“理解できる子・できない子”、“いい子・困った子”
きょうだいを育てていれば、例えば「上の子は理解できるけど、下の子はよくわからない」などと感じることもあるでしょう。また、どちらか一方が「困った子」に思えてしまうことも……。
「親は、自分と似ていたり、自分が望む方向に育っている子は“理解できる子”“いい子”に見えてしまう。逆に、自分とはあまりにもタイプが違ったり、興味の対象が異なっていたりすると、“理解できない困った子”に映りがちなんですね」
「でも“理解できる子・できない子”と“いい子・困った子”は、視点によって簡単に入れ替わるんですよ」
例えば、自分が音楽の教師などで、子どもにピアノをやらせたいと思っている親にとって、ピアノに興味を示さず、外でボールばかり蹴っているような子は「理解できない」「困った子」と思いがち。けれど、自分がサッカー好きで、子どもにもサッカーをやらせたいと願っている親にとっては、「理解できる、いい子」に映るということ。
「わが子であっても別人格。親と興味や関心の対象が違って当然です。そんなふうに考えて、子どもの“好き”を認めてあげれば、きょうだいのどちらか一方だけを“理解できない・困った子”と感じることもなくなるのではないでしょうか」
もし「わが子と気が合わない」と感じてしまったら
さらに、「どちらか一方の子と気が合わない」と感じる瞬間もあるかもしれません。
確かに、人間同士ですから、親子であっても多少の「気が合う、合わない」があるのも事実でしょう。
でも、「気が合わない」=「愛していない」ではないことも忘れずに。
「気が合わないと、“自分はその子を愛せていないダメな親”などと罪悪感を覚える人もいるのですが、その必要はありません」
ただし、ごく少数ですが、「どうしても愛せない」と感じてしまう親がいるのも事実です。
妊娠中に夫の浮気など大きなショックを受けた場合、その痛みや怒りが無意識にその子へ投影されてしまうことがあります。
自分でも「やばい」「どうしても愛せない」と感じるときは、ひとりで抱え込まず、早めにSOSを出して専門家に頼りましょう。自分を守るための相談は、子どもを守ることにもつながります。
ここまでの極端なケースは稀かもしれません。しかし、いずれにしても、親子関係では、“感情が揺れる瞬間があること”自体が普通なのだと、碓井先生は続けます。
「愛と憎しみは表裏一体です。愛しているからこそ、憎たらしくなることもあるでしょうし。ある先生は、他人の子どもだと穏やかな気持ちで教えられるけれど、わが子となると“なんでこんなこともわからないんだ!?”と、思わず怒りが湧いてくると語っていました」
「親は、子どもの前で、教師やカウンセラーのように常に冷静に振る舞えるわけではありません。それができないのが人間だし、“できないこと”は、実は、悪いことでもなんでもないんです」
ときに感情的になって怒り、ときに落ち込み──。そうやって、ドタバタしながら生きて、子育てしていくのが、わたしたち人間なのかもしれません。
「子育ての最大のコツは、幸福感を感じること。罪悪感を抱きすぎたり、できない自分を責めたりすると、幸福感が消えてしまいますよね。それは親にとっても不幸ですが、子どもにとってもつらいことなんです」
「子どもを育てるというのは、理屈ではなく、日々の感情と直感の積み重ね。泣いたり、笑ったり、怒ったり──。そんな“程よい親”の姿こそが、子どもにとっての安心になるのだと思います」
安心を与えられて育った子は、大人になってから、子どものころに感じた“愛情格差”も笑い話として披露できるようになるのです。
【「きょうだいの愛情格差」について社会心理学者・碓井真史さんが解説する連載は前後編。子どもには「平等よりも特別感」が必要な理由をお聞きした前編に続き、今回の後編では「きょうだいの愛情格差」の記憶が心の傷となる理由、健全な「親からの卒業」についてお聞きしました】
取材・文/佐藤美由紀
※2025年11月25日より公開予定

佐藤 美由紀
広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。
広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。





































碓井 真史
1959年東京下町墨田区出身。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は、社会心理学。 新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。 Yahoo!ニュース個人 オーサー 「心理学でお散歩」 http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/ テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。 著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。 監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。
1959年東京下町墨田区出身。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は、社会心理学。 新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。 Yahoo!ニュース個人 オーサー 「心理学でお散歩」 http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/ テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。 著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。 監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。