
子どもの「非認知能力」「体験格差」…行き過ぎた能力主義・学歴社会に踊らされないで! 親が持つべき視点とは?
学校の「当たり前」を考える 能力主義と子ども #4脱・能力主義社会に向けて (3/3) 1ページ目に戻る
2025.10.09
「いてくれてありがとう」を基本に
──能力主義がデフォルトの社会では、「子どものために」という気持ちが逆に子どもを追い詰めてしまうことがあります。そんな中で子も親も心身ともに健康に生きていくために、どんな姿勢、考え方が必要でしょうか。
勅使川原:保護者のみなさんは、今まで厳しい環境の中を頑張ってきました。素晴らしいことだと思います。だけど、お子さんも頑張っていますよね。まずはここまでやってきた自分も、子どもも認めてあげてほしいと思います。
子どもに対して、「私は合っているけど、きみは間違っている」「問題があるのはきみだよ」という前提で接するのが能力主義です。そうではなく、「お互いにOKだよね」と存在を認め合い、子どもを否定することをやめる。そうすると、ご自身もラクになると思うんです。
否定はブーメランになって返ってきます。自分に似たんじゃないか、育て方が悪かったんじゃないか……と苦しくなった経験はありませんか。そもそも、否定して子どもの行動がよくなるかといえば、そんなことは稀でしょう。むしろ、認めてもらえないから、わざと良くないことをしている面が大きいのではないでしょうか。

勅使川原:子どもを「よくやっている」と承認しても、保護者のみなさんの頑張りや成果は否定されません。誰かを認めると自分の価値が下がると思い込んでいる人がとても多いですが、これも隠れた「能力主義」。能力主義はゼロサム(zero-sum、ある人の取り分が増えると他の人のそれが減る)が基本なので、それを内面化していると他人を褒めるのも難しくなってしまうのです。
認める・褒めるといったケア的な行為は、すればするほど増えていくものです。お互いが幸せになりますから、出し惜しみする必要はありません。「いてくれてありがとう」「一緒にいられてうれしいよ」の気持ちを、子どもに存分に伝えてあげてください。
もちろん保護者のみなさんも、自分自身を大切にすることを忘れないでほしいです。
─・─・─・─・
勅使川原さんは、次のようにも話します。「高い専門性が必要な仕事など、能力主義が必要な世界もあると思います。でも、能力主義がすべてで、社会にはそれしかない、とは思わないでほしいんです」。
能力主義が前提の社会を生きてきた保護者は、ある意味で「それしか知らない」世代。無意識に子どもに能力主義を押しつけているのかもしれません。
すぐに考えを変えるのは難しい面もあります。それでも、今回勅使川原さんが示してくれた脱・能力主義的な考え方、優劣ではなく「持ち味」を大切にする視点を心に留め、子どもへの「こうすべき」「これくらいできないと」を少しずつ手放していきたいものです。
取材・文 川崎ちづる
【学校の「当たり前」を考える 能力主義】の連載は、全4回。
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【勅使川原 真衣 プロフィール】
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社、2022年)は紀伊國屋じんぶん大賞2024で第8位入賞。続く『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社、2024年)は新書大賞2025にて第5位入賞。その他著書多数。最新刊は『学歴社会は誰のため』(PHP、2025年)。日経ビジネス電子版と論壇誌Voice、読売新聞「本よみうり堂」にて連載中。

【関連書籍】
川崎 ちづる
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。