中学受験は「親子で臨む大冒険」 中受の意味と親の向き合い方 教育ジャーナリストが解説
中学受験をする・しない どちらの場合でも親が心得ておくべきこと #1 中学受験が増えた本当の理由
2023.02.06
教育ジャーナリスト:おおたとしまさ
中学受験はとりわけ首都圏において過熱し、保育園や小学校低学年のころから「中学受験をする」・「しない」を保護者の間で話し合うことも珍しくありません。こうした周りに影響されて、「わが子にも中学受験をさせたほうがよいのか」と不安になる親も多いことでしょう。
塾通いの時間のやりくり、経済的な負担、何より子どもの心身のケアが必要になるなど、中学受験は「ただなんとなくやってみる」で乗り越えられるものではありません。しかし「中学受験をせず、地元の公立中学でいいのか」という不安があるのもまた事実です。
そこで、数々の教育現場を取材してきた教育ジャーナリストのおおたとしまささんに、中学受験とは何か。そして受験をすることの意味とその向き合い方について伺いました。
(全3回の1回目)
おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験も。
中受ブームの背景は格差社会に対する親の不安から
──首都圏模試センターのデータ(2022年度)によると、私立・国立中学の受験者数は、統計を取り出してから史上最高の5万1100名。8年連続で増加となりました。また、近年では中学受験をテーマにした小説や漫画、ドラマが話題になるなどブームの過熱ぶりが窺えますが、おおたさんはこの現状をどう見ていますか。
おおたとしまささん(以下、おおたさん):中学受験の受験者数の増加と、トップ層の競争激化という2つの事象がごちゃ混ぜになって語られているのが現状です。
受験者数の5万1100人ですが、実はこの数、1990年代と実はそう変わりません。この30年間、私立中学校の数は1.5倍に増えているので狭き門になったわけではないし、全体の数として見た場合、中学受験の熱が高まっているわけではないんです。
しかし一方で、過熱化しているのが、難関校を狙うような上位層です。それは『サピックス』、『四谷大塚』、『日能研』など、大手塾のカリキュラムが青天井に難しくなっているから。あの手この手で、子どもに難問をやらせる大食い競争が激化しています。親は追いつかない分を個別指導にまかせたり、10~12歳の子どもができることの限界を超えた勉強量をやらせようとする。これに対してはちょっと異常だなと思っています。
──難関校の椅子取りゲームはもちろんですが、中学受験自体がこれほど注目されている理由はなんでしょうか。
おおたさん:非正規雇用という労働条件が当たり前となった現代、格差が強調される働き方を見て、「わが子には安定した仕事と収入を」という親の不安の表れでしょう。親自身、常に競争にさらされ、自分もいつリストラされるかわからないなど日本経済が長く停滞していることからくる閉塞感や、未来への不安。これらを子どもに投影し、貧困層に転落させないように、少しでも強い武器を持たせて社会に出さなければならないというネガティブな動機が、中学受験に向かわせているように思いますね。