プリキュアと学ぼう! アニメとのコラボから気づく 楽しみながら学ぶヒントとは?

トロピカル〜ジュ!プリキュア&プリキュアオールスターズ ひらめきゲームドリル 刊行記念企画

『トロピカル〜ジュ!プリキュア&プリキュアオールスターズひらめきゲームドリル』刊行を記念して、学びの最前線にいる高濱先生と、“プリキュアの父”と呼ばれる鷲尾プロデューサーに、自身の幼少期のお話や、それぞれが活動されているフィールドへの思いなどを熱く語っていただきました。レジェンドといわれるお二人の幼少期のお話は“ほっこり”するとともに、子育てのヒントが満載です!



「たのしい幼稚園」5月号(2021年4月30日発売)掲載)より


東映アニメーション プロデューサー 鷲尾天さん(左)と、花まる学習会 代表 高濱正伸先生(右)
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「ゲームドリル」は、遊びと勉強 一見相反するジャンルのコラボのようですが……。

高濱 親としてはどうしても「やりなさい」と、子どもに善かれと思うものを“押し付け”がち。
でも「やらされた」ことでは、本当の力はつかないんです。「やりたい」ことに没頭することが重要。だから、大好きなアニメやキャラクターが目に飛び込んできて、子どもに「やりたい」と思わせてくれることはすごくいいことだと思っています。

鷲尾 子どもたちの“学び”に関われることはとてもうれしいです。私がアニメを作るときもそうなんですが、とにかく見てもらわないと始まらないし、意味がないんですよね!

高濱 特に、アニメの世界は子どもにとって「体験」と同じ。キャラクターたちは自分側に存在しているものだから、親近感もあり、「楽しそう」という気持ちが動かされるんです。

鷲尾 そうですね。そこはアニメの作り手としてはうれしいことなのですが、怖いことでもあるんです。
「プリキュア」を始めるときに「子どもは好きなキャラクターがすることは100%正しいことだと思うし、素直に受け入れてしまう。だから、細心の注意を払わないといけない」と話し合っていました。例えば「大人に尊厳を持たせる」「食べ物を粗末にしない」等々。また「ダイエット」描写もNGにしました。子どもに与える影響は、想像以上に大きいと、常に意識していました。

高濱 子どもの「好き」なものへの“執着”や“吸収”はとてつもないものですからね!
小学校の頃は内気だったのですが、担任の先生が「鷲尾くんは、クラスのリーダー的存在になれるお子さんです」と母に言ってくれたと聞き、嬉しかったのを覚えています。(左 鷲尾天さん)
子どもは親以外の人や友だちから「すごい」と言われることに、とてつもないパワーをもらうものですよね。(右 高濱正伸先生)

お二人の幼少期に興味があります!

鷲尾 私には歳上の姉がいたので、いつまでたっても“幼子”扱い。母親は、「元気に生きてくれてさえいればいい」と(笑)。

高濱 あー、わかる! 私にも“できる”姉がいましたから(笑)。

鷲尾 
そのせいか、私が欲しいと言ったものや、やりたがったことはたいていできました。ウルトラマンなどのソフトビニール人形をたくさん買ってもらったのですが、それを動かしながらオリジナルストーリーを作る「ひとり遊び」が好きでした。ブツブツと言いながら何時間も没頭していました。

高濱 
めちゃめちゃ今の仕事に通じていますね! イマジネーションの世界!

鷲尾 そんな、家にこもる一見“ボーッとして見える”子だったのですが、その当時、姉から言われたことなどはふしぎと鮮明に記憶しているんです。それも“シーン”として。

高濱 
あ〜、それは天才の典型! フォトグラフィックメモリーといって、物事を画像として脳に記憶していく能力なんです。

鷲尾 そうなんですか? 早く誰かに指摘してほしかったなあ(笑)。

高濱 
きっと、遊んでいるときもフィギュアの細部まで観察しながら、ものすごく集中していたんでしょう。決してボーッとなんてしていなかったんですよ。あるお母さんが「子どもが幼稚園からの帰り道、縁石に乗り降りしてみたり、壁にタッチしてみたりして倍以上の時間をかけるんです。早く! まっすぐ歩いて! と言っても聞く耳を持たないので困っています。なんだか、こだわりがあるらしく......」とこぼします。でも、この“こだわり”こそが“集中や没頭”につながり、伸びる力をためていくんです。

