していくうちに、監督の意図しているところ、伝えたいことはこれかもしれないと思いました。
これが作品の中で生きているのであれば、男の子であろうと女の子であろうと、宇宙人でも人魚でもかまわない。意志を持って立ち向かおうとする、何かに向き合おうという意志を持つこと、それが大事だと。それがあればプリキュアシリーズとして生きていけるんだと思っています。
鷲尾さん:ストーリーとタイトルは並行して動きながらみんなで考えているんです。作品の中で何かに取り憑いたモンスターのザケンナーが出てくるんです。戦いの最後に分離するんです。小さくなって「ゴメンナー、ゴメンナー」って謝って逃げていくんです。
あれをみんなでみたとき、これだ! 「癒やす」だ! 「プリティ」と「キュア」で「プリキュア」だと。ふたりのストーリーだから絶対「ふたり」を入れたい。そして「ふたりはプリキュア」というタイトルになりました。
なにしろ造語だから、ちゃんと覚えてもらえないんですよ。「プリキュラ」ってよく言われて、「アだっつーの!」とつっこんでいて、すかさず監督はその会話をセリフに入れて作品のなかに生かしてました。
「Yes!プリキュア5」うららのマネージャー・鷲雄浩太はいつのまにかできていた!?
鷲尾さん:うららにはマネージャーがいて芸能活動をしている、だけど弱小プロダクションでなかなか芽が出ないという設定なんです。お母さんかお祖父ちゃんがマネージャーになるより、専門でいたほうがいいと。
私は、名前が出るのは嫌だよ、ギリギリ漢字を変えてくれれば、という話をしました。普通はキャラクターデザインのラフが上がってきてチェックするんですが、マネージャーだけなかった。ある日の編集のとき、いきなりマネージャーの絵が上がっていたんです。
あれ、これは僕見ていない、いつの間に? と言うと、みんな下を向いてるんです。クスクス笑いながら。それでも唯一私が言えたのは、ちゃんとうららを心配している大人にしてくれと。そういうキャラクターにしてくれました。
今回のプリキュアでも、鳥のなかに1羽いるんです。シャララ隊長が乗っている鳥、ワシオーンっていうんです。最近は現場に任せていて知らなかった。たまたまその鳥が喋っている場面のアフレコで顔をだしたら、みんな気まずそうな顔をしている。
シャララ隊長が「ワシオーン、頼む」って言ったんです。えっ、名前呼ばれた? とアタフタしたら、やはりみんなは下向いてクスクス笑っているんですよ。
鷲尾さんからのメッセージ
鷲尾さん:カケラも思っていなかった。当初は、1年で好きなことをやろうよってスタートして、1年やるためには、まずは勢いが大事だから半年でプリズムストーンを7つ集めちゃえと、残り半年はどうします? そのとき考えればいいじゃない、と監督が言ったんです。
そのくらい1年の仕事しか考えてなかったんです。まさかそれが、20年も続くなんて。ご声援いただいた皆さん、作品を盛り上げてくださった皆さんのおかげです。ありがとうございます。
鷲尾さん:先ほどもお話ししましたが、プリキュアのなかで皆さんに覚えていただきたい、意図として感じていただきたいことは、「自分の足で凜々しく立つ」ということ。
そしてもう1つが、このシリーズのなかで私が一番好きな言葉、最初のプリキュアの42話だったと思いますが、ラストシーンの「なるべくがんばる」というセリフです。
いろんなシチュエーションのときに西尾監督に、「話していることが通じない」「はっきり間違いを正すべきか」などという話をしていました。そのとき西尾監督は、全部言わなくてもいい、もし言ったことが通じなかったときは気持ちが折れるからと。
だけど、考えることはやめちゃいけない、自分のなかで意識して考え続ける。必要なことだと思ったら言ってもいいけど、これはダメだと思ったら言わなくていい。でも自分はこう思っているということだけは考え続けると。
あっ! と思いました。これだけ自分の意志を出して、自分の考えていることを一生懸命作品に込めている人が、全部言わなくてもいいと言うからこそ、響くわけです。そんな会話の後、しばらくして、「なるべくがんばる」と主人公が言いました。いろんな気持ちの中で届くわけです。
そういうことか、全部がんばると気持ちが折れるから、自分のなかでがんばることとそうじゃなかったことを全部許容していいじゃないか、ということが作品の中に込められているんです。
この2つの言葉を、ぜひ皆さんにも覚えていていただけたらいいなと思います。
サイン会を終え、参加者は、サインが加わった本と、鷲尾氏から受け取った“メッセージ”を胸に、軽やかな足取りで帰路に着く様子、大人たちのトークイベントは、熱気あふれる濃い一夜になりました。
「プリキュアオールスターズ ポストカードブック2」では「GO!プリンセスプリキュア」から「ひろがるスカイ!プリキュア」までのプリキュアを収録。どうぞお楽しみに!
萩谷 美可
講談社の幼児雑誌「おともだち」や「たのしい幼稚園」などから出版される雑誌や絵本などの構成を担当。
講談社の幼児雑誌「おともだち」や「たのしい幼稚園」などから出版される雑誌や絵本などの構成を担当。