鷲尾 その子の気持ちがわかります! こだわりや自分で見つけた規則性を楽しんでいるんでしょうね。

高濱 
困っていると言いつつ、そのお母さんは、子どもが“こだわり”を持っていることに気づき、ちゃんと寄り添い、見守っているんですから、すばらしいと思います。

鷲尾 
私の母も“こだわり”や“没頭”をじっと見守ってくれていたんでしょうね。うちには「世界名作全集」など本がたくさんあったのですが、私は見向きもしなかったんです。そこで何を思ったのか、ある日突然、母が本の“音読”を始めたんです。私に「聞いていなさい」とも言わずに。
はじめは「うるさいなあ」と思っていたんですが、いつの間にかそのストーリーに耳を傾けている私がいたんです。そして、ふんふんと聞き始めるようになると、これまた突然、母がパタッと本を閉じて「おやすみ〜」と寝てしまうんです。私としては「えっ? そこでやめちゃう? いいところだったのに」となるじゃないですか、それからです! 続きが知りたくて自ら本を読むようになり、読書のおもしろさに引き込まれていったんです。

高濱 
すごい。スーパー母さんですね! お母さんとしてはなんとか読書のおもしろさに気づいてほしかったんでしょうね。それをあえての“勝手に音読”で引き込むとは! 幼児期は、音声言語の知性が発達する時期なので、“音”情報はどんどん入ってくるんです。だから、子どもへの「読み聞かせ」がすばらしいと言われているんです。「たの幼」世代のお母さんたちにもぜひすすめたい手法です!
トロピカル〜ジュ!プリキュア©ABC-A・東映アニメーション

「プリキュア」と子どもたちに変化は感じますか?

高濱 コロナ禍など、環境の変化はあっても“子ども”の本質は変わっていないので、「学び」の現場を含め、子どもたちへの関わり方は変わっていません。でも、大きく変わったことがひとつ! 昔、小学校の“番長”は6年生の男子と決まっていたのですが、今はほぼ女子なんです。

鷲尾 そうなんですか若干責任を感じますね(笑)。

高濱 
もともと小学生のうちは、体力的にも精神的にも女子が優位で強いもの。それを「強さを出していい」「ありのままでいけ」と世の中の声が後押しをしてくれるようになったわけですから。幼稚な男子が勝てるわけがないんです(笑)。

鷲尾 「プリキュア」はあらゆる“女の子はこうあるべき”のアンチテーゼから始まりました。白馬に乗った王子様を待っているだけでなく、自分の力で凛々しく立つってかっこいい!
“違い”があっていいし、自分の心はいつでも自由で、誰からも侵されることはない......というメッセージが共感を得ていったのだと思います。

高濱 そのメッセージは、作品を一緒に見ているお母さんたちにも響くものだったのではないでしょうか。母とはこうあるべきという呪縛を解き、“ひとりの人間としての自分”が幸せを感じることで、すべてが明るく進んでいくんだと思えるようになると、子育て期がとてもハッピーなものになると思うのです。

鷲尾 そうですね。子育て中のお母さんたちのパワーになってくれるとうれしいです。アニメもそうですが、コンサートやファッションなど、一緒に楽しむ母娘も多くなりました。新作『トロピカル〜ジュ!プリキュア』は、なんでも大事なことを「あとまわし」にして、みんなから“やる気パワー”を奪ってしまう魔女に立ち向かうプリキュアたちのストーリーで、母からもらった“リップ”を大切にしている女の子がいたり、“メイク”が変身のモチーフとなっていたりと、母娘で楽しめる要素がちりばめられています。コスメが「かわいくなりたい」気持ちを満たすものというより「さあ、やってみよう」と、自分を奮い立たせてくれるアイテムとして描かれているところにも注目していただきたいです!

高濱 
「あとまわし」の魔女ですかそれは厄介な敵ですね。「ゲームドリル」は「あとまわし」せずに、プリキュアと一緒に楽しんでもらいたいです(笑)。お母さんも、1ページめからきちんと「やらせ」ようとせずに、「やりたい!」「好き」「楽しそう」と子どもが自ら開いたページから自由に取り組ませてほしいと思います。
『トロピカル〜ジュ!プリキュア&プリキュアオールスターズ
算数脳©︎で戦える子になる!ひらめきゲームドリル』
発行:講談社/定価:900円(税込み)

鷲尾天(わしお たかし)

東映アニメーション プロデューサー
1965年生まれ。秋田県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、商社に入社。その後三省堂で営業職、秋田朝日放送でドキュメンタリー番組の記者を経て1998年に東映アニメーションに入社。
『釣りバカ日誌』『キン肉マン II 世』などの担当を経て、「プリキュア」シリーズを立ち上げた初代プロデューサー。『金田一少年の事件簿スペシャル』『おしりたんてい』など、多くの大人気シリーズ作品の企画に携わる。

高濱正伸(たかはま まさのぶ)
花まる学習会 代表
1959年生まれ。熊本県出身。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。 1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習塾「花まる学習会」を設立。父母向けの講習会は、年間3万人が参加。「情熱大陸」など数々のドキュメンタリー番組でも取り上げられ話題に。『小 3 までに育てたい算数脳』『わが子を「メシが食える大人」に育てる』など著書も多数。
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